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赤月彰ー後悔と願い

赤月彰視点。

彼が幼馴染みの姉妹に対して望むこと。

 ……あの瞬間、俺は全てに絶望をした……。


 信号が青になって、横断歩道を渡る。ごく当たり前の動作。まさかそれが事故に繋がるとは、誰も思わないだろう。

 だけど、実際にはそれが起こった。

 大型トラックの居眠り運転事故。本来ならその事故に遭うのは俺の筈だった。だけど轢かれたのは、とっさに目の前の子供を抱き締めた俺ではなく、俺に体当たりして庇ってくれた……幼馴染みの藍川美樹、だった……。


 それからしばらくのことは、あまり覚えていない。ただただ、美樹の側に居ただけ、だった。

 意識が戻ったあと、美樹は口パクで俺に学校に行くように言った。ノートを自分の分もとってほしい、そう言って。

 ……後から気が付いた事だけど、美樹はそうやって俺に無理矢理でも外に目を向けて欲しがっていた。後悔で俺が潰れてしまわないように。


 それでもやっぱり俺は立ち直れずに、美樹の病室でずっと俯いてばかりいた。それが変わったのは美樹の姉の優希ねえ……優希さんが留学先から戻ってきた事だった。


 優希さんは俺を強引に引っ張って、手話と読唇術を学ばせた。……確かにそれをマスターすれば、美樹の通訳をすることができる。そう気がついて、目から鱗が落ちる気分になった。

 夢中で覚えて、優希さんとふたりして美樹に披露して、だけど動けない美樹は手話ができなくって、仲間外れって拗ねていた。

 その様子が可愛いって笑う優希さんに俺は……見とれていた。


 美樹のギプスも取れ、少しずつ動けるようになったころ、父が美樹にノートパソコンを送った。……ふつう、こういう場合はゲーム機では? と思ったけど、父いわく一人でゲームよりも、ネットで他の人と話しでもした方が楽しいんじゃないか、だそう。

 もっとも、ちゃんと年齢制限は掛けてあったけど。

 だけど、そのパソコンで美樹がしていたのは、作曲、だった。子供の頃から一緒にいることが多くて、ピアノも一緒に習ってはいたけど、作曲とかはまったく思い付かなかった。

 面白いから、一緒にやろうと誘われて……俺の方がハマった。

 思い描いた旋律が流れると気持ちがいい。俺と美樹とは創ろうとするものが違うから、混ざると不思議な感じになって……とにかく、今までになく熱中した。

 ふたりで創った曲を流していると、優希さんが戻ってきた。時々、優希さんは父の会社でバイトという名の後継者候補勉強をしている。なんか性に合うとかで楽しそう……。って、そこに妬いたたダメだろ俺。

 優希さんが来たとき、流してたのは、俺と美樹で創った曲。

 優希さんはこの曲を綺麗だって褒めてくれた。そして、美樹の演奏で聴きたいって。

 たしかに、そればかりか俺も聴きたいかもって思った。美樹の演奏って技術はともかく音色がすっごく優しくって心地いいんだよな。……もう、ずっとその演奏も聴いてなかった。

 だから、美樹に演奏して貰うための、優希さんに聴いて貰うための曲を創るって決めた。


『……練習、退院したらしっかりとやらないと……』

「なるべく美樹の弾きやすいような曲になるように、編集するから」

『お願いします……』


 と美樹にもおねがいされて、曲を創る。基本の旋律を創って、それを編集していく。

 ピアノ曲として、美樹が弾きやすいようにクセに合わせて。入院中は病室で、退院後も美樹と一緒に、曲を創っていた。


『本当に、彰って凄い才能があったんだね』

「そうか?」


 美樹が時々そう言ったけど、自分では分からない。ただ、俺にとって大切なふたりを想って、曲を創るだけだったから。


 美樹がピアノを弾くことが出来るようになった頃、幾つかの曲が完成した。それを楽譜にして美樹に渡した。

 ざっと目を通して曲の感じを掴むと、ふぅ、と息をついて俺のことを見る。


『本当に、彰は姉さんのことが好きだね』

「もちろんだ」


 言われるまでもない。ちゃんと自覚はしている。……毎日声を聴かないと落ち着かないし、執着し過ぎているのかもしれないとも思う。だけど、ほんの少しでも望みがあるなら、俺は諦められない。

 もし、諦める事があったとしたら、それは優希さんが他の誰かを選んだときだろう。……その時は諦められると思っている。だって、一番望むのは、優希さんと美樹の、幸せだから。

 だから俺は曲を創る。ふたりを想って、幸せを願って。


 そうして過ごして数ヶ月。クリスマスに合わせて帰ってくる優希さんを、美樹とふたりで迎えに行った。

 ……優希さんと美樹って本当に仲がいい姉妹で……俺を無視して盛り上がっているから、思わず拗ねた。





 そして始まったクリスマスパーティ。

 ほとんど身内のみ、とはいえ、家が家だからな……。結構お偉いさんとか、有名人とか、来てる。

 ……ここで、曲の発表とそしてーーうん、頑張ろう。


 時間は過ぎて、美樹による曲の発表の時間。

 俺のコメントのあと、美樹は一礼してピアノの前に座る。

 ひとつ息をすると、鍵盤に手をのせた。


 練習の時に何度も聴いていた。それでも、思わず聞き惚れてしまう優しい音色。

 自分で創っといてなんだけど、やっぱり美樹って凄い。美樹に合わせて創ったとはいえ、ここまでの曲に仕上げてくるのは、間違いなく美樹自身の努力によるものだから。

 病み上がりにも関わらず、ここまでの演奏をする美樹に、会場にいる人々はみんな聞き惚れていた。


 数曲を奏でて、ほう、と一息つくと、美樹は立ち上がって再び一礼をする。

 しばらくは、シーンとしていたけど、父が拍手を始めて、その場にいた全員が慌てて拍手をする。俺も感動しすぎてて、思わず出遅れた。大きく歓声も上がると、美樹は嬉そうにもう一度、礼をした。


 そろそろかな。会場が落ち着いてきたのを見て、俺は美樹のいる壇上に上る。


「……みなさんにお話ししたいことがあります」


 これは話していなかったからな。美樹はキョトンとした様子で、俺の方を見ている。

 俺は優希さんをじっと見つめていた。


「最後の曲なんですが、俺が優希ねえ……、藍川優希さんを想って創った曲です。そして今、優希さんに言いたいことがあります」


 優希さんも、俺のことを見返していた。そして、俺の前に立つ。

 ……こっちはかなり緊張しているのに、どうしてこの場で平然としていられるんだろう。


「……何かな?」


 目の前でまっすぐに俺を見つめてくる優希さんに、思いきってはっきりと言った!


「……優希さん、好きです! 俺と結婚してください!」


 ……回りが騒いでるなか、俺は優希さんだけをじっと見つめていた。

 実はこの件について、すでに家の両親には許可をもらっていた。一応、俺自身の立場はわかっているつもりだしな。

 両親は、二つ返事でオッケーだった。優希さんが俺と結婚するなら、俺は好きなことをしてもいいとも言われた。

 能力的な面を見るなら、赤月を継ぐのは俺よりも優希さんの方がいい、と判断していたらしい。


 俺の告白に、さすがに驚いた表情をしていた優希さんだけど、やがてにっこりと笑みを浮かべた。


「十年早い、とか言いたいところだけど、これだけのものを聴かせられちゃったらね。十分に一人立ちもできる能力を見せてくれたわけだから、きちんと返事をさせてもらうわ。

 ……赤月彰くん。君の想いは受けとりました。これからもよろしくお願い致します」


 そう、返事をくれた。そして俺の頬にキスを落としてくれた。

 しばらく呆然としたけど、じわじわと喜びが溢れてきて、耐えきれずに俺は優希さんに抱きついた。


「やった! ありがと、優希さん! 大事にする! 大好き!」


 優希さんに背なかをポンポンと叩かれながら、俺は幸せに浸っていた。




 話はここでは終わらない。

 このパーティには、結構お偉いさんが来ていることは話したけど、その中には音楽プロデューサーも居たのだった。

 つまり、パーティの最中に、俺と美樹はスカウトをされてしまった。

 親の知り合いであり、信頼できる相手でもあることから、俺は作曲家として、美樹はピアニストとして、正体を隠してCDデビューをしちゃうことになったーー。

 意外だっだ……。まさか、ここまで売れまくるとは……。


 こうして、俺たちは隠れ有名人になっていたのだった。

 ……美樹を護るためにも、絶対に正体は明かさないからな!

次回投稿は、1日空けさせていただきます。



登場人物


赤月彰

攻略対象その1。

本来は事故で失明するはずだったが、美樹に庇われ、たいした怪我はしませんでした。

そのため、本来はかなり気難しい性格になるはずが、変化しました。

自分のせいだと責めていたのを、美樹の姉の優希に引きずられて立ち直り、美樹と作曲をしてそれにはまり、優希との婚約で作曲家へ進むことになりました。

作曲家としては間違いなく天才。

また、文武両道の能力を持っています。


藍川優希

美樹の姉。

運動は少々苦手で、勉強はかなり得意。

留学先で、15にして大学生、ですが、実際は大学卒業可能な知識をすでに持っています。

今は、人脈作りをかねて在学中。

バイトと称して、社長補佐もやっています。

ゲームでは未登場の天才。

美樹と彰は大好きです。

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