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地底の激論

 ワットウッド翁に案内されるまま、二人は地下道をひたすら進んでいく。

「既に屋敷の下からは出ているように思えますが……、一体どこまで?」

「アーサー、君はこの街の近くに鉱山があったことは知っているね」

 尋ねたイクトミに答える代わりに、ワットウッド翁はアーサーへ尋ね返す。

「ああ、君から聞いた。大したものは出ず、2、3年で閉山したとも」

「うむ。だがそれは、外向けの話でしか無い。実際の話とは異なるのだ」

「つまり実態は、組織の地下帝国を建設するための工事だったわけか」

「そうだ」

 小さくうなずくワットウッド翁の背中を、アーサー老人がにらみつける。

「一体君はいつから、大閣下に資金援助をしていたのだ?

 いや、資金のみならず、こうして地下に城を築くほどの大掛かりな工事となれば、到底秘密裏にできることではないはずだ。君は大閣下に、どこまで手を貸している?」

「手を貸していると言う言葉は適切ではないよ、アーサー」

 ワットウッド翁は立ち止まって振り返り、アーサーをじっと見すえる。

「わしはあの方に仕えているのだ。

『援助』と言う表現も間違いだ。正しく言うなら、『献身』だ。わしは心より、あの方に敬服しているのだ」

「彼の悪行を知らぬわけでは無いだろう」

「英雄はしばしば、悪人と見なされる時もある。今はまだ、評価される時ではないのだ」

「私に言わせれば、悪人はどこまでも悪人だ。千年の時を経ようともな」

「分かってくれないようだな、アーサー」

「君こそ目を醒ませ。ただの犯罪者の財布に成り下がる気か、君は?

 かつて私と共に会社を立ち上げた時、私は君にこう言ってくれたはずだ。『君の助けはこの国のかていしずえになる。歴史に遺る、素晴らしい行いだ』と。

 しかるに今、君がやっていることはどうだ? この国にとって糧に、礎になることなのか?」

「いいや」

 ワットウッド翁は大きくかぶりを振り、こう返した。

「わしも、大閣下も、この国を破壊せんとしているのだ」

 恐るべきこの発言に、アーサー老人は血相を変えた。

「合衆国の破壊――それが君たちの目的なのか」

「目的はその先にある」

 一方のワットウッド翁は、淡々と続ける。

「大閣下は2年以内に、この国を征服する計画を立てている。そして大閣下は生まれ変わったこの国の初代皇帝となり、永遠に君臨する。

 合衆国を滅ぼし、シャタリーヌ帝国を建国することこそが、われわれの最終目的なのだ」

「何故だ!?」

 アーサー老人は憤った声を上げ、非難する。

「合衆国が君たちに何をしたわけでも無かろう! 何故襲おうなどと考える!?」

「何もしていないからこそだよ、アーサー」

 ワットウッド翁はもう一度、首を振る。

「東海岸にいる連中は、西部のことなどろくに見てはいない。やれ『フロンティアスピリッツ』だの、やれ『未曾有のチャンスがある』だのと聞こえのいい言葉で貧民を焚き付けて東部から追い出し、ろくな援助もせず、ほとんど自力で開拓させておいて、失敗すれば見殺し、成功すれば湧き出た甘い蜜を吸いに、ノコノコと現れるだけの存在だ。

 これが『合衆国』か? これが『連邦』か? わしにはそんな風には思えない。事実として大多数の西部地域民は、東部地域民の奴隷に過ぎん存在なのだ。

 だが大閣下は違う。西部に根を張り、西部に基盤を築いている。真に西部地域の開拓と発展を望むならば、それが理想の姿であるはずだ。わしにはそれこそが、正しきアメリカ大陸開発の姿であると、そう思えてならないのだ」

「確かに現状の、連邦政府の西部開拓に対する態度・体質は、私にとっても大いに憂うべき点はある。憤懣やるかたない思いをした覚えも、少なからずあったことは認めよう。

 だが私には、それを口実、言い訳にして、大閣下の非道を無理矢理に正当化しようとしているようにしか聞こえん。そして事実として、大閣下は罪の無い人間をいたずらに襲い、恥ずべき罪を積み重ねているのだ。この19世紀の間、ずっとな。そしてこのまま看過すれば、彼奴は20世紀においてもなお、危害をなす存在であり続けるだろう。

 そんな未来なぞ、私は望まん! 全身全霊を以て阻止するッ!」

 そのままアーサー老人とワットウッド翁はにらみ合っていたが――やがて、ワットウッド翁が背を向けた。

「説得はできないようだね、アーサー」

「君が私の言うことを聞かぬなら、私とて君の言うことを聞く道理は無い」

「そうか」

 それだけ返して、ワットウッド翁はふたたび歩き始めた。

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