赤月美樹ー高校入学とゲームとの乖離
いよいよラスト、ヒロイン登場になります。
直接の登場は、次回から。
とうとうやって来ました。私たちフォルトゥーナの初のコンサートです。
私がピアノ、冬弥くんは打楽器もろもろ、駿先輩がコントラバス、夏李くんがバイオリン、そして志貴は歌・フルート・第2バイオリンと場合によって変えるという……。優秀ですね……。
予定通り、私たちが高校に入学してから……ではなく、その前の春休みにお披露目となりました。どうやら各長期の休みにコンサートを開くそうだ。ただし、大学卒業まで。その後はそれぞれ別に仕事を持つことが決まっているため、年に1度だそうだけれど。……まあ、私は妊娠とかしたら、出るのは難しいしね……。ちょっと気が早いかな?
内容については省略。ただ、みなさま妙に興奮されていたような?
そして高校入学。クラスは冬弥くん抜かした全員が普通科。冬弥くんは音楽科から離れられません。
そして、私たちは同好会という名目で《フォルトゥーナ》というクラブを作った。
これについては、高校からは好きな部活・同好会を作ることが校則で許されているから。
もっとも、詩と夏李くんが加入できるのは来年、高校生になってから、だけど。
貰った部室で演奏をしてしていると、見学者は鈴なり状態になっていたりします……。
ちなみにこの部室、防音はされていません。
以下、彰と生徒会長さんのお話。
「……うちは音楽の同好会、ですよ?
防音の部屋ではないとうるさいでしょう?」
「いえ、それについては逆なんですよ。生徒たちはみんなフォルトゥーナの曲を聞くことを楽しみにしているんです。ですので、防音ではない、いつでも聞こえる部屋を部室としてほしいと嘆願書が届いていまして」
そう言って見せられたのは、全生徒の5分の4をしめる生徒の署名がされた嘆願書だったそうで。
「……ここまでして聞きたいのか……?」
「もちろんですよ! あなた方のファンは本当に多いんです!」
どうやら生徒会長もファンだったらしい。
「……わかりました。ただし、活動は週1ですよ」
「え? どうしてですか⁉」
「そんなの、校則で週1の活動で同好会が認められてるからに決まってるでしょう。手慰み程度ならともかく、本格的な練習は、自宅のほうが落ち着いてできますから」
「……わかりました。なら、生徒会で投票をしておきますので、活動日にはその曲を通しで演奏してもらえますか?」
がっくりとうなだれた生徒会長。彰はあきれながらもそれを了承した。
「それくらいなら構いませんけど、生徒会の仕事が増えませんか?」
生徒会の仕事はなかなか大変だとは聞いているけど。
「……問題はありません。生徒会全員、フォルトゥーナのファンですから」
「……そうですか」
ということになりました。
そして迎えた6月……。私たちはフォルトゥーナとは全く関係のない曲を練習していたりする。
内容は……お誕生曲と子守唄。
なーんと! 6月末には姉さんと彰の子供が産まれるのだ!
ことの起こりは去年の8月。無事に大学を卒業し、そのまま帰国した姉さんは、翌4月から赤月のお父様のお手伝いをする予定でした。それまでは休暇ということで、彰も休みの8月に長期で海外旅行にふたりっきり(護衛つき)で行ってきて、帰ってきたら姉さんは妊娠しておりましたと。
妊娠が発覚した後、双方の両親は……。
思いっきり、大喜びでした。男の子がいい。いや女の子だと大騒ぎをして、どうせだから、彰の高校卒業までに、あと2、3人産んどけ! となりまして……。
いや、お父様のお仕事を継ぐことを考えるといいのかも知れないけど……。え、赤月の時期当主候補? しかも子供できたことで筆頭に?
……どうやら、姉さんが赤月の後継者となれる子供を産んだことから、本人が後継者候補の筆頭になっちゃいました。
赤月の御当主のお気に入りだそうですよ?
そうして時は過ぎていく。
もはやゲームの面影は、どこにもないのかもしれないな。
「実際のところ、もうあまり覚えてはいないんだけれどね。全員ゲームとは性格や性質か変わっているからね。もちろん、僕も含めて、だけれど」
そう。そもそも、ヒロインに癒されるはずの闇を持つのは誰もいなくなっている。だから、2年に上がって、ゲーム開始時期が来てもどうなるのかはわからない。
まあ、どうなっても、私たちは私たちらしくいるだけ、だけど。
そうして、2年に上がり、詩と夏李くんも高校に入って、そして、珍しい外部からの転入生が普通科に入ってきた。
クラスは私たちとは違ったけど……。
その、彼女の名前は、紙透織音。
父は紙透の長男。母は一般の人で、もともとは恋人だった人、だそう。政略結婚の相手の今の奥様と折り合いが悪く、他に子供も居ないため、養子として引き取ったそうだ。
母親は、それを受け入れて、2度と会わないことを誓ったそうで……。
……ああ、この事は普通に聞こえてきている。ここはそういう場所、だから。
さて、彼女はどうなるのかな? ……どう、するのかな……。
『それじゃ、ヒロインってどんな子なの?』
『うーん。実は一身に不幸を背負ったような生い立ちをしている子、かな。母親から引き離され、父親に金で買われ、義母には辛く当たられ、それでもくじけないんだけれど』
『……このイラストのなかにはいないわよね?』
『ああ。ヒロインのキャライラストはなし。スチルも全部ヒロイン視点の予定だそうだ』
『……それはそれで、珍しいわね』
『まあな』
『ごめん! 遅れた!』
『別にいいわよ。お陰で次の仕事についていろいろと聞けたもの』
『おう。ふたりきりでのんびりできたからな』
『……なんですと? あたしを差し置いて?』
『遅れたのが悪い』
『むー』
『ほら、ふたりとも。式場の予約もできたんだから、他の予定も早く決めちゃいましょう?』
『そうよね! ドレスとかはあたしたちだけで見に行く予定だし!』
『……それについてはかなり残念だ』
『あきらめなー……え』
ーー聞こえてきたのは悲鳴と怒声……。
ーーそして、目の前には、ガラス越しに見えるのは、大型のトラック……。
ーー3人の意識は、そこまでで、闇に堕ちたーーーーー。
捕捉ですが、ラストで3人が居たのは、響の叔父が経営する喫茶店。この数時間後に、家族の顔合わせをかねたお食事会の予定で、この日はもともと定休日でした。
そのため、その場に居たのは3人だけで、他の被害者はいませんでした。
また、トラックの運転手は、過労による居眠り運転をしていたのでした。