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藍川美樹ーお見合いと黒峰志貴の歌

忘れられない歌って、ありますよね。

 2年に上がっても、クラス替えはありません。3年に上がるときには、進路によって分けるそうだけれど、ほとんどがこのまま高校に上がるので、他の学校を受験する生徒だけの別のクラスができるそう。ただ、他の生徒はそのままなので、やっぱりクラス替えなしも同然だね。

 私と彰、それにときどき冬弥くんを交えて一緒に居ることが多く、……冬弥くんのファンに絡まれることがふえました。

 幸いというか、私が口が利けないのでただ聞いてるだけですんでいる。暴力を振るうということはさすがにない。ここらへんは校風もあるのかな?

 それに、私は彰のものという考えが、他の生徒達に伝わっているみたいで、それほどきつくはいわれない。

 ……実際、冬弥くんと二人きりになったのは、告白の時だけだから。あとは必ず彰と一緒なので、他の生徒も私と冬弥くんとの間にそういう、恋愛的な感情はないと認識はしているよう。

 それでも、やっぱり一番そばに近いのが私なので、八つ当たりくらいは甘んじて受けよう。


 冬弥くんのことはいいんだけれど、最近、私を探している兄妹がいるそうなんだよね。

 兄は音楽科の声楽の方なんだけれど、去年の文化祭で吹奏楽部のピアノ演奏をしていた生徒を探しているって噂で聞こえてきてる。

 妹さんは普通科で、同じく私のことを探している。

 彰と冬弥くんは、私のことがばれないようにと、そのふたりに近づかずにすむようにいろいろと動いているようで。


 赤月の家の調べでも、私との接点はなにもなく、ただ文化祭で聴いただけみたいで。それでもそれほどに執着していることが気になって、彰に直接話をしたいってお願いをしたんだけれど……。


「駄目に決まっている」

「アイテの目的もわかんないんだから。もし、ミキの正体に気づいてて、マスコミとかにリークされたらどうすんの」


 ふたりかかりで、説得されまして。はぁ、仕方がないか。今は様子を見ているしかないのかな。




 そうして過ごして、はや6月。今日はひとりで音楽室でピアノを弾いていました。

 というのも、冬弥くんの家の関係で、彰が赤月のおじさんの代理で先生方と会談中。それが終わるまでは、私も帰宅できません。……ひとりで帰ろうとしたら、思いっきり心配されまくっちゃって。ふたりとも、過保護過ぎでしょ。


 それにしても、さすが学園の音楽室。防音がかなり優れていて、室内の音は、扉のすぐそばで微かに聴こえるってくらいだから。

 だから、安心して、私はとても懐かしい曲を弾いていた。


 ……ffフォルティッシモ。私が参加する予定だった、この世界の元になったゲームの、オープニングの曲。

 『彼』が何故かその曲がお気に入りだったみたいで、私の参加が決まる前から、よく聴いていたから覚えてしまっていた曲。

 ……私にとっても、とても大切な曲。


 夢中になって弾いていると、そこに歌が加わった。


 ……聞き覚えのない声。耳障りがよく、凄く上手い。そして……。


 曲を弾き終えると、歌っていた相手を見る。

 音楽科の制服を着た、同学年の少年。彼は確か攻略対象のひとりで、黒峰志貴くろみねしきくんだったはず。だけど、確か彼の入学は、高校からのはずで……? はて? え? そういえばこの曲っていうか、歌詞を知っていた? え?


 混乱しつつ、改めて彼をよく見る。

 彼は私をじっと見つめて動かない。


 懐かしい? だけど初めて会ったのも確かで……。


 呆然として、暫く見つめあった後、彼が呟いた。


「葵……」


 ……わかった。彼は、黒峰くんは……!


 『彼』だ。


 気がついたら、私は彼にしがみついて泣きじゃくっていた。

 彼も優しく私を抱き締めてくれていた。



 暫くして、漸く私が落ち着くと、黒峰くんはきちんと説明をしてくれる約束をした。今日は時間がもうないからね。……それはいいんだけれど、なんというか、違和感が……。昔とは口調が違いすぎです。いや、まあ黒峰といえば、上から数えた方が早いくらいの名家。赤月よりも上だってことはよく知ってるけど……。前世を考えるとやっぱりね……。

 あと、彼の妹が私の妹の生まれ変わりだったそうで、ふたりして私を探してくれていたそうだ。


『ごめん。私から会いに行ければ良かったんだけど』

「仕方がないよ。赤月君の過保護ぶりはかなり有名だから」


 苦笑を浮かべて、私の頭を撫でてくる。


「後日、時間をくれるかな? 茜さんだった、妹のうたとふたりで、きちんと説明をするから。葵、あっと、今は藍川さんだね。君の事情も教えてくれるかな?」

『うん』


 と、そこで時間切れ。彰と冬弥くんが私を迎えに来た。


「待たせたな……?」

「ナンだオマエ⁉ ミキから離れろ!」


 ……冬弥くん、思いっきり私情が入ってるよ。


「すみません。探していた人に会えて嬉かったものですから。

 僕は黒峰志貴と申します。妹共々、藍川さんのファンなので、またお会いできるようにお願いをしていたのですよ」


 にっこりと微笑みつつ、黒峰くんはふたりに告げる。


「ファンてどういうコトだよ⁉」

「……いくつかのCD、それと去年の文化祭の演奏、ですね。僕も音楽は嗜んでおりますから、やはり知り合いたくなって、転入してきたんですよ。……妹共々」

「……なぜ、わかった?」

「音を聴けばわかりませんか?」

「……」


 音で聞き分けられたのは、二人目です。


「それでは僕は失礼をします。藍川さん、またお会いしましょう」


 コクンと私が頷くのを見て、満足そうに微笑むと、彼は去っていった。


「……おい、ミキ」

「?」

「オマエ、アイツにナンかされた?」


 首を横に振ります。


『彼の歌に、私が聞き惚れただけです』

「……聞き惚れた……!」

「ほう、それほどなのか」


 なんだと、とばかりにいきり立つ冬弥くんをほっといて、彰が私に訊ねる。

 ……攻略対象、ボーカルだからなのか、本当にいい声、いい歌だった……。


 私がそれを思い出してうっとりしていると、冬弥くんが拗ねてしまいました。で、取り敢えず今日はみんなで帰宅しました。





 それから数日後。私は赤月のおじさんに連れられて、とあるレストランに向かっていました。

 目的はお見合い……。なんでも、赤月の取引先の息子さんで、出来れば婚姻による結び付きが欲しかったそうで。ただ、赤月の方は、女の子が居なかった(おじさんの兄弟のお子さまは、みんな男の子だそうで)ため、この話は無理だろうとなっていたところ、おじさんの娘のような存在である私の話が上がったそうで。ーー私、庶民なのにいいのかな?

 あ、ちなみに彰と冬弥くんはこの事を知りません。……知られたら、後がちょっと怖い。お見合い自体は失敗しても問題はないそうですが。


 そうして会った、相手の人はーー黒峰志貴くんでした。……なるほど。こうきたのか。


「ほう、こちらが藍川美樹さんですか。なかなか可愛らしいお嬢さんですね」


 黒峰くんのお父さんらしい人に、私は取り敢えず礼をする。口が効けないことは知っているはずだし。

 そうして、暫くして若い子だけということで、私と黒峰くんは屋上の庭園に向かった。あ、会場はホテルのレストランだったので、屋上には庭園があるって、ほんとお金持ち専用みたいな感じかな……。


「これで、ゆっくりと話せるね」


そう言って、黒峰くんは話始めた。


「僕と詩が記憶を取り戻したのは、2年前の交通事故。目の前で女の子が轢かれたのを見て思い出したんだよ」


 ……2年前の事故……、まさか……。


「僕たちの前世での死因は覚えてる? この世界の元、ゲームの設定について話しているとき茜さんが来て、結婚式の話を相談しているときに、大型トラックが喫茶店に突っ込んで来た」


 ……なるだけ、思い出したくはないことだけれどね。覚えている。


「それから、暫くは記憶の整理と、事故の衝撃のせいもあったのかな。熱を出してふたりで入院をしていた」


 ああ、その話は聞いている。あの事故の時、その場には何人もの小学生がいた。目の前で事故を見て、ショックで通常の生活に戻れるのが遅れた生徒がいたことも聞いている。


「詩と僕、お互いのことはすぐに気がつけたんだ。なにしろ、つい鼻唄であの歌を歌ってしまっていたからね」


 うん。私もまだ関わってなかったにも関わらず、あの歌をよく覚えていたもの。なんでもあの歌、会社の社長の知り合いが創ったとかで、そのイメージに合わせてゲームを作成することになったそうだったから。


「そして、僕たちがこうしているなら、君も、葵も、どこかに居るのではないかと思ったんだ。本来なら、両親の喧嘩のせいで、海外にいっていたはずなんだけれど、あの事故で入院していたせいで、その喧嘩自体が起こらなかったんだよ。だから、このまま日本で君を探すことにしたんだ。そのために、まずは地元の一般の中学で探すことにして、学園にはいかないことにしたんだ。学園で探すのは、高校になってからでも遅くはないと思ったから。だけれど、あちこちの文化祭には、他校の生徒も集まることから、よく出かけて探していて。あのCDの曲を聴いたときから、もしかしたらその演奏者かも知れないと思って、特に音楽関係の催しには顔を出していて、そして、ここの学園の文化祭で見つけたんだ。だから、中途で転入することにしたんだよ」


 どうして?


『どうして、私が演奏していると思ったの?』


 前世では、ピアノは全くやっていなかった。


「そんなの、簡単だよ。君の歌なら聴いたことが何度もあったから。あの歌と同じ、優しい、暖かい感じかしたから。あの演奏者が、君かもしれないと気がつくのは、当然の事だったんだよ。僕も、詩も」


 今の私は、あの頃と違うと思う。生まれ変わって、別の人生を生きているのだから。

 それでも、黒峰くん……葉月響はづきひびきは私の音は変わっていないという。

 そう、たぶん私の本質が変わっていないからなのでしょう。そして、それは響も同じ。黒峰くんになっていても、こうして話しているとわかる。私が好きだった、響の本質、それが変わってはいない。だから、私は……。


(どうしよう。私は、やっぱりあなたの事が欲しい……)


 ……思わず呟く。タブレットに書いて示すのではなく、独り言のようにただ、口が動いてしまっただけ。

 だけど。


「うん。僕も君の事が欲しい。それは、ずっと変わらない。記憶が戻ったからではなく、君が君であるから、君の事がやっぱり好きになってしまう」


 え? 私、彼に告げては……?


「僕の立場上の問題でね、読唇術は習っているんだよ。だから、こちらを向いて話してくれれば分かるよ」


 ええええ⁉ なんというか、さすが黒峰⁉


「だから、これからもよろしくね。美樹」

『あ、はい。よろしくお願いします、えっと、志貴、くん』


 ……顔が熱い。だけど、とても幸せで……。


 その後、茜の生まれ変わりだった詩ちゃんにも会った。うん、志貴くんの時以上の違和感だらけ。まさかここまでお嬢様言葉で話すようになっているとは。

 そして、その年の夏。私は赤月のおじさんの養女となり、私と志貴くんは正式に結納を済ますこととなった。

美樹のお相手登場、でした。


登場人物?


葉月響

前世プログラマー、七瀬葵の婚約者。

会社の社長の息子の嫁が従姉で、曲を創ったのがこの従姉だったため、しょっちゅう聴いていた。

葵、茜(葵の妹)、響は、喫茶店での話し合い中に、突っ込んできたトラックにぶつかって、即死でした。


七瀬茜

葵の妹で、作詞が趣味のど音痴だった……。

そのため、詩に曲を付けさせて、葵に歌わせていた。これが葵の作曲趣味の理由。

極度のシスコンだった……。

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