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藤白冬弥ーピアノ演奏者とその相方

藤白冬弥視点。

彼の第一目標と……。

 マジか⁉


 ソイツの演奏を聴いたとき、まず思ったのはソレだ。

 作曲者、演奏者共に不明のピアノ曲。口コミで有名になったそのCD、《愛しき人へ》。ソイツの演奏のタッチは、まさにソレと同じだった。

 だから、ソイツに訊ねたんだ。あの演奏者はオマエかって。


 本人は首を振るばかり。オレにお辞儀をすると(かなりキレイな礼の仕方だったな)、慌てて逃げていった。

 ……間違いなく、アレは逃げてってたな。……怯えさせちまったか?

 だからって逃がすわけにはいかねえ。アイツがアレの演奏者なら、ゼッタイに話とおさねえとな!



 オレの親父は素人バンドのドラムをやってた。ソレを見て育ったオレも、音楽っつーかバンドにキョーミ持ったのはトーゼンだった。


 だけど、ソレは親父が亡くなると同時に許されなくなった。


 お袋は、マジメに勉強して、高卒で入れるいい仕事探せっていった。音楽でメシは食えねえって。

 だけどオレは諦めたくなかった。だから、あの学園の音楽科特待生試験に応募した。

 どうもオレのリズム感ってのがかなりイイってんで、吹奏楽部に入部すんのを条件に、特待生なれた。

 学費ゼロ、生活費最低限だけど支給。オレの年齢でできそうなバイト代を考えっと大分イイ。おかげで高校までは問題は無くなった。

 バンドじゃねーが、打楽器パーカッションてのはイガイとおもしろい。十分に楽しめる。

 だけど、ソレじゃ足んない。先がナイ。だから、高卒までには音楽で食っていく手段を探さねーとなんないんだ。


 そこで見つけたのがアイツだ。


 最初見たときはズイブンとちんまいヤツだなって思った。実際、同じ年なハズなんだけどカナリ背が低い。

 ソイツは先生に紹介されると、ペコンとお辞儀してすぐにピアノに向かった。

 譜面を確認して、一人でうなずいてる。

 これはカナリ難しい曲だって聴いてるからな。本人に弾けるのかと訊いてみる。んで、その直後、思わず目を見張った。


 ソイツはアッサリとこの曲を弾きこなした。オマケにこのタッチ、まさか、あのCDの演奏者⁉

 もしソウだとしたら、オレと同じ歳でもう音楽で食ってるってことになるなら、オレにもできるかもしれないだろ!

 それから、オレはずっとソイツを見つめていた。ああ、もちろん演奏中はソッチを集中してっけど、そのほかん時ってこと。


 で、リハーサルが終わっと、アイツは他の生徒に囲まれてた。当然だよな。アンな演奏聴かされちゃ、オレ達みたいのがハナシ聞きたくなってトーゼンだ。

 っても、オレと違ってアイツの正体らしいのには気づいてないみてーダケド。

 オレもアイツに用事ができたし、サッサと助けてハナシ聞くか。


「オマエらいい加減にしとけ。ソイツ、動けなくなってっと」

「あ、えっと」

「ごめんなさい」


 オレはコイツを引きずって廊下に出る。他のヤツらがいないところまで来てから、ソイツに訊ねた。


「おい、オマエ。オマエ、ひょっとして《愛しき人へ》の演奏者か?」


 ソイツはポカンとすると、スグに首を大きく振る。……そんなに振って、首取れないのかとかドーデモいいこと考えちまって、その間にソイツは逃げてった。

 ……脇目もふらず、逃げられた。オイ、オレはソンナに怖いのかよ!

 ……まあイイ。まだ明日もある。今度こそ……!

 そう思いつつ、吹奏楽部に戻った。



 そして翌日。アイツの演奏のおかげか、本番は今まで以上の演奏ができた。ソレは部員全員が感じていたことだろうな。だから、また終わったあと、アイツは囲まれてた。ちんまいからどーしても他の生徒に埋まっちまうんだよな。


「だから、オマエら。コイツを囲むなって」


 オレはまたコイツを引きずっていく。んで訊ねる。


「オマエ、ホントにあのCDの演奏者じゃナイわけ?」


 ぶんぶん! と大きく首を横に振ってる。ならば。


「なら、オマエの関係者、か?」


 ぶんぶんぶん! とさらにおっきく首を振る。んで、また逃げた。あっという間に見えなくなった。……ちんまいクセに足早すぎだろ?

 フン。こーなったら、ナンとしてもアイツの正体つかんでやる。

 ……こんとき、オレの目的がちょっと変わっていたことをまだ自覚しちゃなかった。




 無事に公演も終わって、アトの時間は自由時間。っつーわけで、オレはアイツを探していた。

 オレだけじゃなくって、アイツの演奏を聴いたヤツはミンナ探してるみてーだったけど。

 そうしてブラブラしてっと、あるカップルを見つけた。

 アイツと同じ普通科。オレとも同じ学年。

 ……なっつーか、ちっこい女子生徒の方が気になったってか……。ちょっとアイツに似てっ気がしたんだよな。

 だから、アイツらに訊くことにしたんだ。


「おい、ちょっと訊いてイイか?」

「なんだ?」

「普通科でピアノの演奏が得意なヤツって誰だか分かるか?」


 マズ、ピアノが得意じゃナイと意味ないな。


「……教養でピアノを学んでる者は多い。上手な人間は、たぶん半数は居るんじゃないか?」

「マジかよ……」


 普通科の連中って、音楽なんてほとんどキョーミないって思ってたぞ。まさか、音楽学ぶのが教養で、当たり前の世界だと?

 オレは目の前のフタリにも訊いてみる。


「……アンタらも?」

「さわる程度は。特に学んでいる訳でもないからな」

「ふうん?」


 男の方は答えたケド、女の方は黙ったまんま。ダカラソッチにも訊いたんだけど、答えたのは男の方。


「……最近はエレクトーンにはまっていたな……」

「へえ?」


 ヨッポド人見知りでもすんのかね。ひとっことも喋ろうとしねーし。


「コイツ、アンタのカノジョ?」


 わざわざ答えてやってるのを見て、半分ヤッカミこめて訊いた。フン、こんなかわいい子連れやがって。コッチはんなヒマねーのに!


「婚約者の妹だ。そもそもーー」

「お、おい?」


 ……オレが悪かった。まさか他に婚約者とかいて、喋り出すと止まんねーとか!


『彼は、姉を溺愛してるので。話始めると少しの間止まりません』

「え?」


 カノジョの方がオレにタブレット見せた。

 ……そういや確か普通科って金持ちイガイに障害者もイルんだっけか?


「アンタ……」

『私は声が出ませんので、話せません』

「……」


 オレはボーゼンとコイツを見つめた。声が出ない、話すことはできない、ソレを負担と思ってる様子もなく、それが自然って様子でいて……。マッスグな瞳がスッゴクキレイで……。つい、見とれちまってた。


「で、君の用はそれだけか?」

「あ、ああ」


 いつの間にか語り終えたらしい男が、声をかけてきた。……おかげでオレも正気になったっつーか。

 で、オレの目的をこいつらに話した。


「……今日の吹奏楽の演奏。手伝ってくれたピアノの演奏者を捜してんだよ。……どうしても知りたい事があってな」

「……何が知りたいんだ?」

「……どうやったら、音楽で食っていける?」

「……プロになる方法ってことか?」

「そ」

「……取り敢えず、音大を出てどこかの楽団に入ればいいんじゃないか?」

「……それじゃダメだから、だから知りたいんだよ」

「……そうはいってもな……」


 まあ、ソーダよな。オレ達はまだ中坊のガキだし。こんなこと相談されたって困るだけに決まってるわな。


「ワリィ。ジャマしたな」

「……別にいい。俺は赤月彰、こっちは藍川美樹だ」

「あ、オレは藤白冬弥。イロイロ言ってワルかった」

「気にしていない。まあ、あまり根を詰めない方がいいぞ」

「……おう」


 励まされてしまった。つーか、アイツらが赤月と藍川かよ。ウチの科にも聞こえてくるユーメー人。

 学園で十指に入る家の出で、普通科のトップ。

 その相方で、障害持ちにも関わらず、同じく普通科トップ。

 ナンでも、ケアレスミスした方が2位になるとかって、ドンだけの実力あんだか……。

 ……まあ、実際にフツーじゃなかったからな。

 ソレを知ったのはシバラク後、だったけどな……。




 ナンか先生がどっかから貰ったっつー曲を練習することになった。ソレはいいんだけどな。この曲ってのが、ナンか例のCDと同じ人間が作曲した曲だって感じたんだ。

 ……実際、アイツ連れてきたのも先生だから、知ってて当然じゃねーか。オレ、気づくの遅すぎだろ!

 自分にツッコミつつ、練習に励んでた時だった。赤月とそのツレが見学とやらで来やがった。

 ナゼか緊張しまくりの先生をほっといて、各パートを見学してった。まあ、顔見知り程度だし、向こうは覚えてねーだろっとアンマリ気にしてなかったんだけど……。


 その数日後、オレは先生に呼ばれて、学校の応接室にいた。

 ……なんで? オレがこんなゴーカなトコに居んの?


 戸惑ってると、ドアが開いて壮年の男と赤月、藍川の3人が入ってきた。


「やあ、君が藤白冬弥君だね。私は赤月というんだ。君のことは息子から聞いているよ」

「……え?」


 ……赤月って……え? なんで?


「父さん、ここからは俺が」

「そうだね。私はいわば立会人だからね」


 そういって、赤月さんは面白そうに傍観に入った。


「それで、本題だが」

「あ、ああ……?」

「君は、俺達と組む気はあるか?」

「え、組むって?」

「《愛しき人へ》。あれは俺が作曲し、美樹が演奏をしたものだ。そこにユニットとして加わる気はあるかと訊いている」


 ……こいつらがアレの……。あ、アレ?


「……あれの演奏者って、ナナセじゃ……」

「ああ、それは美樹の変装だ。正体を明かす訳にはいかないからな。バレないように男装をしていたんだ。実際、誰も気がつかなかった」

「……なるほど」


 オレは藍川をじっと見た。

 藍川はオレと目を合わせると、ペコリと頭を下げる。騙してすまなかったってことか?


「話を戻すぞ。それで、君はどうする? 考える時間が必要なら、返事は後日でもかまわない」

「いや、ありがたい話ナンだけど、こういうのって親の許可ってイルよな」

「そうだな」

「ダケド、オレの親はきっと認めない。高卒でも成績優秀で出て、イイ仕事探せってのが口ぐせだからな」


 そこで赤月さんが口を挟んだ。


「それなら問題はないよ。資格を2、3も取って貰えばいいだけだからね。それで大学まででてもらって、もし音楽が駄目だったならば、うちで働けばいいから」

「はあ⁉」


 いや、ソンナ簡単にキメテいいのかよ⁉


「……父さん、本当美樹に甘いね」

「当然だよ。美樹も私の娘みたいなものだし。それに美樹のピアノのファンでもあるからね」


 ……親バカっていうのかコレ? まあ、ダケド。


「ありがとうございます。この話、乗らせてもらいます!」


 コレがオレにとってトンデモナイチャンスってのはタシカだから。だからコイツらと組むことにした。

 ほわんと嬉しそうに微笑んだ藍川の笑顔に思わず見とれてっと、赤月親子がナンかニヤニヤしてた。


 ……マズ。思いっきりヨワミ握られたカモ……。


次話は1日空けます。

冬弥と美樹の間がどうなるかは、少々お待ちください。


登場人物


藤白冬弥

ゲーム内のバンドではドラム担当。

現在は音楽特待生、吹奏楽部、打楽器担当。

七瀬(美樹の変装)の音に惚れ、美樹に一目惚れして、赤月親子に面白がられる運命。

ゲームとは違って、有名な会社に就職の内定がいわば決まった状態のため、家族との仲は良好になりました。

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