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アーサー老人の昔話

「なんですって?」

 突拍子も無い話を聞かされ、エミルは声を張り上げる。

「急過ぎない?」

《私には遅過ぎるくらいの進捗だ。ギルマン探しに3ヶ月余を要した上、君たちに協力するため、寄り道までしたのだからな》

「あのねぇ、ボールドロイドさん?」

 苛立ちを隠さない、一層刺々しい口調で、エミルは詰問する。

「あたしたちはギャングでも軍隊でも無いのよ? あなたにいきなり『突撃せよ』って言われて、『ハイただいますぐに臨場いたします』なんて、できるはずないでしょ?

 そもそも探偵局の人間全員かき集めたって、30人もいないわよ? 30人で吶喊とっかんなんて、ただ犬死するだけって分からない? それとも兵隊をすぐ揃えられるアテがあるのかしら、ボールドロイドさん?」

《特務局の連中なら、300人はいる。武装すれば十分、兵隊としての用は足りるだろう》

「は? あなた、局長から聞いてないの? 連邦特務捜査局は解散したのよ?」

《勿論知っているとも。私が言っているのは、その特務局の解散によって職を失った者のことだ。

 君たちのところに元特務局の人間がいると聞いているし、彼らから元同僚らに話を通せば、喜んで引き受けるだろう。

 何しろ、自分の職場を奪った奴らに復讐できる、絶好のチャンスなのだからな》

「なるほどね。でもそれだって今日、明日でどうにかできる話じゃないでしょ? 人を集めるのもままならないのに『一気に攻め落とせ』なんて、そんなトンチンカンな命令、マクレラン将軍だってそうそう下しゃしないわよ」

《それも承知している。数日程度は仕方の無いコストと考えよう。本営までの移動を除き、10日は猶予を与える。

 だが――何度も繰り返すようだが――これは我々にとって最大の好機なのだ。これを逃せば、我々に勝利が訪れることは無くなるだろう。少なくとも、20世紀を迎えるまではな》

「我々、我々って……」

 こらえ切れず、エミルは受話器に向かって怒鳴る。

「組織とあなたに、一体どんな因縁があるって言うの!? いきなり横からしゃしゃり出てきて、あれやこれや勝手な注文や嫌味ばっかり言ってくれちゃって!」

《ふむ。そう言えば話していなかったな》

 しかしアーサー老人の声に、ひるんだ様子も悪びれた様子も感じられない。先程と同様の、頑固な威圧感を含んだ、落ち着いた声で答えてきた。

《親友を、悪の道に堕とされたのだ。かけがえの無い友をな》

「……その話、長くなるのかしら?」

《なるとも。とは言え、私も今散々、時間が無いと繰り返した身だからな。極力省略しよう。

 君がまた金切り声を上げる前には、話し終えるつもりだ》




 10年以上前の話だが、君も知っている通り、私はかつて鉄道会社の最高経営責任者、社長だった。

 しかし、ただ社長だなどと偉そうにふんぞり返ってみたところで、それだけで線路が勝手に引けるようなものでは無い。当然、事業には資金が必要だ。それも庶民のコップ一杯程度の感覚から著しくかけ離れた、ナイアガラ瀑布のような、怒涛のカネがな。

 それを開業当初から用意してくれたのが私の友人、メルヴィン・ワットウッドだったのだ。


 南北戦争を終え、諜報員としての兵役から開放された私は、戦争中に温めていたアイデアを実現させるべく、彼の元を尋ねた。

 彼の家は先祖代々続くイングランドの資産家で、彼の祖父も、新たな投資先を求めてこの国にやって来たと聞いている。その祖父もその息子、即ち彼の父親も、それなりに事業を成功させ、合衆国に新たな資産を営々と築いてきたが、彼にとって、そして社会にとって残念なことに、彼自身はそうした商才を、父や祖父から受け継いでいなかったのだ。

 有り余る資産をただ眺めているだけだった彼は、私の話を聞くなり、こう返してきた。「君を全面的に信用し、資金を提供する。君なら確かに、資金さえあればそれらのアイデアを実行に移せるのだろう」と。……これは誇張でも自慢でも無く、単なる事実の列挙だよ、ミヌー君。彼はその時本当に、私にそう言ったのだ。

 そして、こうも言った。「その代わり、君には決して、私を人間扱いすることをやめないでほしい。私がカネしか取り柄の無い、情けない男だと分かった途端、誰も彼も、私を人ではなく、金庫としてしか見なくなってしまうのだ。私のことを誰も、人間だと見てくれはしないのだ」とね。

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