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晦冥戦記 (臆説・河越夜戦)  作者: 曠野すぐり
糸月という忍び
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2章 (2)


 迷いながら城に戻った糸月だが、綱成と多目元忠が同室にいたことで、どちらに行くかの回答は出さずに済んだ。


 スッと音なくして入り、片膝を付く。


「ご苦労だった。さっそく状況を聞こうではないか」


 こう言ったのは元忠の方だった。綱成は満足げな表情で頷くばかりだ。

 元忠の方へと体を向けて報告をすべきか、糸月は迷った。そしてほんの一瞬、綱成を見た。


「糸月よ」


 自分に走らせた視線を咎めるように、綱成が口を開いた。


「おぬしがワシと元忠のどちらに向かっていいのか迷うと思い、今晩は承知で一緒にいたのだ」


 綱成の重低音が、糸月の体をざわめかせる。


「いいな、これからは迷わず元忠の方へ行くのだ。そしてな、ワシにはなにも報告しなくてよい。元忠だけに伝えろ。ワシのそばへも来ないでいい」


 糸月が驚き、口をポカーンと開いた。そして言葉を発しようとするのを、綱成が手で制した。


「指示系統は一つの方がいい。おぬしがワシに報告すれば、ワシが言葉を発せずとも、表情を読む。それが元忠の指示と違えば、その後のおぬしの行動に迷いが生じる。そのわずかな迷いが、命取りになる。不利な戦況であれば、それは尚更じゃ」


 まだ不満顔の糸月に、綱成は今度、諭すように言った。


「おぬしのためでもあるのだ。ワシは元忠からおぬしの伝言を聞く。それで充分じゃろう」


 言い終えると、ホレッ、と元忠の方へ顎をしゃくって、綱成は部屋を出て行ってしまった。


「それでは、聞こう」


 元忠が、いつもの、笑みを浮かべているような表情で糸月を促した。元忠はこと表情に関しては、緊迫感に欠け、武将の感がない。

 ようやく覚悟を決めた糸月は、元忠に体を向け、両の目をしっかり見つめて話し出した。


 糸月の報告は無駄な言葉のない、簡潔なものだった。そしてまた、状況報告だけではない。自身の分析も加える。それが元忠の考えるものと合致し、元忠は同意の頷きを見せた。


「敵勢は戦勝気分が蔓延し、気の緩みが感じられます。寒さが厳しい時期へと入り、陽が落ちてからは見張りすら立てておりません」


 明け渡しも一つの方策とする綱成の、逆を突く報告だ。徹底抗戦を唱える元忠を、さらにその気にさせるような言葉。それでも、これが客観的事実であれば、隠すことなどできない。糸月は淡々と言葉を並べた。

 

 



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