自由9
宿屋で手続きは全てキースさんの使用人の人がやってくれていたので、部屋の鍵を渡されるだけで終わった。
部屋の番号は201号室。なんか前も同じ番号だった気がするけど気のせいだろう。
自室に入って、背嚢を下ろす。
一式の装備も外した。
宿屋で危険に合うわけもないので、問題ないだろう。
ただ、ダガーを1本だけ腰に忍ばせておく。リリィの護衛だからね。
そんなリリィは私の部屋のベッドで寛いでいる。
なんと、キースさんが気を使って二人一緒の部屋にしてくれたらしい。
これにはリリィが喜んでいた。
先ほどの件もあったし、リリィに気を使っているのだろう。
時刻はもう夜闇が侵食している頃だ。そろそろ夕食の時間になっていた。
「リリィ! 一緒にご飯を食べに行こうか」
「うん。わかった」
リリィの手をしっかりと握って、食堂に向かう。
1階の食堂では、好きな席に座るようだ。
お、キースさんがいる。
「キースさん! 夕食をご一緒しても良いですか?」
「ああ、アランさん。どうぞ、座ってください」
キースさんは使用人の人を連れておらず、一人でコース料理を食べていたようだ。
もしかしたら、邪魔をしてしまったかもしれないな。
まぁ、今更遅いか。
リリィの座る席を引いて座らせると、自分の席を引いて座る。
「今日は災難でしたね」
キースさんは笑いながら先ほどの事を言った。
「ええ、リリィにも怖い思いをさせてしまいました。それと、キースさん肩は大丈夫ですか?」
金髪のイケメン王子。確か、ヘンリー王子だっけか。
それに、肩を鞭で叩かれていた。
「少し、腫れている程度ですからそこまで酷くはないですね。最初に他の方がやられていたからまだマシだったんでしょうね」
「あれでマシって……本当に、王子としての自覚がないんでしょうか? こう、ノブレスオブリージュってやつです」
「外国語ですね。確か、特権的な地位には相応の義務が伴う。とかいう意味でしたっけ。基本的な貴族はその言葉を守っていますがね。一部の貴族ははっきり言って腐っています。あの王子もまたそうですね。前までは民衆の目を気にしたりと優秀な王子だったらしいんですけど」
前菜が配られるので、それを口にする。リリィも小さな口で食べ始めていた。
あれ、テーブルマナーって知らないけど、ナイフとフォークって外側から取っていくんだっけ。
「あの王子が優秀だったって本当ですか? 典型的な人を血族や地位で下に見る貴族って感じがしましたけどね」
「あはは、アランさんも言いますね。でも、ヘンリー王子も5年前まではそうだったのです。ですが、父親。つまり、今の王様が王位継承権1位の息子を次の王に決めると発言しましてね。ちなみに、王位継承権の1位と2位の王子がこれまたかなり優秀な人でして、民衆からの支持も厚いのです。それに、兄弟の仲も良いと悪い噂を聴かない程です」
どんどんコース料理が出てくるので、食べ進めながら聴いていく。
「ははぁ、それで自暴自棄になって、暴虐無人な態度で自分の好き勝手になるようになったと言うわけですか」
「その通りです。自分に王位継承権がないと分かると、豹変したかのように市民に暴力をしたり、奴隷を雑に扱って殺したりという風に変貌されたのです」
「なるほど。ちなみに、ヘンリー王子が乗ってた人型の魔物は一体なんですか? さっきちょろっとお聴きしましたけど」
「あれは、トロールですね。力も強く、頑強な体の魔物です。以前に偶然、子供のトロールを発見しましてね。いやーあの時は危険だった。親のトロールに追いかけられて殺される所でした。今は小さなときから奴隷魔術で使役して育てたのですので人間には絶対服従を使っているんですね」
キースさんって結構、ヤバイ橋を渡ってるよね。高級奴隷商人ってみんなこんな感じなのかな?
「あれは、オークションで9,000コルで売れましたね。まぁ、そのトロールもヘンリー王子が飽きたら直ぐに殺されてしまうでしょうが……」
「そんな……奴隷を物見たいに飽きたら殺すなんて」
私の言葉にリリィがビクリと反応する。そうだよな。自分が奴隷なんだから良い気持ちはしないだろう。
「実際、そうなんですよ。奴隷を買い漁っては、奴隷同士で殺し合わせたり、自分で殺したりともうなんでもありです。ですが、奴隷のオークションも珍しい奴隷や綺麗な奴隷などを買ってくださるし、安い奴隷も買うお得意様なので、奴隷商人は誰も強く言えません」
「もしかして、そのオークションもヘンリー王子が主催だったり?」
「ええ、スポンサーの一人です。王族が奴隷の売買を推奨している時点で民意を損なうようなものなのですが、まぁ、ご覧のあり様です」
珍しい奴隷や綺麗な奴隷が欲しいから他人からどう言われようと構わないってことか。
いよいよ腐った根性してやがるな。
「出来れば、リリィには良い人に買って頂きたいのですけど、ヘンリー王子に目を付けられたとあっては、誰も制裁を恐れて買おうとするものは少ないでしょうね」
すると、隣の席のリリィから服引っ張られた。その手は震えている。先ほどの事を思い出したのだろう。
少しでも安心できるように頭を撫でた。
「……すみません。気が利きませんでしたね。私も少し、ヘンリー王子に中てられたのかもしれません」
「いえ、大丈夫ですよ。な、リリィ! 俺がいるから大丈夫さ」
「……うん」
「私も頭を冷やしてきます。ではこれで」
「ええ、情報ありがとうございました」
「3日間はここで休んで4日目の早朝に出る予定です。それまで、好きに過ごしてもらって構いません。奴隷魔術は村の入り口までの範囲に伸ばしておきますので、村の中はどこへでも行けますよ」
「そうですか。じゃあ、リリィ明日は町の散策でもするか」
「……うん。わかった」
3日間好きに町を散策できるのに、リリィの声は沈んだままだった。
程なくしてコース料理を食べ終わったので、自室にリリィと戻った。
「ほー……凄いな。一部屋に一つ風呂が付いてるのか。流石、温泉の町だな」
部屋の奥には木造の浴室が付いていた。
タオルもついている。この宿屋ってやっぱりかなり高級なんじゃないか? キースさんってやっぱ羽振りが良いんだな。
「リリィ! 先に風呂に入ってるからなー!」
返事は聴こえなかったが服を脱いで浴室の扉を開ける。
温かい湯煙と木の香りが辺りを充満している。
私は、風呂桶にお湯を入れて頭からかぶる。少し熱いお湯が体に心地良い。
そして、頭を洗う。シャンプーなんてものはないが、湯で頭皮を洗う。
「……お兄ちゃん。背中洗う」
「へ!? リリィ入ってきちゃったの?」
「……ダメ?」
「い、いや、そんなことはないけど」
ちょっと倫理的に危ないです!
リリィはペタペタと足音をさせながら私の後ろに立って背中をタオルで拭いてくれる。
「気持ちいい? お兄ちゃん」
「ああ、気持ち良いよ」
力加減が弱いがそれでも一生懸命に背中を洗ってくれるリリィにほっこりする。
「ありがとう。今度は私が背中を洗うから、背中を向いて」
「うん」
リリィの幼い柔肌に弱めの力加減でタオルで拭いていく。
リリィの背中は幼いながらも妖艶で、私は煩悩を振り払うように洗う。
「どうですか? お客さん」
「気持ちいいよ」
「そりゃあ良かった。じゃあ、後は前は自分で洗ってね」
「わかった」
私はリリィを置いて先に風呂の中に入る。
お湯の温度は少し熱いが、慣れるとそれが気持ちいい温度だ。
「ふぅー……」
足を伸ばし、前進を脱力する。目を瞑ると、嫌な事が何もかも忘れられた。
「お兄ちゃん。リリィも入る」
「うん。良いよ」
って、良いのか!? 倫理的にそれはアウトでしょう!
でも、リリィは私の傍まで来ると膝の上に乗って、背中を反らしてくる。
気をつけろマイサン! 幼女にやられるぞ!
「気持ちいいね。お兄ちゃん」
「うん。気持ちいいね」
リリィの柔らかい肌が全身に当たり二重の意味で気持ち良かった。




