安息13
次の日の早朝、冒険達がジークを囲って保存食を食べている。
皆、不安なのだ。だから、今この冒険者達のリーダーのジークに集まっている。
声は聴こえない。誰もが何も喋る事はなく、食事を取る音だけが聴こえる。
皆が食事を取り終わった後、ジークが声を出した。
「皆、今日は怖いだろう。俺も怖い。だけど、奴らを倒せば報酬金が手に入る。それで一杯やろう」
全員が苦笑していた。こんな時に何を言っているんだと。
でも、ジークの笑顔を見ていると、皆の強張った顔が少し、解れたようだった。
ジークはやはり指揮官の才能があるな。
まぁ、私にはそんな才能ないけどさ。
でも良いさ。私はより多くのオークを倒せば良いんだ。
そうすれば、皆が安全になる。
その為に努力するべきなのだ。
「お兄ちゃん。無理はしないでね?」
リリィが声を掛けてくる。自分の顔はそんなに張り詰めていたのだろうか。
いや、そうなんだろうな。
なにせ、大勢の人の命が掛かっているんだ。
「大丈夫さ。帰ったら、リリィの好きな物を食べに行こう」
「うん。楽しみにしてる」
笑顔で返すと、リリィも笑顔になった。
大丈夫さ。私が何とかしてみせるよ。
その後、ジークから冒険者達に正面に立つ冒険者達。左側面。右側面の担当を告げられていった。
「で、リリィちゃんなんだけど。アニキこの子は戦力として計算しても良いんですかね?」
「ああ、問題ないぞ。水と土の魔法使いだ。かなり優秀だから期待してもらっていい」
「うん。任せて」
「じゃあ、正面の部隊で、後方から魔法をお願いするよ」
「わかった」
リリィは正面の部隊か。まぁ、一番人数の多い場所だし、問題はないだろう。
「では、各自戦闘準備をしてから持ち場に着いてくれ!」
ジークの声で冒険者達は散って行った。
「リリィ。余り無茶はするなよ」
「うん。お兄ちゃんもね」
「分かってるさ」
そう言葉を交わしてリリィと離れる。
オークの大群が現れたのはそれから一刻後の事だった。
それは森に黒々と蠢いてゆっくりと歩いてくる。
大地が揺れているようだ。
皆誰もが震えていた。金属の鳴る音がカチカチと響く。
私の手も震えていた。
120人こちらの4倍の数だ。圧倒的な戦力差だ。
こんなちんけな防護柵じゃ直ぐに突破されそうに見える。
でも、そんな事誰も言わない。
いや、言えないのだ。
恐怖で怯え、防護柵に頼るしかない。
森の中から120人のオークが現れると、大きな鳴き声が響いた。
それは豚の鳴き声のようだ。
だが、それに呼応するかのように他のオーク達も鳴き声を出す。
耳が割れそうだ。
まるで大地が震動しているかのようだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ジークが叫び声を上げた。それに呼応して、他の冒険者からも次々に鬨の声が響いた。
そして、戦線が開始した。
オーク達は最初、正面から防護柵を破壊しようとしているのか突っ込んでくる。
敵のオーク達の武器はただのこん棒だ。
そう簡単に防護柵は壊れはしない。
冒険者達は雄たけびを上げながら防護柵の隙間から剣や槍を突き出し、オークを倒していく。
だが、倒しても直ぐにその後ろのオークが現れてくる。
次第に防護柵に返り血が付いて、目の前に死体が積まれていった。
あぶれたオーク達は側面に周り込んだ。
遂に、側面部隊の交戦だ。
側面部隊は人数が少ない。
だが、ジーク達のパーティーと他のCランク冒険者が守っている。
正面よりは頼れるだろう。
ちらりとリリィを見る。水の精霊を3体出して、野球ボール大の氷塊を矢継ぎ早にオーク達に浴びせて居る。
その氷塊の衝撃に潰されてオーク達が潰されていった。
正面は突破されそうにないか?
と、右側の正面の防護柵が軋んでいた。
見ると冒険者が持ち場を逃げ出したようだ。
右側面の冒険者がカバーに入った。
だが、今度は右側面の戦況が厳しくなっていく。
そろそろ行くか。右側面が危ない。
このままでは十中八九突破されてしまうだろう。
その前に敵を片付けよう。
魔闘気を穿で纏い、右側面の防護柵の外から敵に向かっていく。
オーク達はまさか横から敵が来るとは思っていなかったのか、気づかずに斬り倒されていく。
斬り倒しながら先に進む。
何度も何度も敵を斬っていく。
死体が周りに山のように積み重なっていた。
斬った数は10か15はくだらない
右側面の敵は片付いたか! このまま、正面に周り込むぞ!
正面に周り込んで、敵の横っ腹を斬りながら突き進んでいく。
「おらああああああああああ!」
斬り倒し、死体を踏みつけながら、オーク達を蹂躙する。
すると、正面の中央に巨大なオークを発見する。
大きさは2m弱。他のオークよりも1.5倍は大きい。
これが変異種か! オークキングだな!
オークキングに向かおうとすると、オークの群れがそれを阻む。
だが、それを斬り倒す。
周りに死体の山が出来る。
20体は倒しただろうか。
「ハァ……ハァッ」
息が切れてきた。それでも剣を振るう。
腕が鉛のように重たい。
剣に血が付着して切れ味が落ちている。
それを補うために浸を使っているが、魔力の消費が思ったより大きいようだ。
まだ、余力はあるがそれもあと半分程ってとこだろう。
オークの群れは防護柵を無視してオークキングを守るかのように迫ってきていた。
マジかよ! こんな大勢相手にしてられないぞ!
その時、氷塊が雨のように降り注いで、防護柵から離れてきたオークの背中に突き刺さる。
リリィか! ありがたい。
今はもうオークキングの周りには10体程度しかいない。
「でりゃあああああ」
上段の構えで敵を斬り倒し、続けて逆袈裟に斬り倒す。
横薙ぎで2体を同時に両断した。
迫る、敵を斬り伏せながら突き進む。
もう、オークキングの周りにオークはいない。
「さて、一対一だぞ豚野郎。散々手古摺らせてくれたな!」
オークキングも覚悟を決めたのかこん棒を持ってこちらに向かって来る。
敵との距離は6間。まだ、必殺の間合いではない。
オークキングも危険を感じたのかそれ以上、迫っては来ない。
ジリジリと少しずつ、すり足で前に進む。
喉に渇きを感じる。
息がヒリヒリするような緊張感だ。
敵との距離は5間。ギリギリ届く距離だ。
炎を使えば届く距離だ。
だが、確実に倒すならまだ近づくべきだ。
炎を使ってその場に魔力切れで倒れたらそれこそゲームオーバーだ。
そんな博打は打てない。
私は生きて帰らなくてはいけないんだから。




