2.死闘の始まり
よろしくお願いします
夏休み初日。
俺は買ったばかりの新作pcゲームで遊んでいた。
高校の1学期が終了し、夏休みに入った初日から家に引きこもりゲームをしている俺に、母と父は何も言わなかった。
なぜなら、父と母はこの世にはいないからだ。
3年前にトラックとの衝突事故で家族の中で俺と妹だけが生き残った。
奇跡的に俺は無傷だったが、妹は病院で3年が経った今でも昏睡状態だ。
妹が眠る市内の病院には毎日通っている。
カチカチッカチッ
「イモってんじゃねーよ!このくそっ!」
今流行っている新作のpcシューティングゲームでヤケになっている。
「くそ、このイモやろう、あーもう、やってらんねぇ」
そう言ってpcの電源を切る。
家に1人でいてやる事などない俺は、散歩に出かけることにした。
真夏の陽を全身に浴びながら、近くの商店街へと足を進める。
ーーゲーセンにでも行って暇つぶしするか。
商店街の小さなゲーセンに入る。
そして、大きなシューティングゲームの前へ立つと、目を瞑り、集中する。
1回100円。
100円を入れる音の次にシューティングゲームのメインメニューが画面に現れる。
ーーあれ?俺を越した奴がいるな。
そう、俺はこのゲーセンの完全VR対応型シューティングゲームでランキング1位を取り続けている。
だが......
ーー1週間来なかっただけで抜かれるかー。えっと、ユーザー名は、『泥僕猫』か、へぇ、俺より強い奴がねぇ。
俺は久々の強敵に武者震いしながら、気合を入れる。
そして、画面には『ゲームスタート』の文字が表示される。
「右、左、右、反転して、左、そして上3の下2、トドメだぁ!」
俺は昔からシューティングゲームが得意だった。
というより、動いているものを把握し、瞬時に対応することに長けていた。
反射神経だけは負ける気がしない。
そして、見事ランキングは1位、今までで1番の記録を叩き出した俺は、しばらくその記録を眺めていた。
ーーこんな能力、意味なんかないんだけどな。
俺が帰ろうとした時、後ろで観ていた少女が俺に声をかけてきた。
「ねぇ、私と勝負しない?」
ーーなんだこいつ、俺の通う学校と同じ制服、そして俺と同じ学年の色、ってことは俺と同級生か?でもこんな奴知らないぞ。
俺の学校は決して人数が多いわけではない。
1学年、3クラスの普通の高校だ。
でも何故が俺はその少女のことを知らなかった。
「勝負?」
「そう、私、そこに書いてある2位の『泥棒猫』よ」
ーーこいつが。
短い黒髪に、身長が140センチくらい、ぱっと見小学生にも見えるこの少女が、僕に並ぶこのシューティングゲームのランキング上位者なのか。
「いいぜ、じゃあやろうか。1 on 1形式でいいよな?」
「問題ありません」
「そうか、じゃあ勝負だ」
シューティングゲームに200円を入れて、対戦プレイを始める。
俺の装備は、いつも通り特攻の、”デザートイーグル”だ。
そして、相手の装備はというと......
ーーなんだこいつ、”投げナイフ”だと?1番威力が低くて、1番当てにくい武器じゃないか。本気か?
画面に『ゲームスタート』の文字が表示される。
ーーまあ、手加減はしないけどな。いつも通りグレネードからの速攻でいかせてもらうぜ。
ステージは半径300メートルの市街地。
真ん中には大きな川が流れており、ステージを西と東に分けている。
そして高層ビルや民家が立ち並ぶステージだ。
スタート位置はバラバラだが、必ず西側と東側にプレイヤーは1人ずつ配置される。
そして、その西と東を結ぶ一本の橋がある。
相手の陣地に攻め込むなら必ずここを通るしかない。
ましてや、飛距離30メートルの投げナイフときたら、まず攻め込まないと勝機はない。
そこをあえて俺が潰す。
相手を戦闘不能にさせたら終わりというとこのゲームで、最初に橋にたどり着いたほうが勝者となるだろう。
今回俺は橋に最も近い場所にリポップされた。
俺は橋の近くの廃ビルに入り、橋を観察する。
ーーさあ来い。
すると突然、後ろから攻撃を受け、HPが少し減った。
ーーなんだ!?
振り返ると、そこには『泥棒猫』がいた。
ーー何故こいつがここにいる!?まて、そうか!こいつ、極限まで防御力と攻撃力を抑えることによって機動力を最強にしたのか!だから俺より早くここまで。しかも、カスタム投げナイフか!
慌てた俺はとりあえずグレネードを放る。
ーーど、どこだ!?いや、焦るな、落ち着け。相手は機動力が高いだけだ。見極めれば倒せる。
相手を見失ったため、警戒をしながらも廃ビルから出て、市街地を走る。
ーーどこからくる。
すると、またHPが少し減った。
ーーくそっ!またやられた、裏どりか!?
このままじゃ、負ける。
どうする?弾は十分にある。
だか、あの速さだと狙いが定まらない。
集中しろ、当てるんだ、出なきゃ負ける。
相手の動きを見て、いや、予測するんだ。
次に来る攻撃は......
ーーみぎだ!
俺は相手を視認する前に攻撃をする。
その弾は見事、『泥棒猫』へと命中した。
ーーまだだ。
右、左、一歩下がって上、そして、トドメだ。
画面には『YOU WIN』の文字が表示されていた。
VRをシステムを解除して、隣にいる『泥棒猫』へと話しかける。
「強いな、お前」
「やはりね、赤か」
「赤?」
「いや、なんでもない、私の名前は雨宮 雫」
「俺は、黒木 陽炎だ」
「じゃあ、またね」
と言って雨宮はゲーセンから走って立ち去った。
俺は全神経をこのシューティングゲームに使っていたため、ヘトヘトだった。
自販機でジュースを買い、飲み干した後家に帰ることにした。
商店街を抜けた道を左地曲がり少し進んだ大通りを左に曲がる。
要はUターンだ。
外界の音が鬱陶しくなった俺は、ポケットからイヤホンを取り出して、自分のケータイにさし、音楽を流す。
信号が赤になった。
黒いフードを深く被り、日差しを遮る。
そして前方を向くと、そこには先程別れたはずの雨宮が微笑みながら立っていた。
俺は気まずかったので、目をそらした。
信号が青になる。
人々が一斉に歩き出す中、俺と雨宮は向き合いながら横断歩道の両端で静止している。
すると、雨宮がパーカーのポケットに入れていた手を上へと指差す。
フードの隙間から見ていた俺は上を見る。
そこには......
落ちて来る鉄骨。
次に衝撃。
そして沈黙。
そう、その瞬間俺は死んだのだった。
〆〆〆〆〆〆
ーー体が熱い。
目が醒めると、死んだはずの交差点にいた。
「あ、あれ?俺は......」
手にぬめっとした感触がしたので、恐る恐る手を見ると......
「なんだよ......これ......」
手には赤い液体がべっとりとついていた。
コンクリートの上にも、俺の服にも。
そして、コンクリートには鉄骨に潰され倒れている俺がいた。
「なんだよ、なんなんだよ!これは!」
余に唐突な出来事で頭が混乱している俺の耳に、後ろから聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「あなたは死んだんだよ、ニートさん」
「お、お前は......!」
聞き覚えのある声の正体は俺とゲームで勝負をした雨宮 雫だった。
「ぼ、俺が死んだ!?」
「そう」
「こ、これが俺なのか!?」
「あなたは落ちて来た鉄骨に潰され、死んだんだよ」
「そ、んな......ははっ、これは夢だな、そうだ、夢だよこれは」
「夢でもなんでもないわ」
「うるさい!」
「......」
「あ、ご、ごめん......」
「私の眼を見て」
「眼?」
俺はそらした目を戻し、雨宮の眼を見る。
「お、お前、その眼......」
雨宮の眼は青く輝いていた。
まるで青く光るサファイアのように。
青く青く、そして、 何処と無く悲しそうな眼をしていた。
「私は青の眼を持つ者」
「青の眼って、そう言えばなんで交差点を歩いているやつは俺たちがまるで見えていないように通り過ぎるんだ?」
「死んだからだよ、貴方が、さっきも言ったじゃない」
「でも、ここは天国とかそういうものじゃない気がするんだが」
「貴方は特別」
「特別?」
「神のゲームに使われる駒よ、私も、そして貴方も」
「神って、そんなものいるわけが......」
「いるのよ、しかも人間と変わらない外見でね、神は人が人としての力の範囲を超えたもの、そう、不死と言う特権を得たものだわ」
「でも、ゲームだなんて」
「力ってのは不死だけじゃ無いの、あらゆる運命を変え、空間を作り出し、そして自分が楽しむためのゲームを作る、そうやって暇つぶしをして来たの」
「じゃあ、俺が死んだのもその神ってやつが俺の運命を曲げて、俺を殺たってのか?」
「まあ、そうなるわね」
「ふざけるな!俺には妹の看病があるんだよ!こんな所で死んで、殺す、殺してやる!」
「ゲームで勝てば生き返れるわ」
「そのゲームってやつがいまいちわからないんだよ」
「さっき説明した通り、神様が暇つぶしのために作った私たちという”駒”を戦わせるゲームよ」
「なんて理不尽で自分勝手な奴らなんだ、神ってのは」
「まあでも、優勝したら願いを一度だけなんでも聞いてくれるらしいわよ」
「じゃあ......」
俺がなにか言いかけた所で、俺達がいる交差点から1つ目の交差点に何かが落ちて来た。
その衝撃で、爆音とともに強い爆風が押し寄せて来た。
「くぅ、いったいなんだ!?」
「どうやら来たようね、”ゲーム参加者”が」
ーーそれってもしかして、俺たちと同じ......
爆風で散った砂埃が地面に落ちていき、その”ゲーム参加者”が姿を見せる。
そこにいたのは......
「お、おい待てよ、こんな小さい子もなのか?」
そこにいたのは、どう見ても小学生としか思えない外見でこちらを睨む少女の姿があった。
「全く理不尽よね」
「で、でも流石に小学生は......」
「そんなことで手を抜くとやられるわよ」
「く、くそっ!ぜってー神の野郎を殺してやる」
少女の髪は白くたなびき、まるで宝石が散りばめてあるようだった。
そして光り輝く緑色の宝石のような2つの眼をしていた。
「私は”ソラ”です」
少女は名乗り、右手に持っていた剣を構える。
「こんなこと、やめないか?俺は戦いたくない」
「そうですか、では、私のために負けてください」
ソラはそう言って地面を強く蹴る。
ソラがだんだん大きくなって行くような錯覚を覚える。
実際はソラがとてつもない力で地面を蹴り、地面と平行の力を重力の数十倍にすることで、地面と平行に俺に向かって来たのだった。
「危ない!」
ガキィィィン!
俺に当たる寸前で、ソラの攻撃を雨宮がバリアする。
「何やってるの!死ぬわよ!私のバリアは長時間はもたないわ、だから早く力を使って!」
ーー力ってなんだよ、俺にそんな力なんて......待てよ、力なら、反射神経が人より優れているぐらいしか......
「集中しろ、俺」
ソラは雫が張っているバリアに、物凄い勢いで攻撃を何度も繰り返している。
ーー考えることは一つ、目の前の敵をとにかく傷つけないように倒す!
「も、もう限界!」
雫はそう言った瞬間、雫が張っていたバリアが消滅する。
「覚悟してください」
「いや、まだだ......」
ガキィィィン!
「!?」
俺の手には日本刀が握られていた。
ソラがバックステップをして、俺と距離を取る。
「あ、赤!?」
俺の左目は深く濃い、赤色に染まっていた。
「は、ははっ、は、はははははっ!死ねよ?」
俺はその時、自分が自分でないような、そんな感覚だった。
ーーなんだこれ?おいっ、やめろよ、やめ、それだけは!それだけはやめろぉぉ!!
グチュッ
俺は自分を止めることもできずに、気づけばソラを殺していた。
それも原型すら残らないようにバラバラに。
「陽炎!」
雫の叫び声で正気に戻った俺は、自分がした事と現場の悲惨さを見て、日本刀地面へと落とした。
静かな交差点に、日本刀の金属音のみが響き渡った。
「あ、れ?俺は、こ、これは俺がやったのか?」
赤く染まった自分の手と日本刀を見て、俺は絶句した。
叫びにならない悲鳴をあげ、眼からは血の涙を流していた。
俺はそこで、気絶した。
ありがとうございました