羨望13
「盗賊団の規模はわかっているんですか?」
「一ヶ月前に隣町で襲われた行商の生き残りの話じゃ、8人から13人はいたって話だ。それも、その話が本当ならってとこだけどね」
「なんですか? 確証が取れないってことですか?」
「いや、違うよ。それがどうも勢力を拡大しているのさ。貧しい奴や腕っぷしに自信のある奴等を仲間に加えているって」
「えぇ……じゃあ、13人よりも人数が多い可能性もあると」
「まぁ、そういうこった。はっはっは」
笑い事じゃないんだけどな。この村が襲われたらどういう対処をするつもりなんだ。こんな小さな村じゃ壊滅するしかないだろうに。
「因みに、この村で戦闘が出来そうな大人は何人いますか?」
私の言葉にギルド長は深いため息を付いてからゆっくりと数える。
「ふぅー……。40人の村に子供が12人。大人が28人。そのうちの老人と女が18人。だから、男が10人ってところだね。だけど、全員が腰の据わってない肝の小さい男だよ。盗賊団が襲ってきたら即逃げだすような男だ。頼りになるとは言えないだろうね」
「男が10人もいたら対処出来そうな気もするんですけど、ダメなんですか……。じゃあ、他の町や村から傭兵を募るとかはどうです?」
「……こんな小さな村にそんな金があると思っているのかい? 出来っこないよ」
「そんな……」
村の男たちも、傭兵も頼れないってことか。まさに万事休すってところだ。あとは、そう。
「「隣町から行商が来る事を祈る」」
そうすれば、盗賊団がこちら側に来ているということは限りなく薄くなる。
まぁ、グレーというところだけど。
「そう言うことさ」
「はぁ、わかりました。情報ありがとうございます」
立ち上がって、冒険者ギルドを後にする。
「ああ、そうだアラン。盗賊団が来たらあんたが主戦力になるからそこんところ宜しく頼むよ」
「指名依頼だったら、遺憾ながらやらせて頂きますよ!」
冒険者ギルドを後にしたあと、道具屋で何かないかと物色する。
だけど、これと言って必要な物があるわけでもない。密かにホッ〇イロと呼んでいる燃焼石を数個買い足し、ランタンの燃料を買ったり、ロープを追加で買ったり等したら直ぐに用事は済んでしまった。
他に用事もないので、宿屋の庭先で剣技の練習をする。
瞬動からの右袈裟に胴切り。そして、紫電の太刀を繰り出す。
私はカラエドを過ぎてから強くなっているのだろうか。
自問自答するが答え等出てこない。
これまでに倒したものは魔狼にゴブリンシャーマンに熊くらいだ。
ゴブリンシャーマンがDランク程度だとすると、自分の実力はそれくらいなのかもな。
自分一人で鍛錬をしていると、虚しくなる。私の剣技は中級、いや、上級まで行ったのだろうか。
ふと、カラエドのギルド長からもらった羊皮紙の事を思い出す。剣の聖地。強者が集まり、研鑽を積む場所。ギルド長は道に迷い、壁を乗り越えねばならない時にここに行くが良い。と言っていた。
自分の実力を知るのも良い事なのかもしれない。でも、剣の聖地は首都から山を二つ程、超えた先にある場所だ。
今の現在地からいけるはずもない。
塵も積もれば山となる。努力に意味がないことはない。強くなっている事を信じよう。
この村が盗賊団に襲われる用な事態になったとしても。
それから、魔闘気の鍛錬を行い。昼間に魔力切れで宿屋でぶっ倒れて、起きた時には夕方になっていた。宿屋で夕食を取ってから、また魔闘気と剣技の鍛錬をして、魔力切れでその日は就寝したのだった。
その次の日も早朝から鍛錬をしていた。村の人からは、もう見慣れた様子なのか珍しく思われることも無くなってしまった。そりゃ、ずっと鍛錬をしているだけだ。楽しいわけがない。
人の目も少なくなったので、鍛錬にも身が入る。
その日は鍛錬をして、魔力切れでぶっ倒れて、また鍛錬をしてを繰り返して最後の休みを終えた。
はっきり言って、二日間鍛錬をしていただけだ。強いて言うならギルド長から嫌な話を聴いたくらいだろう。
その事を考えると心が暗くなる。お世話になったこの村が襲われる? いやいや、そんなの許せるわけがない。
でも、もし私がその立場に出くわしたらどうするんだろう。
逃げ出すのだろうか。
それとも、玉砕覚悟で戦うのだろうか。
敵は10数人規模の盗賊団だ。勝ち目なんてほぼないだろう。
それでも、守りたい。
それだけ私はこの村の事が悪い意味でも気に入ってしまったんだ。
それから二週間経った。ジャックと一緒に狩猟に出て、狩りをして、一日休む。そういう暮らしを続けている。
狩りの成果は上々だ。二週間の間に4回狩猟を行って、1回は何も得られずに終ってしまったのだが、3回は得物を獲る事に成功している。
捕れた得物は合計で猪が2頭に雌鹿4頭 。
私は、雌鹿の生レバーが食べられたので大満足だ。あれはとても美味しい。猟師生活をしていて、一番嬉しいポイントだろう。
猪の心臓と睾丸も食べている。ジャックが、子供っぽい笑みを浮かべて食べさせてくるのだ。
いやいやながら食べるのだが、まぁ味は悪くないのでそんなに気にすることもなく食べていた。
その間に魔物に襲われた回数は4回。その全てが魔狼によるものだ。
1回目は魔狼2匹との遭遇。
2回目は魔狼1匹。
3回目は魔狼5匹。
4回目は魔狼3匹だ。
もう、ゴブリンの影は無くなってしまったのかな? 魔狼が駆逐してしまったのかもしれない。
その魔狼ももう11匹倒したことになる。この三週間で15匹だ。そう思うと、猟師っていうのは危険だな。常に魔物と獣に襲われるかもしれない恐怖と戦わなくちゃいけないんだから。それはやりたい人が少ないってのも納得だ。その中でも村でただ一人の猟師のジャックは本当に勇敢な男だ。
今日は、狩りが終わった休みの日だ。また、冒険者ギルドに来ていた。というのも、新しい情報が入っているか確認するためだ。
冒険者ギルドの扉を開けると、いつも通り中には誰もいない。
受付にギルド長が一人ぽつんといるだけだ。
「ギルド長。話を聴きに来ましたよ」
「おぉ! アランか。席に着いて待っといてくれ」
席に着いてギルド長を待つ。ギルド長が席に着いたので、話を促す。
「で、新しい情報は何か手に入りました?」
「それが、さっぱりさ」
ギルド長はお手上げという風に両手を上げる。
「えぇ……本当ですか? 隣町からの行商とかの話とかはどうなってます?」
「それに関しては何一つとして入ってきてないよ。一週間の遅れならもしかしたらあるかもしれないけど、もう二週間だ。行商になにかあったとしか思いつかないね」
ゾッとする。それは、行商の人が盗賊に襲われたって言っているようなものだからだ。
「……そういえば、カラエドから隣町に向かった行商もいましたよね。あの人の話とかはありません? 隣町に着いたとか」
「ないね。隣町からの情報は一切入ってきていないよ。あの行商がどうなったかもわからない。まぁ、恐らくだけど、もうこの世にはいないんじゃないかね」
ギルド長は軽い口調で言う。
「そんな……人が死んだかもしれないんですよ! それにこのままじゃこの村も!」
「あぁ、そうだね。その通りだ。だから、身銭を切って傭兵を募った」
「本当ですか!? それはいつに着く予定なんですか!」
「……後、三週間」
「え? 今なんて?」
「だから、後、三週間だよ。それまで、傭兵は来ない。助けは誰も来ない」
「後、三週間もなんて……その事は村の人や村長には伝えてあるんですか?」
「村長には伝えたけど、他の村人に言えるわけないだろう? 言った所でどうなるってんだい」
「隣村とかに避難するとか……」
「そんなことになったら、隣村は食料が無くて餓死者が出るよ。それに、隣村まで一ヶ月だ。そこまで冬のこの道のりを行くのは老人には無理だ。魔物にだって襲われるかもしれない。現実的に考えて無理なんだよ」
「じゃあ、他になにか手を打ちましょうよ!」
「一体何があるって言うんだい。柵でも作るかい? 男共に戦闘の訓練を行うかい? そんなこと、絶対にしないよ。日々の仕事だけで、村の皆はへとへとなんだよ。もう、傭兵の手配はしちまったんだ。後、三週間。何もないことを祈るしか私たちにゃあないんだよ」
なにか手はないかと考えるが何も出てこない。もうなにもないのか。祈るしかないなんて!
三週間か。長い。長すぎるよ。
「……そうですね。ちょっと頭が足りてませんでした。盗賊団と実戦経験もない村人が10人程度じゃ、戦える訳もない。もう、三週間の間に盗賊団が現れない事を祈るしかないんですね。」
「悲しいけどそう言うこった。信じて待つ。それだけだよ」
「はい。わかりました」
その日、ジャックの家にお呼ばれして夕食をご馳走になった。
二人の笑顔が眩しい。もしかしたら、この笑顔が誰かの手によって握りつぶされてしまうのかと思うと、私は酷く心が痛んだ。




