表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さようなら はじめまして  作者: 鈴木 淳
第一部 覚醒
7/94

目覚め6

訓練を初めて半年が経った。今も変わらず瞬動と打ち込みを繰り返している。魔闘気の流し方も慣れてきて、より早くスムーズに出来るようになっていた。ちなみに木杭は私が壊し過ぎたため、ギルド長に訓練に使うことを禁止されてしまった。

今は、何もない空間を往復しながら打ち込みを繰り返していた。


「アラン。そろそろ、紫電の太刀を開始してみろ」


ギルド長にそう声を掛けられた。ついに、紫電流の奥義を習得する時が来たのか。少し身震いしてきた。


「はい、わかりました」


木杭はないが、左腰に木剣を収め、居合切りの構えをする。足に魔力を込めて爆発的に踏み込む。そして、逆袈裟に木剣を振り上げた。


「ふむ。まだ、魔闘気の流れが乱れているが様になっている。今度からは魔闘気の流れを淀みなくかつ早く流せるように鍛錬しろ」


「はい!」


私は紫電の太刀がある程度できていることを認めてもらったかのように思い、柄にもなくはしゃいだ。


「アラン。話がある。近々、二ヶ月ほどだが、首都に行かねばならない。その間、鍛錬を見てやれんのだ」


「そうですか……それは仕方ありませんね」


「ああ、ワシも惜しいが、その間、ワシの倅に鍛錬を頼んだ。」


「え、アレンさん戻ってくるんですか? 新規ダンジョンの調査依頼についてはひと段落したってことですかね」


「うむ。そうだ。 あやつは紫電流の使い手ではないが、野伏としての戦いや知識、それに月影流の上級だ。違う流派だが、良い刺激にもなる。教えを乞え」


「月影流……新しい流派ですね。これはどんな特徴が?」


「それは身をもって体験するのが一番良いだろう。まぁ、楽しみにしておけ」


「はい。そうですね。アレンとはもう半年ほど会ってないから今から楽しみです」


「そうか。まだワシも5日はいるからその間は紫電の太刀を練習しておくんだぞ。それと、アレンと模擬戦をするにしても、決して木剣に魔闘気は使うなよ。最悪、死ぬ可能性もあるんだからな」


5日後、ギルド長が首都に出向いていった。確か二ヶ月は戻らないと言っていたので、その間はギルド長の扱きもなくなったということだ。

一応、アレンが訓練を引き継いでくれるらしいが、どのような訓練をするのか楽しみであり、不安でもあった。

あれ、私ってこんなに訓練好きだったっけ。でも、確かに少しづつ着実に強くなっている感覚はとても気持ちが良いものだ。紫電の太刀が出来たとき等、喜びも一塩だった。


いつも通り、午前は冒険者ギルドで仕事をした後にエリカが、修練所の入り口から現れた。私は訓練している手を止めて、彼女の方に向かう。

エリカはほぼ毎日のように彼女がお弁当を作ってくれるので、一緒に食べてから訓練を開始する事にしている。

彼女は魔道具で魔法適正を調べた事があった時から毎日、お弁当を作ってくれて、私の修練の様子を夜になるまで見学している。どこが面白いのか私にはわからないのだが、本人曰く「そんなことはない!」とのことだ。まぁ、本人が退屈していないならそれでいいのかな。


 シートを床に広げて、ランチボックスを開ける。今日はバゲットの上にハムととろけたチーズがのっている。焼けた香ばしいチーズの匂いが食欲をそそる。


「ありがとう。エリカ。今日もとてもおいしそうだね」


「ふん。どうもありがとう。感謝して食べなさい」


彼女にお礼を言うと、いつものように顔を仄かに紅くしながらそっぽを向く。彼女の態度に相変わらず素直じゃないなぁと苦笑いしながら笑う。


「お、アラン! ……にお嬢もいるじゃねぇか!」


入り口からゆったりした歩みでアレンが降りてくる。彼は手を気だるげに上げて、近づいてくる。


「アレン! 久しぶりだね。ダンジョンの調査は一段落したのかい?」


アレンは私の隣に「よっこいせ」と腰を下ろす。


「ああ、ダンジョンの上層についてはある程度マッピング出来たんだ。だがな、まだ下層がある事が判明しちまってさ。俺一人じゃそこまで長居も出来ないってことで、Cランクの5人組パーティを呼んで調査してもらうことになったんだ」


彼は「つまりは、お役御免ってことだな」と言って、頭を掻く。確かに、アレンは一人だけだからな。町からダンジョンまでの道。それに、未だ底がわからないダンジョンの下層では、食料も準備も足りないってことだろう。そのための、中人数のパーティーへの引継ぎってことなんだろう。


「あら、アレン。お久しぶりね。元気そうでなによりだわ」


「おう。お嬢も元気そうだな。冒険者ギルドの中に衛兵がいたから、もしやと思ったら本当にいたよ」


「ええ。お父様の親馬鹿にも呆れるわ。この町で暴漢に襲われることなんてないのに。それに襲われそうになったら私がコテンパンにやっつけるわよ」


確かに、エリカは光の乙女様だからね。余裕だろう。


「まぁ、お嬢は俺ら一般市民にも人気があるし、良く街中歩いてるから親近感もあるしな」


「えっと、アレンはエリカと知り合いで良いのかな?」


「ああそうだな。ま、ギルド長の息子と領主様のご息女ってことで昔からちょっとな」


ギルド長と領主様はかなり仲が良いって話を聴いたし。その子供のアレンとエリカも知り合いなのは当然か。でも、お嬢ってのは気安くないか? まぁ、エリカの正確なら気にしないだろうけど。


「ま、仕事の方は落ち着いた。そういうことで親父からアランの訓練を引継ぐ事になったってわけだ」


アレンはそう呟いて、ランチボックスからバゲットを取り出して、口に咥えた。


「あぁ! アレンさん! それは、アランの為に作ったのよ。勝手に食べないで!」


「良いじゃねえかお嬢。こんなにあるんだし、味も良いぞ!」


「…ん…まぁ、多少多めに作ってはいるけど! それにしたって何か一言くらいあって良いんじゃないの!?」


「じゃあ、ちょっくら頂くぜ! ありがとな」


「まったく! もう、良いわよ」


アレンは二口目に手を付ける。流石アレンだな。この町の領主様の娘に対しても変わらない態度。まったく凄い大胆な男だ。私は変わらないアレンの姿に笑う。

私もバゲットを口にする。焦がしたチーズとハムのおいしさに舌鼓を打つ。


「うん。いつも通り美味しいね」


「そ、そう? ならよかったわ」


「ほう……いつも通りだって? まさか毎日、弁当を用意して貰ってるのか?」


「うん。そうだよ。ありがたいよね」


「もしかして、手作りなのか? お嬢」


今度は、エリカに向けて目を細めて聴いてくる。なんだか嫌な予感がする。


「……そうだけど、なにか!?」


「ほほう……領主様のご息女に毎日、弁当を作って貰っていると!」


アレンは嫌らしい笑みでニヤニヤと私とエリカを見ている。


「それは、それはアランはお嬢にとても愛されてるなぁ!」


「愛って! ゲホッゲホ」


「あ、あああああああああああ! 愛ってそんな、そんな事ないわよ!」


うっ器官に入った。息が苦しい。それにしても、なにを言ってるんだアレンは! エリカも顔を真っ赤にしないで欲しい。本当みたいじゃないか。


「じゃあ、なんだってんだ? なんでもない男に? 意味もなく弁当を毎日! 手作りで! 用意していると!」


「もおおおおおおおおおおおお! アレンのバカバカバカ! おたんこなす! 意地悪!」


「ウッウッ。おい、ボディは止めろ! 食べたもんが出てくるだろ」


「アレンに食べさせるものなんて一つもないんだから! 吐き出しなさい!」


「淑女がそんな事言うもんじゃないだろ。悪かった。悪かったから止めてくれ! 降参だ」


どうやら一連のやり取りは終わったみたいだ。私は、突かれないように気配を消して隅っこで昼ご飯を食べるのだった。


「んで、アランはいったいどこまで上達したんだ? 親父からは手に余る才能だって言われてるんだが」


昼食後、アレンがだらんと足を伸ばして気だるげに聴いてくる。


「え、ギルド長がそんな事言ってたの? 初めて聴いたよ」


「げっもしかして言っちゃいけない奴だったか? 悪いな今のは忘れてくれ」


「アランはもう紫電流の瞬動と紫電の太刀を使えるようになっていますよ」


「うん。そうだね。紫電の太刀はつい最近、教えてもらった程度だけどね」


「……ほう。そうか。じゃあ、木杭に打ち込んでみてくれ」


アレンは急に目を細めて、こちらを見やる。その視線からはもう気だるげな目はなくなり、張り詰めた空気がひしひしと伝わってくる。一瞬で空気が変わった様子にエリカも何を言っていいのかわからないようだった。


「……わかった。じゃあ、行くよ」


木杭に視線を向けて木剣を上段に構える。後ろからアレンの視線を受けながら木杭に対峙する。


「ハアアアアアッ!」


魔力を込めた後ろ足で大地を蹴り、右袈裟に木杭を抉る。そして、大地を滑るように進みながら、振り返り、振り下ろした木剣を居合の構えに持ち変える。


「ハッ!」


瞬動にて加速したスピードのまま魔力で強化した両手で木剣を一閃。

木杭には右袈裟に第三関節の切り込みが、逆袈裟に指から手首程の長さの切り込みが入っている。


「……凄いな。瞬動に最後の紫電の太刀は一撃目よりも威力もスピードも桁違いだ」


「本当かい!? ありがとう」


アレンはエリカに向かってなにか問いただしている。


「……恐らく、紫電流の中級……いや、上級に手を……。物凄い才能だ」


「まさか、そこまでとは……」


「アランは毎日、訓練を……」


「ええ。平日は午後から夜も寝るまで……。休みは早朝から夜……」


「なるほどな。才能だけ……、体力の限界まで……みたいだな」


なにか二人でゴソゴソと話しているようだ。途切れ途切れにしか聴こえなかったが褒めてくれているようだ。なんだか自分の事なのに恥ずかしいな。


「よし! じゃあ、アレン今度は俺といっちょ模擬戦してみるか」

かにそう言った。


「うん。宜しくお願いします」


「おう。掛かって来い!」

アレンは修練所の隅にある武器庫から短めの片手木剣と小盾に投擲用の投げ木ナイフを7本程腰のベルトに差し込むと爽や


距離は大体、3間。人が3人分ってとこかな。私は、上段に構える。アレンは正眼に構えてこちらが打ちかかってくるのを待っているようだ。

私は瞬動を使い、一気に間合いを詰めると右袈裟に振り下ろす。瞬間、アレンは両腕を十字に構え小盾と木剣で振り下ろしを受け止める。


「っおらぁ!」


そして、木剣でこちらの木剣を足元にいなして、宙返りで回転しながら背の右肩に振り下ろしが一閃


「うっぐぅ!」


身体の捻じりと力での振り下ろしだが、瞬動で加速された分と上からの重さに、威力は桁違いに上がっている。身体を堪えて、アレンを通り過ぎる。大地を大きく踏みしめて、渾身の紫電の太刀を繰り出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ