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さようなら はじめまして  作者: 鈴木 淳
第一部 覚醒
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目覚め5

「あ~やっぱりここにいた」


ふと、声がかかったので修練所の入り口を見やると案の定、エリカがいた。エリカが歩いてくるのを見て、上半身を起こす。


「今日って冒険者ギルドの仕事休みなんでしょ? もしかして、朝からずっと訓練してたの?」


「うん。そうだよ。他にやることもないしね」


「うわ~……流石に毎日訓練なんてちょっとおかしいんじゃないの? ほら、両手出して!」


エリカの有無を言わさない物言いにすごすごと両手を出す。


「ひっどい。両手とも血豆に内出血までしてる! まったく、今日は魔法適正調べるって言ってたのに無茶しないでよね!」


「ごめん」


「ごめんじゃないでしょ。まったく。……ヒール」


エリカの身体から真白の光が彼女の手を通して私の両手を包み込む。温かい。血豆や内出血で真っ黒になっていた両手がきれいに治っていた。


「おー……今までは気絶してたから見てなかったけど、回復魔法ってこんな感じなのか。なんか温かい」


「感謝してよねー。回復魔法が使える人は少ないから希少なのよ!」


「これが私もできれば、訓練も休まずに続けられるね」


「まったく、訓練バカなんだから……。それより、その……さ」


どうしたんだろうか。いきなり、エリカがもじもじし始めた。なにか言いにくい事でもあるのだろうか。


「あの! お昼ご飯作ってきたんだけど……食べる?」


「おぉ、ありがとう! 是非、食べるよ! 美少女からの手料理なんて幸せ者だね」


エリカに向けてにっこりとほほ笑むと彼女は顔を赤くして俯いた。


「び、美少女って……ふ、ふん! ありがたく食べなさい!」


「この前は自分で美少女って言ってたのに」


「自分で言うのと、言われるのは違うのよ!」


その言葉に笑うと、顔を真っ赤にしてわき腹を軽く叩いてくる。


「いた、痛いって。悪かった。悪かったよ」


「もう、からかわないでよね!」


その後、彼女はシーツを広げて、ランチボックスを開ける。中にはハムやチーズにピクルスを挟んだサンドイッチが入っていて、どれもおいしく食べさせて頂いた。有無、ありがたや。


「んで、本題に入るけど、今から魔法適正を調べましょうか」


「おお、そうだね。私も気になってたから楽しみだ」


彼女は鞄からソフトボールくらいの大きさの水晶玉を取り出して地面に置いた。


「これが、魔法適正を調べる魔道具よ。使い方はこの水晶玉に魔力を流し込むだけ。そうすると、自分に適した魔法の色に発光するってわけ」


「へぇ……ちなみにエリカは何属性使えるの?」


「ふっふっふ! 聴いて驚きなさい。火、水、風、土、日の五属性よ」


エリカは胸を逸らせて大げさな素ぶりで言うが、実際どのくらい凄いのか私にはわからない。


「おー……でも、一般の人がどのくらい使えるのかわからないからどの程度凄いのかわからないや」


「あー……それもそうね。えーとね。一般人はできて一属性よ。出来無い人も多くないわね。名の知れた騎士や冒険者なんかでも二から三属性で五属性出来るのは30年に一人いるかどうかってところよ。全属性出来る人ってのは未だいないみたいだけどね」


「えっ! じゃあエリカって本当に凄いんだね。流石、光の乙女様!」


「そうよ! もっと有難がりなさい!」


「ははー……」


その後、自分の魔法適正を調べる事にする。


「魔道具に両手をかざして、頭の中で念じなさい。魔闘気が出来るんだから魔力を水晶に流し込むような感覚でやってみると出来ると思う」


「わかった」


水晶に両手をかざして、魔闘気を纏い両手から水晶に流し込むイメージを念じる。


「んん?」


なにか、エリカが不可思議そうに唸ったが、気にせず魔力を流し込む。


「エリカさーん。まだですかね」


「アラン。あなた、魔法適正ないわ。これっぽっちもないわね!」


「え? 本当に? 嘘じゃなくて?」


「うん。本当よ。水晶が何色にも光ってないもの。適正があるならなにがしかの色が水晶から見えるんだけど、何も変化なし。つまり、適正なしね」


ガーン。まさか、魔法適正がないなんて……。こう、異世界にきたなら魔法チートとかそういうもので無双するのが夢だったのに。魔法が一切使えないなんて……。


「そ、そんなに落ち込まないでよ。ね? ほら、大抵の人は使えない人が大勢いるんだし、さ? でも、魔闘気も纏えてるし、魔力量も相当あるように感じたんだけど一体どうして適正がないのかしら」


「ん……魔闘気ってもしかして魔法適正ない人でも出来る魔法なの? あと魔力量が多いって聴こえたんだけど」


「そうね。魔闘気は身体能力を向上させる魔法で無属性魔法と言われているわ。これは魔力があれば誰でも出来る魔法の事ね。他にも無属性魔法はあるけど、一子相伝の秘術だったり、古代文明時代の魔法だったりで、使える人は余りいないわね。魔力量については、なんていうか。会った時に纏っている雰囲気? ていうかオーラみたいなものが多く見えたのよ。これは、魔法使いなら立ち会っただけで力量がある程度わかったりするものなの」


つまり、魔力量は多いけど魔法適正はないから誰でもできる身体能力向上魔法しか出来ません。ってことね。自分で言ってて虚しくなる。


「あーぁ……私もエリカみたいに大魔法とかバンバン使ってドラゴンとかと戦ってみたかったなぁ」


「現実を見なさいよ」


幸い魔闘気は使えるんだし、地道に鍛錬をするのが私には向いているってことなのかもしれない。もし、魔法を使えても剣術も魔法も中途半端な状態で使い物にならないかもしれないしね。


この日は魔道具での魔法適正が皆無だったことが分かったので、木杭に打ち込む訓練を再開することにした。エリカは私が鍛錬している姿をずっと見ていることに決めたようだ。何が面白いのだろうか。今度聴いてみよう。


夜になってそろそろ鍛錬を止めるかと切り上げて、エリカの下に向かう。結局、木杭には少し切れ目が伸びたくらいで切り落とすなんて考えても無理そうだった。


次の日も午前中に冒険者ギルドの仕事をした後、午後から訓練を開始する。素振りや走り込みはなくなり木杭に打ち込む訓練を行っていた。60回程打ち込んでからまた、魔力切れの兆候に怠さと眠気が出てくる。ふと、魔闘気を解いてみた。そういえば、魔闘気を使って身体全身を覆っていたが、実際には両腕と足腰しか使っていないことに気づく。そう思えば、頭等の使っていない部位は覆わなくても良いのかもしれない。

 試してみよう。目を閉じて魔闘気を下半身と両腕だけに流れるようにイメージすると、そこだけが覆われている。どうやら出来たみたいだ。今までは無駄な魔力を他の部位に流していたが、これで節約できる。


「ハアアアアアッ!」


走り込み、右袈裟に切り落とす。うん。威力もスピードも落ちていない。正解だったみたいだ。


「どうやら気付いたようだな」


その時、ギルド長から声がかかった。


「魔闘気は身体能力を向上させる魔法だ。実際に使う部位のみに流せば魔力を節約できるし、

その分の魔力を使用する部位に流し込めば威力もスピードも上がる」


なるほど、それならば、走り込む瞬間に魔力を込めて打ち込みの瞬間に魔力を込めればもっと威力が出るかもしれない。ギルド長が藁束を切り落としていたのもこれを使っていたからか。


「だが、応用はかなりの難易度だ。一長一短で出来るものでもない。少しずつ、モノにしていけ」


「はい!」


上段に構え、後ろ足を蹴り出す瞬間に今までの2倍の魔力を込めると余りの速さに壁に激突しそうになった。


「気をつけろ! 直ぐに出来るものじゃないんだ! 少しずつ魔力量を増やしながらやっていけ!」


「わかりました!」


その後、打ち込みを100回程、魔闘気を纏いながら打ち込む事が出来た。そして、ギルド長との模擬戦をするも惨敗し、エリカに文句を言われながら回復魔法をかけてもらうのだった。


 二ヶ月後。


「ハアアアアアッ!」


後ろ足を魔力を使って踏み込む瞬間に爆発的に放ち、右袈裟に振り下ろす瞬間に魔力を込める。杭は斜めにコンッと床にぶつかり、音を響かせる。


「よくぞ出来たな。アラン。合格だ。本当は三ヶ月かかると思ったが、早かったな」


「いよっし! ありがとうございます!」


私は、ガッツポーズしてギルド長の下に向かう。


「今のが紫電流の歩法の基礎。――瞬動だ」


「紫電流……瞬動ですか?」


「ああ、現代には三大流派があってその中の紫電流は速さを極める流派だ。紫電流には二つの技しかない。その中の一つが先ほどの瞬動だ。もう一つの技はワシが今からみせよう」


そう言うと、ギルド長は木剣を左腰に収め居合切りのように構え、目を閉じる。

――瞬間、気付いたら木杭の直ぐ後に木剣を振り上げた状態で静止していた。

木杭がずり落ちるようにゴトンッと音を立てる。木杭は斜めに一撃で真っ二つになっていた。


「これが紫電流が奥義――紫電の太刀だ。どこまで見えていた」


「い、いえ……気づいたら木杭が真っ二つになっていたとこだけでした」


「そうか。では、もう一度やる。今度は目に魔闘気を覆ってから見ろ」


「はい」


 また、ギルド長が居合切りのように持ち、目を閉じる。

――瞬間、後ろ足を踏み込んだと思ったら、木杭の目の前に立ち逆袈裟に切り上げていた。


「いまのはどうだ」


「はい。後ろ足を踏み込んだ所までは見えましたが、気付いた時には木杭を逆袈裟に切り上げていました」


「そこまで見えていたか。いやはや、全盛期は剣聖級とまで言われたワシでももう歳かもしれないな」


今ので、全盛期よりも遅いのか。それは飛んだ化け物じゃないか。二ヶ月毎日かけて切り落とした木杭を意図も簡単に一撃で切り倒したんだぞ。しかも、二回もだ。


「アラン。お主はまずは瞬動に磨きを掛けろ。紫電の太刀はそれから身につけろ」


「わかりました」


それから、木杭をまた切り倒す訓練が始まった。慣れてきたのか、一ヶ月で1本は切り倒せるようになっていた。だが、木剣を使って一撃で真っ二つに出来る紫電の太刀なんていつになったらできるのだろうか。いや、待てよ。まず、木剣で真っ二つなんて物理的に考えて不可能じゃないか? どんなに腕力や速さを魔力で底上げしても所詮、木剣。切れるわけがない気がする。

となれば、新たな仕掛けがあるに違いない。ギルド長のことだ。確実にある。


多分、木剣だ。これに仕掛けがあるに違いない。そう、恐らくだが身体だけじゃなくこの木剣にも魔闘気を纏わせるんだ。

身体の一部のように魔力を流すと思った通り、木剣に魔闘気を纏わせることができた。よし、これで。

瞬動から木杭を右袈裟に切る。木杭の指の第二間接くらいまで切り込む事が出来た。やはり、これで間違えてなかったようだ。思わず、顔が綻んだ。


だが、改めてギルド長の凄さに驚く。一瞬にして足に魔力を込め、両腕と木剣に魔力を纏わせて逆袈裟に切り上げたのだ。しかも、木杭を一撃で真っ二つに、だ。おそらく生身なら即死しているだろう威力を秘めている。


私は、踏み込みと打ち込みを木剣に魔力を込めて開始するが、直ぐに魔力が切れてしまった。

因みに、エリカにこの技を見せたとき、「アラン。どんどん人間離れしてるわね」って呆れられてしまった。光の乙女の方がもっと凄いと思うんだけどな。

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