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狡知と悪知恵

「あのおっさんな、組織の方でもいい加減、『お役御免』にしようって話になってたのさ。後任も育ったしな」

「後任? 貴様のことか」

 アーサー老人が語気荒く尋ねたところで、DJの手下の一人が銃を彼に向けたが、DJはそれをやんわりと抑える。

「待て、待て。まだ話し終えてないからよ。撃つのはもうちょっと待ってくれや。

 ま、そう言うことさ。加えて、ギルマンは確かに兵站担当として優秀な奴だったが、秘密主義がちょっとばかり過ぎてたんだ。大閣下にも秘密のコネクションをやたら作ってたし、もしギルマンが叛乱しようものなら、結構面倒なことになりそうだった。

 だもんで、そんな気を起こす前に始末しちまおうって話になった。だけども、俺たちが直接手を下したってしょうがない。もっと効果的なやり方をしようってことになった。

 丁度今、反乱分子を潰して回ってる最中だったしな」

「どう言うことだ?」

 アーサー老人が再度尋ねたところで、DJは噛み煙草をペッと吐き出す。

「この1年ほど、アルジャン兄弟の兄貴の方が中心になって色々騒いでたからよ、アルジャン兄を捕まえようとする奴らが出始めたんだが、そいつらの中に、そのバックにいる組織の存在にも勘付く奴らもいたんだ。

 今年、来年中には征服するつもりじゃいるんだが、まだ正面切って戦うにはちょいとばかり早い。そこで色々手を回して、取り潰していったってわけさ」

「連邦特務捜査局を潰したのも貴様らの仕業か? 司法省に貴様らの手先がいると言う話は、本当なのか?」

「ああ。ま、そっち方面は俺の担当じゃないから、詳しいことは分からんがね。

 ま、その特務局だとか、探偵局だとか、色々手練手管を使って、潰してやったよ。勿論単独行動で動くような、あんたみたいな奴もな」

「つまりギルマンを私に討たせたのは、はじめから貴様らの計画の内だったのか」

「そこにいる金庫爺を組織に引き込んだ張本人は、ギルマンのおっさんだからな。正直、俺たちにもあのおっさんを探そうってなると骨を折るんだが、あんたなら執念深く、撃ち殺してくれるだろうと踏んでた。

 加えて、『ギルマンを倒せば組織は兵隊を動かせなくなる。勝機到来だ』と思い込んで、胡散臭い話にもホイホイ飛びつくであろうこともな」

「……!」

 これを聞いて、アーサー老人の顔が青ざめた。

「あんたは自分が優秀だ、誰より頭のいい智将だと自惚れてたみたいだが、上には上がいっぱいいるんだぜ?そう――ジャン=ジャック・ノワール・シャタリーヌ大閣下は、あんたなんかよりももっと、明晰な頭脳の持ち主だってことだ。

 今回のことを含め、一連の探偵潰しはすべて、あの方が計画されたことだ。標的すべての性格と行動を見抜き、どう動くであろうかを完全に読み当てたんだ。

 あんたは大閣下に、会わずして負けたってことさ」

「くそ……ッ」

 アーサー老人は顔をくしゃくしゃに歪ませ、その場に崩れ落ちた。

「さーて、と」

 それを見下ろしながら、DJはまた噛み煙草を口に入れる。

「もう満足したから、そろそろ蜂の巣にしちまっていいぜ」

 その号令を受けて、手下たちは一斉に銃を構えた。


 その時だった。

「ん、……んん!?」

 DJが左手に持っていた煙草缶から、もくもくと煙が上がり始める。

「うぶっ、……おえっ、ぶほっ!?」

 DJの口からも白煙が吹き出し、広間は瞬く間に煙で包まれた。

(このやり口、……あいつだな)

 ぼそ、とアーサー老人がつぶやく。

(イクトミ君、この場を離れるぞ。正面突破だ)

(承知)

 煙に巻かれ、敵が右往左往している隙を突き、アーサー老人とイクトミは大広間から脱出した。


 大広間の奥へと向かい、どうにか急場をしのいだアーサー老人は、そこで背後を――イクトミの方ではなく、今来た道を――振り返る。

「F、君だろう? 相手が勝ち誇っている最中に堂々とコケにするような、あんな芝居がかったやり口は、君のようなスレた人間にしか思いつかんからな」

「随分な言い草だな、A」

 飄々とした声と共に、奥から「F」――パディントン局長が現れた。

「助けてやったと言うのに、あんまりじゃあないか」

「それについては素直に礼を述べよう。ありがとう、助かった」

 そう返し、アーサー老人は深々と頭を下げた。

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