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温泉だよ、全員集合!  作者: ムク文鳥
3/7

全員集合


 このホテルの若女将である姉を通じて、カノルドス王国の面々や『真っ直ぐコガネ』のメンバーたちをそれぞれの部屋へと案内した康貴は、再び宴会場へと戻ってきた。

 彼が宴会場へ戻ると、温泉に入っていたエルとあおいも戻ってきており、浴衣姿でレグナムたちやレイジたちと楽しそうに会話をしている。

 ちなみに、カルセドニアは部屋の片隅で伸びている辰巳の介抱の真っ最中。さすがにあちこちの異世界を飛び回るのは、辰巳にしても重労働であったらしい。

 そして、部屋の中には先程まではいなかった顔ぶれもある。

「お、福太郎くんと美晴さん、それに潤くんたちも到着していたのか」

 新たに加わった顔ぶれ。それは康貴たちと同じ日本で暮らす友人たちであり、これで本日のメンツは全員揃ったことになる。

「本日はお招きいただき、ありがとうございます、康貴さん」

 丁寧な言葉遣いで康貴に礼を述べたのは、彼とほぼ同い年の青年である。

 百八十センチを超える長身にすらりとした体型。短くてもさらりとした柔らかそうな髪に、優しげな雰囲気の非常に整った容貌。そして、縁なしの四角い眼鏡の奥で黒い瞳が温和に細められていた。

「あ、あ、あの、ほ、本日はよろしくお願いしますっ!!」

 その青年の隣で、黒髪を後ろで束ね洒落っ気のない黒縁眼鏡をかけた青年と同年代の女性が、あたふたと頭を下げた。

 青年の名前は幸田(ふく)()(ろう)。女性の名前は伊勢()(はる)。康貴たちが住む日進市からは、かなり遠い場所で暮らしている友人たちである。

 高校を卒業して気楽な大学生生活を送る康貴たちとは違い、福太郎は高校を卒業すると同時に親戚が経営する全国的な大企業で社長秘書をしているという、ある意味でハードな人生を送っている青年である。

 対して、そんな福太郎の恋人である美晴は康貴たちと同じ大学生。高校時代同様に一人暮らしを続けながら、週末は必ず互いの家に出入りするという熱愛ぶりを周囲に見せつけているらしい。

「到着して早速で申し訳ないのですが、どうしてもこれだけは確かめておかなければなりません」

 右手の中指で眼鏡のブリッジを押し上げながら、福太郎はしごく真剣な表情で康貴に尋ねる。

「このホテルの近辺では、どんなクワガタが採集できますか?」

 きらーん、と眼鏡の奥で福太郎の瞳が鋭い光を放つ。

 そんな福太郎の隣に立つ美晴も、これまた真剣な表情で康貴の返答を待っていた。

 そう。彼らは極度のクワガタオタクなのである。

 高校時代、優秀な成績と人当たりのよい性格、そして芸能人も裸足で逃げ出すほど整ったその容姿から、極めて女生徒から人気の高かった福太郎。しかし、その過剰なまでのクワガタオタクぶりが知れ渡ってからは、かなり人気が落ちたと一部では言われていたそうだ。

 もっとも、当の本人は自分の理想である「クワガタに興味がある女性」の美晴と出会えたので、そんなものは全く気にもしていなかったのだが。

 康貴もこの二人の趣味は以前から承知しているので、その辺は事前に姉にリサーチ済みである。

「姉さんに聞いたんだけど、この辺りはミヤマクワガタがいるらしいぞ」

「ほう、ミヤマですか。それは素晴らしい」

 ミヤマクワガタが採取できると聞いて、期待に目を輝かせる福太郎。

 ミヤマクワガタはその名前の「()(やま)」が示す通り、山奥にしか棲息しないクワガタである。昼神温泉郷は奥深い山間に存在するため、街中では見られないミヤマクワガタもこの周辺に棲息しているのである。

「ただ、今の時期的に採集できるかどうかは、俺も知らないぞ?」

「いえ、七月上旬という今の季節はミヤマの活動期に合致します。夜間は街灯や自動販売機の明りに集まってくると思われるので、夜になったらホテル周辺の明りを見回ってみましょう

「夜出歩くのなら、十分気をつけてくれよ。当然、美晴さんも一緒に行くんだろ?」

 康貴の問いに、美晴が嬉しそうに頷く。昼神温泉郷は夜になっても決して危険な場所ではないが、それでも昼間とは違う思わぬ危険が潜んでいることもある。気をつけるに越したことはないのだ。

「夜に出歩くなら、懐中電灯とかホテルで用意してもらおうか?」

「いえ、その心配は無用です。当然、ライトは持参して来ましたから」

 縁のない眼鏡の奥で、福太郎の目が自慢気に輝いた。




 福太郎たちの次に康貴の目の前に来たのは、三人の少女だった。

 いや、「三人の少女」ではない。正確には、「一人の少年と二人の少女」である。

 亜麻色の髪を肩口よりやや短めに切り揃えた人物は、一見するととびっきりの美少女のように見えるが、れっきとした少年──男性なのである。

 彼自身、よく女の子に間違えられるのは悩みの種だったりするが、ここでは関係ないので割愛。

 彼の名前は(あか)(ざき)(じゅん)。実家のある町の高校に通う学生である。

 しかも彼の暮らす町は愛知県に存在するので、康貴たちとは辰巳とカルセドニアを除けば──辰巳たちは普段は異世界にいるので──一番交流のある相手でもある。

 そんな少女のような少年の両隣には、正真正銘の少女たち。

 一人は背の高い長い黒髪の、凛とした印象の少女。対して、もう一人は小柄でふわふわとした雰囲気の金髪の少女である。

「ご無沙汰してます、康貴さん。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 潤が元気よく頭を下げれば、一緒に左右の少女たちも頭を下げた。

「お久しぶりです、赤塚さん。本日はお世話になります」

「やあ、あさひさん。元気そうだね」

 彼女が頭を下げるのに合わせて、腰まである長く真っ直ぐな黒髪がさらりと揺れる。

 少女の名前は瀬戸あさひ。潤とは幼馴染であり、現在は恋人同士の間柄でもある。

 凛としたどこか刃物のような鋭さを持ったあさひと、真夏の向日葵のような印象の潤が並ぶと男女が逆転しているような雰囲気があり、共通の友人からはそのことでいつもからかわれていたりするが、本人たちはそれでも至って幸せそうであった。

「にゅう、ヤスタカさん! 自分もいますです! 忘れないでくださいです!」

 康貴が潤とあさひを優しい眼差しで見つめていると、その間に強引に割り込んで来る者がいた。

「不肖このクルル・ミルル・パルル、今日は美味しいご馳走が食べられると聞いて、すっごい楽しみにしていましたですっ!!」

 小柄な体でぴょんぴょんと跳ねるクルルと名乗った少女。その際、その小さな身体に不釣り合いな大きな胸もぽよんぽよんと揺れて、康貴は慌ててそこから目を逸らす。

 だって潤たちの向こうで、エルがじーっと自分のことを鋭い目で見つめていたから。

「あ、ああ、そ、そうだね。今日はこのホテルの調理師の人たちが腕によりをかけて美味いものを用意してくれるから、楽しみにしていてくれ」

「本当ですかっ!!」

 ぱあああっと目を輝かせるクルル。ちなみに、彼女は現在潤の家である赤崎家に、とある理由から居候中。そんな彼女にとって、美味しい物を食べることは何よりの楽しみなのである。

 嬉しそうにはしゃぐクルルを苦笑しながら見ていた隆が、ふと思い出したように彼女へと告げた。

「ああ、そうだ、親父から伝言があったんだ。今度、そっちの市長さんとあれこれ相談したいそうだぜ?」

「相談……っていうと、そっちの『日進市のエルフさん』とこっちの『()(のう)市の魔法少女』のコラボレーションの件ですね?」

 「日進市のエルフさん」と「勢能市の魔法少女」。それは二つの市が行っている町興しであり、現在かなりの経済効果が見込めているらしい。

 そしてこの度、二つの市が共同でイベントを行う計画が立ち上がったのだ。主導するのはそれぞれの市長。何でも、二人の市長は以前から顔見知りだったとか。

 先日何かの会合で再会した二人の市長が、互いに同じようなことで町興しをしていると知って再度意気投合し、早速コラボレーションの企画を打ち出したそうだ。

 なお、「日進市のエルフさん」の正体がエルであり、「勢能市の魔法少女」の正体が潤であることは、関係者以外には秘密である。

 特に潤が「勢能市の魔法少女」であることは、勢能市の市長本人さえも知らないトップシークレット。

 最初は「魔法使い」と名乗ったはずなのに、気づけばその可憐な外見から「魔法少女」として祭り上げられたのだ。「魔法少女」の正体が実は男でしたなど、本人である潤にしてみれば墓場まで持っていきたい秘密であろう。




 本日の参加者が全員集まり、そして浴衣に着替えてくつろいだ格好となった一同は、改めて宴会場に集まった。

「えー、では改めまして……本日は遠い所から──それこそ異世界からこの場に集まっていただき、ありがとうございます」

 幹事役である康貴の挨拶が始まる。そんな康貴に陽気な野次を飛ばす者──某王様とか某神様のなりかけとか──もいれば、その姿に見蕩れる者──どこぞのエルフさん──もいたりして、場は早速混沌とした状況を醸し出し始めている。

「……というわけで、本日のスポンサーであるユイシーク陛下に、みんなからお礼の言葉をどうぞ」

 という康貴の音頭に合わせて、めいめいがユイシークへと礼の言葉を述べていく。

「なーに、気にするんじゃねえって。どうせ俺の機嫌取り目的で配下の貴族たちから献上された鎧や剣を、タカシの親父殿に売っ払ってできた金だしな。使う予定もなく蔵の中で埃を被っているだけの物だったし、これもまた有効利用って奴だろ? しかし、こっちの世界ってあんな紙切れが金なんだな。最初に見た時はびっくりしたぜ」

 紙幣というものがない世界で暮らす者にとって、やはり紙幣という存在は驚きであるらしい。もっとも、今回の面子の中には紙幣さえ廃れた未来に生きる者もいるのだが。

「……では、堅苦しい話はここまで。これからは思う存分楽しんでください」

 康貴が挨拶を終えると同時に、一同は思い思いの行動に出る。

 目の前の料理に目を輝かせる者、何よりもまず酒に手を出す者、近くの者と会話の花を咲かせる者などなど。

 こうして、宴は始まったのだった。



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