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家族になろう

 この世界で初めてみた湖は美しかった。

「きれー・・・」

 口をあんぐり開けて見ていてお兄様に笑われたくらいに。ルートとそろってぽかんと口を開いて見ていたのが相当おかしかったらしく、お兄様はしばらく笑っていた。お兄様ったら意外に笑い上戸?

 湖はかなり大きく、ここからは対岸が見えない。

「海みたい」

「そうだね。ここからはあちら側が見えないから。でもここは淡水だよ」

・・・お兄様。淡水は中々私の年齢ではわからない気がします。でも私はわかるので、

「そうなんですね」

大人しく納得しておいた。

「海もみてみたいなぁ」

この世界の海もこの目で見てみたい。

「ここから海は少し遠いね。でも王都からここと同じくらいの距離に海辺の保養地があるよ」

何とそれはいいことを聞いた。

「いつか一緒に行きましょう!」

「・・・そうだね。一緒に行こう」

 お兄様は優しい目で頷いてくれた。それから少しいたずらっぽい表情になって、

「王家の離宮がそちらにあったはずだから、いつか誘われるかもしれないね」

と付け加えた。

 ・・・それはどうだろう。今は割と良好な関係だとは思うけど、何にしろまだ子供だからなぁ。これからのことはわからない。私が首をかしげていると、

「おねえしゃま!」

波打ち際から、弾んだ声でルートに呼ばれた。いつのまにやら侍女に裸足にしてもらっている。ずるい。私もしたい。

「お兄様も!」

私は兄の手を引っ張ってルートのほうへ走る。本当はレディにあるまじき行為だろうけど、まだ子供だから許してほしい。裸足になって触れた湖の水は少しひんやりとしていた。水の動きを肌で感じて、ルートとはしゃぐ。キャーキャー騒いでいる私達につきあって、お兄様もゆったりと水の中を歩く。

 しばらく水と戯れた後、料理人が作ってくれたランチを食べることになった。外で食事をしたことなどないルートはそれだけでさらにテンションがあがって、いつもは食べない野菜も口にしている。

 これはすごい効果だ。うんうんと感心しながら私も食事をしていると、お兄様に頭をなでられた。

「?」

 首をかしげて見上げたお兄様は、ただ優しく笑っただけだった。・・・3人で食事をすることは何て楽しいのだろう。これからどうなるのかわからないところはあるけど、こんな時間がこれからもとれたらいいな。

 そんなことを想いながらゆっくりとランチを終えた。ランチの後は、魚を釣ることになっていた。湖まで来る途中で、お兄様がおじい様と湖で一緒に釣りをした話をしてくれて、その準備もしてきたと言っていたから、ルートと2人で楽しみにしていたのだ。

 ランチを終えて少し休憩してからいざ釣りを!と思ったけど、その休憩の間にルートはうつらうつらと船を漕ぎ始め、やがてお兄様の膝にもたれて眠ってしまった。

「今日は朝からはしゃいでいたからな」

お兄様が、ルートの頬を優しくなでる。

「釣りはまた今度にします」

「いいのかい?」

「はい。ルートと一緒にしたい」

 私もそっとルートの頬に触れて頷くと、

「そうか」

お兄様は優しく微笑んでくれた。

「また近いうちに一緒に来よう」

 そう言ってお兄様は、膝にもたれたルートはそのままに私にもそっと手を伸ばして抱き寄せた。

「これから私達は家族になろう」

「・・・はい、お兄様」

 耳元でささやかれた言葉に泣きたいような気持ちになって。それから私は心から頷いた。これからどうなるとしてもお兄様とルートと家族でいよう。そう心に決めた。

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