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陥穽

 エレベータを出て5分ほど歩いたところで、一行の前に広い空間が現れた。

「ここが地下帝国のエントランスと言うわけか」

「……」

 ワットウッド翁はアーサー老人に答えず、背を向けたままでいる。

「ムッシュ・ワットウッド」

 と、イクトミが口を開いた。

「ここには人の気配が無いようですが、大閣下はどちらに?」

「……」

 イクトミにも応じず、ワットウッド翁はランタンを手にしたまま、立ち尽くしている。

「ここはもぬけのから、と捉えてよろしいのでしょうか」

「……」

「何も答えていただけない、……いや、答えようにも困惑していて頭が回らない、と言ったご様子ですな」

「……っ」

 わずかながらもランタンの灯りが揺れ、ワットウッド翁が動揺したことを、アーサー老人は悟った。

「何を困っている? 今更、自分の身の振りを迷ったわけでもあるまい」

「察するに、助けが来ないことに戸惑っておられるのでは?」

 この一言にも、ランタンが揺れる。

「助けだと? ……まあ、確かにたった一人で私たちを出迎えるような豪胆な真似を、君がするはずも無い。ここで仲間と共に囲むつもりだったのだろう」

「そ、……そう、だ」

 ランタンをカタカタと揺らしながら、ワットウッド翁が切れ切れに答える。

「こ、ここで、君と大閣下を、対面させる、はずだった、のだが」

「ふむ」

 アーサー老人は広間を見渡し、こう尋ねる。

「そう言えば、さっきイクトミ君が質問したことについて、君は答えていなかったな?

 もし出入り口があのエレベータ一つと言うなら、『地下』帝国としては致命的な欠陥だ。何故なら空気の取り込みが十分にできないからだ。如何に大閣下が怪人的な存在であろうと、そんな造りでは窒息は避けられまい。

 さらに言えば、あのエレベータだけでは、地下帝国を築けるほどの人員や物資を運び込むのは難しい。掘った土砂を外に出すことも然りだ。

 そう考えれば、他に空気孔の役目を併せ持った出入り口があって然るべきだ。先程触れた鉱山の件からも照らし合わせれば、そこにもう一つの出入り口があるのだろう。

 そこから考えれば、……むう」

 朗々と自分の推理を語っていたアーサー老人が、そこで苦々しくうなる。

「先にこの可能性に気付くべきだったな。であればそこから、兵隊を送ることもできたろうに」

「そう思って」

 と、奥からぞろぞろと、人が現れる。

「その鉱山から来てやったぜ、ボールドロイドさん」

「おお、DJ君。抜け目が無いな」

 アーサー老人は顔をほころばせかけたが――ふたたび、しかめさせた。

「……鉱山のことを何故、君が知っている?」

「そりゃあ知ってるさ」

 そう答えつつ、DJは右手を上げる。

 その号令に応じ、彼の背後にいた荒くれ者たちが、一斉に武器を手に取った。

「俺がここの監督だったからさ」

「……はぁ」

 その返事を聞いて、イクトミが顔に手を当て、ため息を付いた。

「ムッシュ、やはり罠でしたな」

「そのようだな。DJ、貴様も組織の一員だったと言うわけか」

「そうさ」

 DJは懐からじゃら、と猫目三角形のネックレスを取り出し、ニッと口角を上げる。

「改めて自己紹介させてもらうぜ。

 俺の名はダビッド・ジュリウス・ヴェルヌ。親父の代から大閣下にお仕えしてる、忠臣の中の忠臣さ。

 ちなみにお聞きの通り長い名前なんで、よくファーストネームとミドルネームをくっつけて呼ばれてる。『DJ』だとか、『ダリウス』だとかな」

「ダリウス……!?」

 その名を聞き、アーサー老人は一層苦い顔になる。

「貴様がティム・リード強盗団事件をはじめとして、西部各地の鉄道犯罪に加担していると言う、あのダリウスだったのか」

「そうさ。……ま、ちょいと説明と自慢、させてくれや」

 そう言って、DJは噛み煙草を口に放り込む。

「あんたがギルマンを討ったってことは知ってる。いや、正確に言えば、俺達がギルマンをあんたに『討たせた』んだ」

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