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西へ、東へ

「それでDJの身柄は?」

 尋ねたアーサー老人に、パディントン局長は肩をすくめて返す。

「速やかにK州刑務所に収監されたよ。この周辺じゃあ、一番厳重なところだ」

「ずいぶん早いな。裁判は?」

「勿論行われたよ。1時間で終わったそうだ。

 証拠は集めておいたし、陪審員もどう言うわけか、クリスタルピークの人たちばかりだったそうだから、5分も話し合わない内に満場一致、すぐ有罪になったと聞いている。

 彼は少なくとも後50年は、外の空気を吸うことはできまい」

「結構なことだ」

 アーサー老人はばさっと新聞を机に投げ、ため息をつく。

「しかし今回の件では、君にまた迷惑をかけてしまったな」

「慣れっこさ」

 そう返すパディントン局長に、アーサー老人は苦い顔を向ける。

「残念なのは、これでまた、組織の手がかりが無くなってしまったことだ。例えDJを拷問し痛めつけたとしても、恐らく奴は、大した情報を出しはしまい」

「だろうね。彼は打算的な男だ。

 仮に組織について知っていることを洗いざらい話して司法取引を成立させ、釈放されたとしても、その3日後にはカリフォルニア湾かメキシコ湾を漂う羽目になるだろう。組織が裏切り者を許すはずもないからな。

 となればむしろ、刑務所の中で慎ましく過ごす方が、彼にとっては安全だ。当然の帰結として、彼は黙秘を通すだろう。例え絞首刑と天秤にかけられたとしても、彼にとっては『どっちにしても死ぬなら一緒だ』としかならない」

「忌々しいことですな」

 アーサー老人が投げた新聞を読みつつ、イクトミが首を振る。

「ムッシュ・ボールドロイド。次はどこを探します? 当てはあるのですか?」

「いや……」

 アーサー老人が答えかけたところで、パディントン局長が割って入る。

「無いことは無い。DJやワットウッドが言っていたろう? 『自分たちには2年以内に合衆国を征服する手段がある』と。

 常識的に考えて、そんな手段をもし本当に講じているとするのならば、決して一朝一夕に準備が整えられるはずが無い。必ずどこかで、その準備を進めているはずだ。勿論、本来の目的は隠した上で進めているだろう。例えば『新規路線の延伸作業を行っている』だとか、『大規模鉱脈の可能性があるため試掘の最中だ』だとか、それらしい理由で広大な土地を占拠しているはずだ。

 時間は多少かかるかも知れないが、それでも私のツテやLの情報網を駆使し、そして君の実地調査を続ければ……」

「いずれは見付かるだろう、と言うことか」

 アーサー老人はもう一度ため息を付き、長年の放浪生活ですっかり色あせたカウボーイハットをぽん、ぽんと叩く。

「やれやれ、まだ私は隠居させてもらえんようだな」

「うむ。わたしも君も、まだリタイアするには若い。

 昔、誓っただろう? 『SとHの分まで長生きしてやろう』と。お互い、達者でいようじゃあないか」

「はは……」

 アーサー老人は苦笑しつつ立ち上がり、こう尋ねた。

「君はまっすぐ『巣』に戻るのか?」

「いや、皆に伝えていた通り、DCに寄るよ。本当に行かないままじゃあ、話の辻褄が合わなくなってしまうし、何より向こうの友人に失礼だからね」

「そうか。……じゃあ、元気でな」

「うむ。君もね。定時連絡を忘れないように頼む」

「ああ」

 アーサー老人がテーブルから離れ、イクトミもそれに続いて立ち上がる。

「またこうしてお互い、息災のままで再会できることを楽しみにしております」

「同じく。Aのことは頼んだよ。頑固で無鉄砲な男だから、今回のようにまた、困らせられることがあるかも知れないがね」

「承りました。それでは」

 恭しく敬礼し、イクトミもサルーンを後にする。

 一人残ったパディントン局長は、コーヒーを飲みながら、ぼそっとこうつぶやいた。

「チェスの駒は1つ、1つと消えている。今回、また犠牲者が出たことは、誠に悔やむべきことだが――それは我々も、相手も同じことだ。

 駒を失わせる度、我々はお前に、確実に近付いている。最後にチェックメイトを宣言するのはこのわたしだ、シャタリーヌ」

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