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1話 最低な応援

「フレェー! フレェー! アッまがさきッ! フレフレ甘ケ崎! フレフレ甘ヶ崎ぃっ!」


 そう叫ぶ彼の名前は亜神楽(あかぐら)光助(こうすけ)。この学園における応援団部の部長であり、今まさに声を張り上げて応援(・・)をしている張本人である。


 そんな彼の前で行われているのは、愛の告白(・・・・)である。どこの何クラスかしらないが、男が女の子に告白をしている青春シーン。そんな、誰にも見られたくないような場所を、数メートル離れたところから亜神楽は全力で応援している。彼のセリフに続いて、後ろの輩たちは「フレフレ甘ヶ崎ぃぃ!」と声を張った。その顔顔は必死そのものだ。


 ホント……最低なクズ野郎ばかりだな。


 甘ヶ崎とは男の方の名前ではない。その男の前にいる女子の名前だ。


 甘ヶ崎(あまがさい)鳴海(なるみ)。現在は俺たちと同じ一年生であり、学年内でもトップクラスの可愛さを持つ少女。長い髪と低い身長、瞳は丸く整った顔立ちはフランス人形にも例えられる。そんな甘ケ崎に、彼らは全力で言っているわけだ。


「(男を)振れ! (今すぐに)振れ!」


 と。全力の憎悪を込めて。


「うっさいなぁ……そんなこと言われなくたって振るよぉ」


 甘ヶ崎が鬱陶しそうにこちらを見ながら、呆れたように言った。


「そっ、そんなぁ!!」


 男が悲痛な叫びを上げる。


「あー、ごめんね。私誰とも付き合う気ないから」


 甘ケ崎は面倒臭そうに言いその場を後にする。項垂れる男。歓喜を上げる応援団たち。


 そして。


「……亜神楽くん。善き仕事だった」

「まぁ、応援するのが俺らの仕事っすからね。俺も『甘ヶ崎ファンクラブ』さんたちの力になれて良かったですよ」


 ガッシリと握手。芽生えた友情と、打ち砕かれた恋心。それらがカオスにも混じり合う光景。


 俺はそんな彼らの一番後ろで、ただ佇んでいた。


 無意識に出てきた言葉は、あまりにも虚しい一言。


「入る部活……間違えたなぁ」




――それは去年の春。この学校に入学してすぐのこと。


「入部した者には、過去先輩たちから受け継がれる『テスト対策ノート』『予想される問題集』『傾向と対策ノート』を閲覧することが出来るっっ!」


 そんな応援団の斜め上をいく部活動紹介。俺はどこの部にも所属する気はなかったものの、だからこそ、それらが魅力的に思えた。通常、部活動紹介はどこも二年生が行っていたのだが、応援団だけ三年がしていた。応援団には二年生が居らず、その斜め上の部活動紹介は、どうやら何とかして部員を確保しようという試みの一つだったらしい。


 そんな餌に吊られて集まった数十人の新一年生たちだったが、仮入部時点でその殆どが去っていった。原因は一つしかない。学校の制服が、応援団部だけ『学ラン』なのだ。


 二年前、この学校の制服が学ランからブレザーに変わった。そんな時代の流れに抵抗する応援団だけが、未だに学ランを着用している。そんな時代遅れを普段から着用したいと思う男子生徒など居るわけがなく、いくら魅力ある物を交渉材料に用いても、去っていく者たちの方が多いのは仕方ないこと。


 だから、その応援団部員らしく学ランを着ているのは、俺と亜神楽だけ。彼の後ろで声をあげていた男たちは『甘ヶ崎ファンクラブ』の者たちであり、応援団部部員ではない。


 そして彼らは、満足げな笑みを浮かべながら帰っていく。


「うっ……ううっ……」


 残されたのは、失恋した男と亜神楽と俺の三人。そして、そんな失恋男に亜神楽が歩み寄って肩をポンと叩いた。


「残念だよな? 辛かったよな? その気持ちをリア充共に復讐してやりたいなら、ぜひ応援団に入るといいぜっ!」


 勧誘である。亜神楽はフラれることを誘発した事など、まるで無かったかのような爽やかな笑顔。だが、そんなぶっ飛んだ勧誘にホイホイ入るような奴など居るわけがなく。


「お前らのせいだ……お前らの……絶対いつか後悔させてやる」


 まるで狂ったような瞳で俺たちを一瞥し、走り去ってしまった。


「残念無念。勧誘失敗しちゃったよ咎士(とがし)ぃ」


 肩を竦めてこちらを見る亜神楽。そんな彼に、俺はため息しかない。


「そんなんで入るわけないだろ」


 応援団部部員は現在二名。亜神楽裕太と、この俺、献上(けんじょう)咎士(とがし)だけである。


 これでも廃部にならないのは、学校での応援団部の歴史が厚いからに他ならない。そんな歴史の上で、俺と亜神楽は応援団らしからぬ最低な一ページを積み重ねていく。体育系の部活が大会に出ても、人数不足で出番などあるわけがなかった。


 そんな……もはやリア充撲滅とも呼べる最低な応援が日々の業務となっている俺たち二人は、みんなから『黒い悪魔』と呼ばれていた。

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