目覚め11
「今、このアイテムを集めるためにも足りないものがある。まず、冒険者と錬金術師だ」
「冒険者ならここにいるぜ。親父と俺と後、5人組のCランクパーティ。俺の代わりに遺跡調査に行ってるやつらを呼び戻そう。そして最後にアラン。お前だ」
「なるほど。風精霊の涙と富士の霊水は取りに行けば問題はないし、二人の戦闘力も申し分ない。白王蜂の蜜は戦闘になるが5人組のCランクパーティならいけるだろう。月光花の蜜に関してはアラン君行ってくれるかい? オーガが生息している地域だ。最悪、戦闘の危険もある」
「それに関しては俺と親父が保証する。アランはオーガを一体討伐している。一対一なら負けはしないだろうさ」
「そうか! ならよろしく頼むよ」
「はい。エリカの為なら、任せてください」
「……あと、最後に絶対に話さなければならないことがある。今までの文献から、覚醒が始まってから12日間。それが過ぎたらエリカは二度と目を覚まさないだろう」
私たちはカラエド周辺の地図を広げて目的地と掛かるであろう日数を計算する。周囲を山で囲まれているカラエド。それを、四人で地図を見て、現状の確認をする。
「風精霊はカラエドから北西に徒歩で3日程の山頂にいる。往復に6日登下山に2日ってところだな。ワシは風魔法も出来るし、風精霊とも一番相性が良いだろう。魔物もCランクがほとんどだ。ここは任せてくれ」
「富士の霊水はここから南東にある場所だったな。確か、富士の山頂の雪解け水だろ。魔物はBランクがいるが野伏の俺なら回避して進む事も難しくない。俺に任せてくれ。徒歩だとしても往復で5日。登下山に2日半ってとこだな」
「白王蜂の蜜はカラエドから徒歩で南に往復で6日。巣を探すのと討伐に1日ってとこだな。白王蜂自体は群れの規模にもよるがCランク程度だ。火の魔法使いがいるからあいつらとも相性がいい。今あいつらは冒険者ギルドにいるはずだから直ぐに指名依頼で行ってもらおうぜ」
「ああ、そうだね」
「月光花の蜜は、カラエドから北東。この前、アランがサバイバルした東の魔物の森を徒歩で3日程行ったとこの山頂に咲く花だ。夜にしか咲かない特殊な花だから気をつけてくれ。カラエドから徒歩で往復6日半。登下山に3日だな」
「一応ワシら全ての場所の目的地についても1,2日程、余裕をもっているから急いで、怪我をしたり、魔物に襲われる危険性も高い。仕損じる事はするなよ」
「はい、わかりました」
「では、明日は準備期間として1日使い、明後日から行動を開始しましょう。私は首都から高名な錬金術師を呼びましょう。大体、5日ですね。錬金術自体は1日もあればできるらしいです。」
「私は、明日からでも大丈夫です!」
「アラン君。急いては事を仕損じます。まずは、万全の準備をしてから行動しましょう。だけど、皆さん気を抜かないでください。明日一日と錬金術の一日を使いますので、実質10日がタイムリミットです」
デニスさんが、私を嗜める。そうだ。急いでも、私自身まだ準備も出来ていない状況だ。それに、一番辛いのはデニスさんだ。デニスさんが貴重な一日を使ってでも準備をしろと言っている。万全な状態で臨むべきだ。
デニスさんが一同を一瞥する。
「では、良いかね」
私たちは神妙な趣で頷いた。
「じゃあ、今日は解散だ。明日から準備を開始して、明後日の早朝から行動に移ろう」
「その前に一つ聴きたいことがあるのだが、良いか?」
「ギルド長それはなんだい?」
「いやな、アラン。背中の捲ってみてくれないかの」
「私ですか? はい、わかりました」
私はその場に立ち上がり、背を向けて服を捲る。
「アラン。いつの間に入れ墨なんて入れたんだ?」
「ん? 入れ墨なんて入れたことないよ?」
「じゃあ、なんだ? 背中の中心にでっかく丸い円に羽が付いているみたいな入れ墨が書いてあるぞ」
アレンが尋ねるが私は思い当たる節がない。なにせこの方入れ墨なんて、入れたことなんてないのだから。というかいつの間に入れ墨なんてあったんだ。
「……冒険者ギルドの事でだ。エリカ嬢がアレンの身体の怪我を調べていた時、背中を触った時にエリカ嬢は真白く輝き、意識を失ったのだ」
「な、なんだって?」
「え!? じゃあ、私が原因でエリカが倒れたってことなんですか!」
「……わからん。その入れ墨にもエリカが倒れた覚醒した原因にもな。だが、確証はないが、それが関係している可能性はあるかもしれない」
一同に重い沈黙が降りかかる。もしかしたら、私が原因でエリカが覚醒をした可能性がある? そんな馬鹿げた話があるのだろうか。だが――
「詮索は止めよう。考えても今は意味がない。今日は解散して、準備をしてくれ」
デニスさんの言葉に皆頷いて、その場を立ち上がる。アレンとギルド長は扉へ向かっていた。
「エリカ……」
「おい、アラン。先に行くぞ」
「うん。行くよ」
エリカ……君には話したいことが沢山あるんだ。君の事は確実に救って見せる。
次の日、アレンと私は二人で大通りの市場で旅の為の、準備を開始していた。保存食に防寒着等を物色していく。そう、今は秋の終わり。もう、冬に差し掛かっている。今の時期に山頂に登るということは、防寒着がなくては凍えて身動きを取るのも難しくなってくる。他にも、ロープや
「アラン。保存食は不測の事態を考えて、9日分は用意しておけ。他にも、山に登る際は、一気に登ろうとするな。高山病になるかもしれないからな。はじめはゆっくり進んで山に体を慣らさせろよ」
「わかった。高山病か、確かにその状態で魔物に遭遇しても戦うことも逃げる事も出来なさそうだしね」
「そうだぞ。あと、武器は大丈夫か? 極力、戦闘は避けて進むのが一番だが、用意しておかないと対応できないからな」
「武器は片手半剣を研ぎに出してる。今日の夕方には終わってるはずだよ。投擲用のダガーも追加で3本買った。全部で8本はあるかな」
「それだけあれば問題はなさそうだな。あとはポーションを3個とポーション用のホルスターを買った方がいい」
「ポーション?」
「ポーションは錬金術師が作る回復薬だ。飲めば、回復魔法の下級程度、切り傷や捻挫程度は治せる。一応、用意しておきな」
「わかった」
それにしても、ポーションとはやはりここはRPGの世界なんだな。
その後、ポーションを3つ買い。ダガーを固定するホルスターとポーションを固定するホルスターも買った。他にも、寝袋や魔力を込めると発熱する石。燃焼石というらしいも買って、昼には準備が終わってしまった。
アレンと昼食を取った後、修練所にて訓練を開始する。明日から採取に向けて旅経つということもあって、いてもたってもいられなかったからだ。アレンも同じようで訓練をしていた。
流石に、怪我をする可能性もあるので、二人で模擬戦をすることはしなかったので、お互い無心でそれぞれ分かれて訓練を行っている。
私は紫電流の技を磨いた後、ダガーの投擲術の訓練を行う。
この採取では極力戦闘を避ける事が必然的に日数を稼ぐことになる。魔物を見つけても避けられない場合以外は避けるのが一番良い。
ダガーで魔物を負傷させて逃げる事も視野に入れて訓練を行う。
気が付いたら、ギルド長が傍らで私の訓練の様子を眺めていた。辺りを見回すともうアレンも姿はなかった。訓練を切り上げたようだ。
「ギルド長。いらしていたんですね」
「ああ。もう、日も暮れる。そろそろ身体を休めろ」
「そうでしたか。わかりました。これ以上やっても体力を消耗するだけですしね」
「そうだ。あと、お前に渡しておくものがあったのを忘れていた」
ギルド長は腰のホルスターから黒い試験管とコルクを2本取り出して渡す。
「これは?」
「月光花は月夜でしか咲かない花なんだが、蜜も朝日を浴びると不純物が混ざってしまう。そうすると錬金術には使えない。日光が入ってこないようにこれに入れろ。1本は予備だ」
「ありがとうございます」
「アラン……」
ギルド長が消え入りそうな声で呟く。その姿は自身に満ちたいつもの彼の姿ではなく、なにか酷く恐れいているように見えた。
「なんですか? ギルド長……」
その姿に不穏に思うも、ギルド長は「いや、なんでもない。忘れてくれ……」と言ってその場を去ろうとする。
「アラン。無茶だけはするなよ」
ギルド長はそう言葉を残すと修練所の入り口の階段を上っていった。
はて、どうしたのだろうか。もしかしたら、私だけ、メンバーの中で実力がないから心配されたのかもしれない。でも、そんな事は皆、承知のはずだ。他に言うことがあったのかな。聴いておくべきだったかもしれない。