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さようなら はじめまして  作者: 鈴木 淳
第二部 羨望
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羨望1

 カラエドの町を追放されてから一週間程経った。私は、街道をのんびりと歩んでいた。首都に向けて街道を行く私の行程は、驚くほど余り進んでいない。というのも、朝に日課とした剣と魔闘気の稽古。昼から街道を進み、日暮れには寝床の準備をするというかなりのんびりとした歩みだった。


それもそのはず、3日前に寄った村落で村の人に首都までの道のりを聴いたのだが、まさか馬車で二ヶ月かかるというのを聴いてしまったからだ。


その村人曰く、カラエドからこの村を含んで4つの村と町を経由して5つ目の街が首都で、馬車で二ヶ月。歩いていくなら三、四ヶ月はかかるという話らしい。この村落から次の二つ目の村まで一ヶ月、その次の三つ目の町まで一ヶ月。そして、4つ目の村までは一ヶ月半はかかるそうだ。幸い、4つ目の村から首都までは4日でつく距離にあるらしいが、もう秋の終わり頃であり、雪も降り積もるそうだ。歩みも遅れると考えれば四ヶ月と少しくらいと言った所か。


私は自分の計画の甘さに呆然としていた。カラエドから保存食や諸々を買い込んだが、それも二週間分だ。行先で保存食を買い足しつつ行けばなんとか食料も持つだろうと高を括っていた。だが、歩いて四ヶ月。しかも、道中に4つしか補給できる村や町が無いとすると明らかに保存食が足りない。村落には勿論、保存食を買うことも出来ず、行商も来るのもまだ一ヶ月は先との事。これから冬の季節である村落では保存食はかなりの貴重品であり、行商もまだ来ないとなれば、無理に保存食を買うわけにもいかなかった。


というわけで、保存食は全然足りない。しかも次の村までは三週間はかかるという絶賛、ピンチに追い込まれていた。あぁ、カラエドでもっと保存食を買い込んだり、首都までの馬車を用意しておくんだったなぁ……とほほ。



二つ目の村は少し大きめの村らしく、冒険者ギルドに宿屋、道具屋等の日用品を扱っている店もあるそうなので、そこまで着ければなんとか……ってところかな。

なので、朝の道中では、走り込みや剣技の練習をしつつ、魔物を倒して魔石を貯めているところだ。

ついでに食料になりそうなものは片っ端から倒して、その日の食料にしている。

川を見つければそこで魚を何匹か捕まえて、保存食になるべく手を出さないように進んでいくことにしていた。



 保存食の残りは後、一週間程になった。あれから大体、二週間は経った。カラエドから旅立って三週間経ったということだ。道程はのんびりだが、しっかりと進んでいる。保存食も後、一週間分あるとなれば、そこまで焦らなくても良いだろう。最近は保存食に手を付けないように血眼になって魔物や野草を探していた。

だが、三週間経ったところで、冬の始まりが来たようだった。気温は寒く。朝、晩は特に冷える。寒さ対策はなにも用意していなかったため、外套と寝袋で必死に耐えるしかなかった。




そんなこんなで、一週間が経ち、二つ目の村に夕暮れに到着した。


村に入って、直ぐに宿屋に向かった。

ドアを開けると鈴の音が響いた。


受付で肘をついて考え込んでいるおばちゃんに声を掛けた。店の中を軽く見るが、がらんとしている。私以外にはお客はいないのかな?


「あのーすみません。一週間程、部屋を取りたいんですけど」


受付のおばさんは少し驚いた様子だ。


「おやまあ、こんな冬の季節に一人旅のお客さんなんて珍しいねぇ」


「へぇ……そうなんですか。やはり、寒くて移動なんてしないもんなんですかねぇ」


「そりゃそうだよ。ここ、中部地方じゃ冬は特に雪が積もるからね。行商ならともかく、一人旅の冒険者なんて珍しいさ。普通なら、暖かくなる春頃から首都に行く人やカラエドに行く人が多いからねぇ」

なるほど。なら店の中に他の人の気配がないのも頷ける。私はかなり珍しいお客ってとこなんだろう。

受付のおばちゃんは腕を組むとにっこりと笑みを浮かべて声を掛ける。


「とりあえず、一週間だね。飯はどうする?」


「そうですね。三食付きで、あと、お湯は用意出来ますか?」


「一週間の三食付きね。あいよ。お湯は用意出来るけど、今の時期は薪も高いから1日2コルは頂くよ」


「それで構いません。一週間の三食付きでお湯も毎日付けてください」


「へー……案外、お金持ってるんだね。んじゃ、うちは前払いだけど良いかい?」


「はい。良いですよ」


「合計で70コルだ。夕食は直ぐに取るかい?」


私は小袋から銅貨を1枚おばさんに渡す。


「はい。お腹が空いているので直ぐにお願いします。」


「あいよ。お釣りの30コルだ。うちは飯には多少自身があるから期待してな!」


おばさんから鉄貨を3枚受け取ると、小袋に入れる。


「おっと、部屋の鍵だ。201号室だ。食堂で適当に寛いでてくれ」


おばちゃんから鍵を受け取って、食堂に入る。もう夜になっている頃合いなのに、私の他に誰も食堂に人はいない。この季節はこんなもんなんだろうか。


 私は食事が来るまでやることがないので、小袋の中のお金を数えた。中には931コル入っている。銅貨8枚。鉄貨3枚。青銅貨1枚だ。約一年間、カラエドの冒険者ギルドで稼いだお金と、サバイバル生活で稼いだお金だ。このお店は三食お湯代混みで10コルだからなにもしなくても三ヶ月は問題はない。

だけど、明日からは冒険者ギルドでお金を稼ごうと思う。次の町までは一ヶ月かかるのだ。保存食や日用品も買わなくてはいけない。お金に余裕はあるけど、何があるかわからないし、貯めておくことに越したことはないだろう。


「はい、おまちどうさん!」


おばちゃんがトレーに乗せた夕食を目の前に置く。

白い湯気が立ち上るスープにはなにかの肉が厚く切って入っている。

そして、なにより一つの器に目がいってしまう。


「こ、これって! おばちゃん! この器に入ってる粒って!」


「ああ、知らないかい? これは玄米だよ。首都からここらへん一体はパンより玄米が一般的なんだ」


「そ、そうなんですか。カラエドだと黒パンばっかりだったんで」


「あそこはそうかもしれないね。町の領主様がパンが好きらしいからね」


おのれデニスさん! あなたはパン派だったのか!

でも、何たる幸い。こんな異世界でパンではなく米が食べられるなんて思ってもいなかった。しかも、中身はキノコの炊き込みご飯だ。うーん。良い香りだ。約一年ぶり? の米食に私は感動して直ぐに食べ始めた。スプーンで食べるっていうのがなんか違和感があるけど、やはり米だった。余りの懐かしい味に感動した。涙が出そうだ。

スープに入ってる肉も美味しい。これは鶏肉かな? 出汁が出てて美味しい。なにより、寒かった体が温まる。


「おばちゃん! おかわり頼んでも良いですか!」


私は気づいたら完食して叫んでいた。おばちゃんは「おやまあ」と言いながらこちらに寄ってくる。


「そんなに気に行ってくれたのかい? 有難いね。おかわりは1コルだけど良いかい?」


「はい! とても美味しかったです」


私はおばちゃんに小袋から青銅貨を1枚渡した。


「主人もこんなに美味しそうに食べてくれるなら喜んでくれるよ。じゃあ、ちょっと待っとくれ」


その後、おかわりをしてから私は満足して、部屋に入って荷物を下ろして直ぐにベッドの上に寝転んだ。明日は冒険者ギルドで魔石の換金や依頼をこなさないと……な。


旅の疲れとほど良い満腹感に私は意識を失った。


 明けて、次の日。朝食も米とベーコンエッグが出てきた。もう、この村に居着いても良いかもしれない。まぁ、冗談だけど。


部屋から余分な荷物を置いて、冒険者ギルドに向かう。大きくない村なので直ぐに剣とペンをモチーフにした看板が見えてきた。あれが、冒険者ギルドだ。大きさはカラエドの町よりも大分小さい。大体、一軒家の二つ分くらいの大きさだ。まぁ、この村だとそこまで大きくなくても良いのかもしれない。

冒険者ギルドに入ると、入ってすぐの右の壁に依頼ボード。左に4人用の机と椅子が3つほどある。受付は30後半くらいのおばさんが一人経っていただけだ。


まず、依頼ボードを見る。

ふむふむ。薬草の採取に魔狼の討伐依頼にゴブリン、コボルドの討伐依頼か。

どれも恒常依頼でありきたりだなぁと思った。

だが、ふと2つの依頼に目を行く。

一つは幼龍の討伐だ。ここから二つ先の村の山頂に幼龍が住み着いたらしい。討伐報酬は500,000コル。思わず、金額に目を見張った。500,000コルだ。つまり金貨50枚! 途方もない金額だ。これだけで、一生暮らせる金額だ。依頼難易度はB+からA-ランク。私のランクはEランク。文句無しで無理です! ありがとうございました。


そして最後に、狩猟の護衛と手伝いという依頼だ。これは期間が一ヶ月。かなりの長期依頼だ。また、金額は依頼主と要相談との事。ランクはDランク。いけそうかな? 

まず、どのような内容なんだろうか。

その依頼書と恒常依頼の薬草の採取、魔狼、ゴブリン、コボルドの討伐依頼の4枚を持って、受付に持って行く。


「冒険者ギルドへようこそ。お兄さん」


冒険者ギルドのおばちゃんは気だるげに挨拶をしてくる。私も軽く会釈してから依頼を4枚見せる。


「あのーこの4枚の依頼を受けたいんですけど」


「あぁ、はいはい。魔狼にゴブリン、コボルドの討伐ね。それに、狩猟の護衛と手伝い……か」


「ええ、その狩猟の護衛と手伝いについて詳しく聴いても良いですか?」


「その前に冒険者証を見せてもらっても良いかしら?」


私は冒険者証を受付のおばちゃんに渡す。


「名前はアラン。ランクはふぅーん……Eランクね。恒常依頼については問題ないけど、狩猟の護衛と手伝いは許可できそうにないわね」


まぁ、Dランクの依頼だしな。そりゃ、Eランクに任せられる依頼ではないだろう。だけど、私はこの時の為に、背嚢からとっておきの物を取り出して見せた。


「これは、オーガの角!」


「ええ、私が討伐しました。これでも、ダメですかね?」

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