旧友との対峙
4日後、アーサー老人とイクトミ、そしてDJと、彼が集めた荒くれ者80人は、O州のクリスタルピークに到着した。
「10年……、いや、もっとかも知れんな」
「と言うと?」
尋ねたイクトミに、アーサー老人は街の奥にある、大きな屋敷を指差した。
「メルヴィンの屋敷を訪ねるのがだ。
私がまだW&Bにいた頃は、年に3~4回は訪れ、会話を交わしていたものだが、放浪に出てからは一度も来ていない。メルヴィンが私を狙っていたからな。故に私も――心情的にも、何より物理的にも――距離を置いていたが、今にして思えば、一度は訪ねておくべきだったかと反省している」
「それは何故です?」
「例え説得できなかったとしても、その心情に多少の変化は起こせたかも知れんからだ」
アーサー老人はそこで会話をやめ、DJに振り返った。
「全員前進。ワットウッド邸を取り囲んで、そのまま待機せよ」
「了解であります、閣下」
おどけた様子で敬礼するDJに背を向け、アーサー老人はイクトミを伴い、屋敷へと向かった。
屋敷には使用人などの気配は無く、玄関口にも鍵はかかっていなかった。
「入れ、と言うことでしょうな」
そうつぶやくイクトミに、アーサー老人はうなずきつつ、背負っていた散弾銃を手に取る。
「敵陣だ。油断はするなよ」
「承知しております」
イクトミもSAAを取り出し、かち、と撃鉄を起こす。
二人が扉を抜け、玄関ホールに入ったところで、両階段の奥のバルコニーに、人影が現れた。
「待っていたよ、アーサー」
そこにいたのは、この屋敷の主であり、W&Bの「金庫番」――メルヴィン・ワットウッド翁だった。
「久しぶりだな、メルヴィン」
挨拶を交わすも、アーサーは散弾銃を手から離さない。
「私がここに来た理由は分かっているだろう? 案内してくれないか」
「どうしても、やる気か?」
悲しそうな顔で二人を見下ろすワットウッド翁に、アーサーは首を横に振って返す。
「私の決意がいつでも堅固であることは、十分知っているはずだろう。
十数年ぶりの再会だが、旧交を温めようと言う気は、私にも、そして君にも無いはずだ。会話は不要。速やかに案内してほしい」
「……分かった。ちょっと、待ってくれ」
そう言ってワットウッド翁は踵を返し、よたよたとした足取りで、奥へと消える。少し間を置いて、1階廊下の奥から、ちん、と音が響いてきた。
「エレベータ、……ですな」
「うむ。ああ、君は以前に一度、ここを訪ねていたのだったな」
「……ふむ」
ワットウッド翁がやってくるまでのわずかな間に、イクトミは察したらしい。
「つまりムッシュが『地下帝国』とおっしゃったのは……」
「さよう。この屋敷には、地下階があるのだ。地下1階の宝物庫の、さらにその下にな。
エレベータはそこにつながっているはずだ」
やがて廊下の奥から、ワットウッド翁が杖を突きつつ、二人の前にふたたび現れた。
「待たせたね、アーサー。どうも足腰が弱くなってしまってな。もう階段が使えんのだよ」
「少しくらいなら待つさ。さあ、案内してくれ」
「付いてきてくれ」
ワットウッド翁に先導され、アーサー老人とイクトミは、廊下を奥へと進む。
その中ほどに設置されたエレベータに乗り込んだところで、ワットウッド翁は懐から鍵束を取り出した。
「使用人たちにも秘密にしているのでな。細工をしてある」
そう説明しながら、ワットウッド翁は昇降用レバーの隣にあった鍵穴に、鍵を差し込む。
「地下2階だけは、この鍵を外さねば降りれんようにしてあるのだ」
「一つ質問してもよろしいでしょうか」
と、イクトミが口を開く。
「何かね」
「もし下に棲む者が外へ出たいと、あるいは出る必要が生じたとすれば、その場合は?」
「それは……」
ワットウッド翁が答える前に、エレベータは地下2階へ到着した。
「着いたぞ。さあ、案内を続けてくれ」
アーサー老人に促され、ワットウッド翁はチラ、とイクトミを見て、それからエレベータを先に出た。