2章 (4)
忍びは現実だけを冷徹に見つめなければならない。そうしなければ、すぐさま死に直面する。
しかしそれでも、ほんのいっときは、現実の行動に役立たない感傷や考察にとらわれる。今が、そうだった。
糸月はいま一度、体を一周させて全景を見回した。天守の代わりになる富士見櫓から、河越の地を俯瞰している。3つの川が流れ、その間の陸地に、敵勢が点々と陣を張っている。
城守北条綱成が多目元忠を信用し、そして元忠が戦闘の意向を示しているのであれば、河越城は戦に舵を切ることになる。
おそらくは全滅だろう。その昔、後北条とは縁のない北条氏が関東を中心にこの世を治めていたときに、大陸「元」軍を破った際のような天変地異でもない限り、勝利は不可能だろう。
ここで命を落とすのはいい。糸月は真からそう思う。一介の忍びなのだから、仕えている者に命を捧げることくらいなんでもない。しかし……。
これが綱成の下での戦であれば、なんら悔いなく戦い、そして命を差し上げることに惜しみは感じない。むしろこの時代に生きる忍びにとって、最高の晴れ舞台となる。敬する者の下、全身全霊で最後の一戦を、心おきなく構えられるからだ。
だが多目元忠の下では、そうはいかない。なんの疑問もなく戦いに打ち込められない。中途半端な気持ちのままに、死ななければならない。それがなんとも、やりきれなかった。
それでも綱成の命令に逆らうことはできない。今後多目元忠の手足となって、動かねばならない。
最後くらい、思い切り戦いたかった。糸月は白いため息を中空に放った。




