表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さようなら はじめまして  作者: 鈴木 淳
第一部 覚醒
3/94

目覚め2

 二日経った。ついに人里まで辿り着いた。気持ちが逸る。石橋を眺めていると、馬車が橋を渡る姿や如何にもRPG風の戦士のような屈強な冒険者の男たちが、歩んでいる姿が見えた。


 石橋まであと少しというところまで近づくと、こちらを眺める視線が多く見える。冒険者の恰好も布の服に皮の胸当てや布のズボンにブーツ。それと金属の脛当てや肘当てという姿だ。明らかに浮いた格好だ。どうやら、まずはスーツと革靴というこの服装を一般市民と同じ目立たないようにしないとな。

石橋に到着すると左手に大きな外壁が目に入る。圧倒的な大きさと外壁の長さに圧倒される。端の方では土方の人たちが煉瓦らしき物を積み上げていく姿が見えた。また、ざっと50人程だろうか。門から人の姿が列になって並んでいる姿も伺える。

私たちは石橋を渡り、門から伸びる人の列の最後尾に並ぶのかと思ったのだが。列を無視して門まで進む。並んでいる人たちから不満げな視線を受けるが、構わずアレンの後ろに付いていった。


 その時、鐘の音が響いた。その音は何回もうるさく鳴らされている。


「マズいぞ! 魔物の暴走スタンピードが起きたぞ!」


すると、瞬く間に悲鳴と叫び声が至る所で響き渡った。


後ろを見ると、遠くの方に砂煙を撒き散らしながら緑の人型の魔物の大軍が迫ってきていた。


「ヤバイぞ。アラン! あれはゴブリンの群れだ。150か200はいるだろう。恐らくゴブリンキングが群れを率いて襲って来たんだ!」


「ど、どうすれば!?」


「諦めろ。無理だ。ゴブリンキングは単体ならB-ランクだが、あんな大軍が迫ったらこの町は堕ちるしかない」


「そ、そんな」


こんな所でもうゲームオーバーなのか……。まだ、何も始まってないじゃないか。

ゴブリンの大軍はもう500m近くまで近づいてきていた。


その時、馬が町から飛び出してきた。人波が割れる。

その少女は13歳くらいの少女だ。

綺麗な金髪を肩まで伸ばしていて純白のワンピースを着ている。

――女神のようだ。

そう思うほどの美しさと凛々しさだ。


「アレン! あの少女が危ない!」


「いや、大丈夫だ! 助かった!」


少女は詠唱する。


「大気に潜む無尽の水、凍土と成りて光を天に還し形なす静寂を現せ!――」


少女の言葉と共に頭上に大きな幾何学模様が出現する。


「――氷のブリザードストーム!」


その言葉と共にゴブリン達の頭上に氷塊の嵐が巻き起こる。寒さが300m先のこちらにも届いてくる程の冷気。それがゴブリンの大軍を包み込んだ。

そして、嵐が消えた先には大地の全てが氷に覆われていた。

ゴブリンの大軍は全て凍り付いている。

150か200はいた大軍が一瞬で死んだんだ。信じられない。


「嘘だろ……なんだよあれ」


「この町が誇る最強の魔法使い――光の乙女――だ」


「光の乙女……」


門の前で並んでいた人たちや町の兵士は、大歓声を上げて口々に叫んでいた「光の乙女」と。

その光の乙女はこちらを見てにこりと微笑んだ。美しい。そう、思った。

そして、微かにその姿が幼い妻に似ているような気がした。


彼女は馬を翻して町に戻っていく。

人波が割れ、大歓声の中を光の乙女は街の中へと消えていった。


「良いモノが見れて良かったな。さて、行くぞ」


門を抜けると煉瓦作りの建物や木造の建物が多くみられた。

未だに光の乙女の話題は多く聴こえる。どこもかしこも光の乙女の話題だ。

確かにあれは凄かったもんなぁ。未だに脳裏に少女の美しさとその魔法が焼き付いていた。


大通りを直進すると建物が見えた。


「あれが冒険者ギルド」


看板に剣とペンの絵が描いてある。わかりやすいな。


「じゃあ、受付で冒険者証を作ってきてくれ。身分証にもなるからな」


「わかった」


なんというかRPGの醍醐味というか少しワクワクしてきた。受付のお姉さんのとこまで向かう。


「あの、冒険者になりたいのですが」


「はい、冒険者ですね。初めての方でしたら、この紙に出身地、名前、希望する職業に特技等を書いてください」


最初、私の恰好に驚きはしたようだが、受付嬢は紙が保険証や免許証程度の大きさの羊皮紙と筆にインクを渡してくる。羊皮紙を見ながら唸っていると受付嬢が声を掛けてきた。


「あ、申し訳ありません。文字が書けませんでしたか? でしたら私の方で受け答えして記入することも可能ですが」


「いえ、文字はかけます。ただ、ちょっと田舎ものでして、この文字とかって世界共通の言語だったりしますか?」


受付嬢は不思議そうに顎に指をのせて考える。


「んーそうですね。この言語はこの国。古龍国の共通語で、外国では古龍語と言います。会話の一部には外国語も交じって使用されていますね。平仮名やカタカナは農民や市民に分かりやすく言語を覚えてもらうために作られたと言われていますね」


「いつ頃から使われているかは、知りませんが」


といって、舌を出す。その姿は身長の低さと10代半ばくらいの年齢だろうか年相応可愛らしく見えた。

それにしても龍の国に古龍語ね。やっと、今の自分のいる国の名前を知ることができた。まだしらない事は多い。本で知識を蓄えないといけないな。


「ありがとうございます。勉強になりました」


私はそう言って、手元の羊皮紙に目を移す。出身地、名前、職業に特技だ。正直言って、全然わからん。とりあえず、名前だけ書いておこう。


「あの、受付嬢さん。記入しようにもわからない項目があるのですが・・・」


「はい、どこでしょうか?」


「この出身地と職業に特技です」


「ああ、なるほど。冒険者証には名前は絶対書いてもらっておりますが、それ以外の項目の記入については自由でして絶対ではないのです。書きたくないなら書かなくても全然問題ありません。ただ、同じ冒険者と依頼をする場合や仲間を組んで依頼をする場合に便利だというものです」


ほうほう。では、今の一般市民の私は名前くらいで身分証が作られるってことか。これだとなんだか悪用されそうな気がするけど良いのかな。


「書き終わりました。お願いします」


「はい承りました。名前はアランさんですね」


彼女はふんふんと頷きながら冒険者証に書かれた名前を手元の羊皮紙に記載し始める。


「では、アランさん。冒険者証をどうぞお受け取りください」


そうして、私は冒険者証と言う名の身分証を手に入れた。



「よし、これで身分証も出来たし。じゃあアランの冒険者祝いに飲むか! 着いてきな!」


そう言って、腕を引っ張りアレンはギルドの左側の食事処まで進む。2人用のテーブル席に座り込むと給仕のお姉さんを呼んで「エールと適当なつまみを2人分」と頼んでしまった。


「あの、私はお金ないんだけど・・・」


「いや、いいって気にするな。ここは俺のおごりだ」


「ありがとう。アレン」


給仕のお姉さんから矢継ぎ早にエールと枝豆らしきものと野菜の炒め物に野菜の漬物を渡される。


「じゃあ、アランの冒険者登録に乾杯!」


「何もしてないのに恥ずかしいな」


私は一口エールを飲んだが、アレンは一気にエールを飲み干していた。


「――うはぁ~~! 沁みるぜー」


アレンは給仕のお姉さんにまたエールをおかわりしていた。

私はアレンのエールが届くのを待ってから言う。


「アレン。実は相談があるんだ」


「ん? なんだ。水臭いななんでも話してくれよ」


アレンはエールで少し顔を赤くしながらエールを少しづつの見ながら陽気な様子で聴いてくる。


「私に、戦う術を教えてほしいんだ」


その時、場が凍った。陽気だったアレンからは喉が張り付く程の気迫が漏れている。周りもその空気にあてられたのか静まり返っている。


「本気だ。私の目的は、アレンも知っているよね。そのためには力が必要なんだ。一人でも魔物を倒せるような力が」


「・・・なあ、アラン。冒険者にも色々あるがどうして力が必要なんだ。生活するためだったら、日雇いの土木作業もすれば生きていくこともできるだろうに。なんでそんな死に急ぐ必要があるんだ」


アレンの言葉は最もだった。確かに、日雇いの仕事をしてその日暮らしの生活をして、いればこの世界で生活する事は出来る。


「確かに、日雇いで生活する事は出来るだろうけど。大切なんだ。妻を思うと辛いんだ。今すぐにも見つけ出したい・・・自分の手で。でも、私には戦う力も術もなにもない。だから! 教えてほしいんだ! 戦う術を!」


私は懇願するようにアレンの瞳を覗き込むが、アレンは冷めた目でこちらを見返す。そうして、時が経った後、アレンは一つため息をついてからエールを飲む。


「はぁ、正直な。アランには危ない事はしてほしくなかった。だけど、わかった。稽古をつけてやる」


「ありがとうアレン! 何から何まで君には頼りっぱなしで・・・」


「良いんだよ。乗りかかった船だ。ここまできたら気の済むまでやらせてもらうさ。んで、何か剣とか槍とか得物は使えるものはあるのか?」


得物と言われても現代日本で武器を持つことも使うこともなかった。強いて言うなら剣道や柔道を学校の授業でやったことがある程度だろうか。


「使ったものはないけど・・・剣かな」


「剣か。そうだな。俺も剣は使えるが、邪流だ。覚えるならちゃんとした剣技を覚えたほうが良いだろう。俺がなんとか話を付けておこう。他にも俺は野伏だから、サバイバル生活とか投擲術なんかを教えることにするか」


「よし、じゃあ明日の昼にまた冒険者ギルドに来いよ。下に修練所があるからそこでまずは俺の頼んだ人に訓練を付けて貰えるように言っておくさ」


アレンは話すと、嫌な笑みを浮かべてエールを飲み干した。


「いやー、楽しみだな」


アレンの笑みに嫌な予感をしながら、私もエールを飲み干しておかわりを頼んだ。その日は気分も上がってしまい、二人して飲み過ぎてしまった。



 窓から入る朝日に目に入り、ぼんやりと目を開けた。気づいたら横にアレンがいた。余りの驚きに悲鳴を上げるところだったが何とか堪えた。私はホモではない。それだけは断じて断っておきたかった。


「・・・お、おう。おはよう」


アレンが目を覚ました。彼もこの状況に驚いているようだった。体に少し怠さはあったが、頭は痛くない。二日酔いにはなってないようだった。立ち上がると、どうやらここは冒険者ギルドの食事処のようだ。昨日はここで丸一日夜を開けてしまったみたいだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ