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第1話
この世界では、全ての者が15歳の時に神殿で神から一人一人にそれぞれ能力を授けられる。ほとんどの者が冒険者を夢見て冒険に役立つ能力を望み、決して少なくない者たちが夢破れダンジョン攻略を断念する。それがこの世界の恒例儀式だった。
この年もほとんどの少年少女が冒険に役立つ能力を望んで教会に集まった。この物語の主人公イルもそんな少年少女の一人である。
半分近くの者が儀式を終えてそのうちの4割は強力な攻撃魔法や強化魔法、回復魔法などの能力を手に入れ、残り6割は手にした能力になんの活路も見出せず途方に暮れていた。イルは残り6割の方だった。その能力はというと『無限乗』というものだった。内容は
『この能力の持ち主の攻撃力を無条件に2にする。しかし、その攻撃力は一体の敵に対して攻撃回数乗される。』
というものだった。聞いたことのない名前に大きな期待を持った直後に自らの攻撃力を2に固定するという言葉を聞いて絶望した。実はかなり強い能力なのだが、ほとんどの者が数学を知らないこの世界でその強さに気付くものはいなかった。