自由17
当然、自分で依頼ボードから選んで取った依頼書だ。
そんな事は百も承知だ。
「馬鹿じゃないですよ。これでも、本気ですから」
「アホか! この馬鹿たれ! 余計悪いわ」
頭を叩かれた。痛い。なんで、いきなり叩かれなきゃならないんだ。
「よーし、分かった。休憩所に一緒に来い。この依頼について説明してやるから」
受付嬢はカウンターから出ると、手を強引に引っ張って休憩所に向かう。
後ろの尻尾がふりふりと揺れていてとっても可愛い。
休憩所の机に着くと、「座れ」と言われて素直に座る。
彼女も対面に座って身を乗り出してくる。
「良いかアラン。これはな半月前から誰も手を出さない所謂、塩漬け依頼だ」
依頼書をバンと叩きつける。何をそんなに怒っているのやら。
「ええ、他の所でも見た事あるので、承知しております。因みに、貴方の名前を伺っても宜しいですか? 名前を知らないと呼びにくいですから」
受付嬢は頭をがりがりと書いて、「あーもう!」と言う。
「あたいの名前はノイン。先祖返りの猫の獣人だ」
「ノインさんですか。獣人の方は初めて見ました。因みに、先祖返りっていうのは?」
「遠い祖先に獣人の血が混ざってて、偶にそれが表に出て子供に獣人の特性が出てくるんだよ。因みに獣人はこの首都だと人種至上主義でそれ以外の種族は差別対象だ」
ははー。だから、誰も受付に並んでなかったんだな。それにしてもこんなに可愛らしいのに勿体無いな。
「へぇー……私には猫耳も尻尾も可愛らしく見えますけどね。とっても魅力的に見えますよ。これがわからないんじゃあ首都も大したことないですね」
「か、可愛いって! ……ああ、もううるさい!」
「うるさいのはノインさんでは?」
「一々細かいんだよ。今は依頼の話だろ!」
「ああ、確かにそうでした」
「あーもう。調子が狂うなぁ」
猫耳がピクピクと揺れて尻尾もふりふりしている。とっても可愛い。
「とりあえず、この依頼はB+からA-の依頼だ。報酬も凄い金額だ。だけど、誰も受けない。それはどうしてだかわかるか?」
ふむ。誰も受けない理由か。それは、簡単に言えばリスクとリターンが合ってないってことだろうな。
「危険度に対しての見返りが少ない。または、恐ろしく達成するのが難しい。ってところですかね」
「そうさ。幼龍と言っても、強さは腐っても龍だ。基本、龍ってのは20人から30人の大規模パーティで力を合わせて倒すのが普通だ。しかも、死の危険性は普通の魔物討伐依頼とは訳が違う程難しい」
「20人で倒そうとすると、報酬が危険度に見合ってない。だから、誰も受けない。受けるって言ってもただの死にたがりか、馬鹿のどちらかだ」
なんか、遠回しに侮辱されているんだけど。
「それでも、倒すと決めたんですよ。なんとしてもね。……だから、お願いします。協力してください!」
頭を下げて懇願する。すると、少しして溜め息が聴こえた。
「はぁ……ほんとはDランクがこの依頼を受けるなんてただの馬鹿としか言いようがないんだけど。そこまで、切羽詰まってるんだろ。理由は分からないけどわかった。ある程度の情報を教えてやるよ」
「ありがとうございます。ノインさん!」
「はいはい」
「まず、この幼龍がいると言われる場所はここから東に4日の村から北に6日にある山の頂上だ。そこで地元の猟師から目撃情報を得たから間違いはないだろう」
ここから東に4日の村といったら、首都に着く前に通ったあの村の事だろう。そこから、北に6日か。
結構な距離だ。
「で、この龍は生まれてからまだそこまで生きてないらしい。大きさは両翼を広げたら10mで全長も12mだな。地元の猟師からは赤色に見えたとのことだから赤龍で間違いないだろう」
「幼龍でそんなに大きいんですね。大人だったどんだけだかいんだか……」
「成龍はSランクの魔物だ。小さいのでも15mはして、大きいのだと30mはしたそうだ。ま、昔の話だけどな。普通じゃ倒せないよ」
「なるほど規格外ですね。……ちなみに、赤龍っていうのはなにか特徴があるんですか?」
「お前、そこまで知らないのか。本当に龍退治する気あんのか? 龍の色は赤、青、緑、黄、土、黒、白と7色あって、その色で使う魔法がわかるんだ。今回の場合は赤龍だから炎のブレスを撃ってくるぞ」
「ふむふむ。あ、他に龍の弱点的な物ってあります?」
「一応、あるぞ。背中のどこかに逆鱗ってのがあるらしい。これが龍の共通した弱点だそうだ。龍の鱗は鋼のように固く、普通の武器じゃあ斬る事も出来ないらしいが、逆鱗だけは柔らかくて一突きすると心臓まで貫けるらしい」
「逆鱗か。他にはなにかありますかね」
背中にあるとしたら大きさ的に無理をしないと手が届かないだろう。
何かほかに弱点があれば良いんだけど……。
「ない」
キッパリと断言されてしまった。
えぇ……。
「そもそも、龍ってのは圧倒的な生物の頂点に君臨する魔物だぞ? 人がそれを倒そうとするなんて土台無理な話なんだよ。逆鱗っていう弱点があるだけでもマシだろ」
「はぁ……そうですか」
まぁ、確かにそうかもな。龍っていったら圧倒的な強さを誇る魔物だ。RPGでも鉄板だしね。それが、弱いわけないか。
「まぁ、こんなとこかな」
「ありがとうございます。助かりました」
「んで、これでも受けるつもりなの?」
「ええ、受けますよ。元から断るつもりなんてありませんからね」
「……分かったよ。じゃあ、この依頼書は受理しといてやる。っとそうだ、言い忘れてたけど2日前にこの依頼を受けた20人規模のCランクパーティーが受けたんだったな」
「え! それって私受けても大丈夫ですか?」
「それに関しては問題ない。討伐依頼は基本、先に倒したもん勝ちだ。だから、先に倒せば良いってことだな。まぁ、20人規模のパーティー相手に一人で勝つなんて無理だけどな」
2日前ってことはもう8日には目的地には到着するってことか。
でも、20人規模なら足は遅いはずだ。今から動けば間に合う可能性もある。
「ありがとうございました。ノインさん。では、私は行こうと思います」
「そうかい。……最後に金がいる目的だけ教えてよ」
「ちょっと、救いたい子がいましてね。ただの気まぐれですよ」
「ははっ! 気まぐれで死ぬ可能性の大きい龍退治か。これは笑えるな」
「ええ、自分で言ってもそう思いますよ」
「……死ぬんじゃねぇぞ。アラン」
ノインさんは立ち上がって手を伸ばしてくる。
私も立ち上がってその手を握り返した。
「はい。親切にありがとうございました。帰ってこれたら何か奢りますよ」
「ば、馬鹿か! こんな真面目な場面でナンパなんてするなよ!」
「えぇ……」
そんなつもりなかったんだけどな。本当にお礼のつもりだったんだけど……。
「まぁ、良い。アラン。お前の旅路に幸あらんことを祈る」
「はい。では、さようなら。いえ、また、お会いしましょう」
「そうだな。また会おう。その時は奢り! 待ってるぜ」
にっこりと笑った顔はとても歳相応で愛着の持てる顔だった。
冒険者ギルドを出て、必要な物を購入する。
今回買うものは保存食が2週間とちょっとに中級ポーションだ。
中級ポーションは骨折までの怪我を治してくれるポーションだ。
出番がないのが一番良いが、今回の相手は今まで戦ってきた相手の中でも恐ろしくやばい相手だ。
準備に抜かりはないようにしないとね。
お金は3400コル以上ある。
雑貨で200コル使って、中級ポーションを2つ買う。
中級ポーションは1つ500コルだから1000コルかかった。
それに、馬を借りた。1日5コルだから、前払いで14日分70コル渡しておく。
馬に乗ったことはないけど、歩いていくよりは早いだろう。
乗りながら慣れれば良い。
一気にお金が2000コル程度になってしまったが、仕方ない。
これも必要経費だ。
では、行こう。
幼龍退治に一狩り行くぜ。




