表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晦冥戦記 (臆説・河越夜戦)  作者: 曠野すぐり
後北条家
8/12

1章 (8)


「糸月を、貸せと?」


「はい」


 綱成は元忠の心中を計りかねた。仕える忍びを貸せと言うのに、元忠の口調に重々しさは微塵もなかった。まるで、草履を貸してくれとでもいうような感じだった。

 しかし元忠が言う以上、糸月でなければならない任務があることは確かなはずだった。


「貸せと言うが、一度や二度、使いにやるという程度のものではないだろう」


「そのとおりです。手前の策を練り上げ、実行時にも指揮をしてもらいたいと考えております。つまりは合戦まで、手前の手足となっていただきたい」


 綱成は瞑目して腕を組んだ。そして口元を強く結ぶ。その間、多目元忠は涼しい顔で正面を見据えていた。


「どうかな……」


 綱成が口を開き、重低音が室内に響いた。優れた武将はいずれも声の通りがいい。


「糸月は単騎の忍びだ。だから一族からの縛りがない。そういう者は、仕える人間に心酔していないと、関係はうまくいかない。おぬしにあの忍びが使い切れるかな」


 心酔どころか、糸月は多目元忠に警戒の目を向けている。


「兵や金を貸せというならともかく、これに関してはな。人の気持ちだからむずかしいな。糸月は優れた忍びだが、逆に優れているからこそ、動かしずらい。気に食わない者からの任務では、手を抜くかもしれんぞ」


「それは承知しております。しかしそれしか策がございません。この一度きりでいい、手前の願いどおり、糸月に命じていただけますでしょうか」


「多目元忠に付け、と……」


「はい」


 十月の夕闇が元忠の瓢げた顔を赤く染めていた。綱成はどうにも解せなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=581143448&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ