青海夏李ー変化とフォルトゥーナ
青海夏李視点。
アディの過去も出てきます。
お見合いってお母さんに言われて、黒峰の屋敷に向かって、そこで詩さんにあって、そのあと、志貴さん、彰さん、冬弥さん、美樹さんにあって、みんなで演奏をしてーー。
たった1日でものすごくいろんなことがあって、ボクと兄さんの生活が一気に変わった。
まず、いつもいろいろと言ってくるお父さんの子供ふたりが、何も言わなくなった。
どうも、これは詩さんのおかげらしい。
「わたくしの大切な友人を傷つけることなど、許しませんわ」
ふたりに面と向かってはっきりといったらしい。さすがにあのふたりも、黒峰を敵にするつもりはなかったみたい。
……とういうか、どうもふたりとも黒峰の兄妹との婚約を打診していたらしくて。兄の志貴さんは、さっさと美樹さんと婚約していたし、詩さんも兄さんとの婚約をほのめかしていたから、ふたりして燃え尽きたのかな?
そうして、平穏が訪れたんだ。
学校でも変わった。
いままで、兄さん以外と一緒にいることはなかったんだけれど。今までと違って、兄さんはボクだけに構うことがなくなったんだ。
女子は、兄さんがボクのところにくる頻度が減ったっていって、ボクに当たるようになって、男子はそれを怖がって、ボクには近づかなかった。
……そうして、ひとりでご飯を食べてるときに、アディにみつかっちゃったんだ。
「ヒトリでナニしてるー?」
独特のイントネーションで話しかけてきて、ちょっと首をかしげてる。なんかネコみたいって思った。
「みてわからないですか? ボクはお昼を食べてるんです」
「ヒトリでー?」
「……」
みればわかるでしょう、とボクはそっぽを向く。
「ナラ、イクよー。ミンナ、あっちにイルから」
「え?」
そうしてボクはみんな……一緒に音楽をやるようになった、みんなといるようになったんだ。
みんなとお茶を飲んだり、ご飯を食べたり、音楽をしたり。そういう楽しい生活が始まって、ずっごく驚いたことがあったんだ。
そう、彰さんのとんでもなさ! こんなにすごい人って見たことないよ。
昔、父さんにギターを教えてもらっていたし、青海になってからは、バイオリンを学んでいたんだ。ギターとか下等なものって義兄姉がいってて、兄さんはコントラバスで、いちおう弦楽器だったからか、覚えやすくて覚えたんだけれど。
ギターはある程度なんとかなっても、バイオリンはそうはいかないのに、彰さんの創った曲だと、ボクのバイオリンがすごく上手に聴こえちゃったんだ!
美樹さんがいっていたんだけれど、演奏者の弾きやすいように曲を調整するのが、彰さんの得意技だって。
詩さんの創った歌を彰さんが曲にして、ボクたちみんなで演奏するのは、スッゴク楽しかったんだ。
ただ、ちょっとだけ困ったこともできちゃった。
……そう、アディのこと。
なんだかんだとボクに構ってくるアディ。そのことはいいんだけれど……、あ、子供扱いは別だけど!
なんか、アディのお母さんの実家と折り合いが悪いみたいで、そのアディのご機嫌をとろうとして、海外の有名財閥がお父さんに近づいて来たんだ。
「ボク、アノヒトたちキライだよ!」
そう言って憚らないアディ。
お父さんは、気にしなくていいっていっていた。
「実際、仕事上で付き合うには、こっちにも十分に利益があるから問題はない。お前たちは子供らしく、自由に過ごせばいい」
「そうよ。調整なんかは私の仕事だしね。将来的には手伝ってもらうかもしれないけど、今しかない学生生活を楽しみなさい!」
そういわれて、ボクも兄さんも、特に気にすることはやめたんだ。ただ、アディが日本に留学に来た、その経緯は聞かされて、ちょっと辛くなっちゃったけど。
……アディのお母さん、事件に巻き込まれて大ケガを負って、それで寂しい思いをさせるのならって留学させたって聞いてたんだけれど。
そのお母さんの怪我っていうのが、……かなりひどいものだったらしくて……産まれるはずだった、アディの弟は、産まれることができなくなってしまったんだって……。
怪我とショックで、かなり状態は悪いらしくて、そんな様子を見せないためというのもあって、日本にきたらしいんだ。
美樹さんのお姉さんが、赤月という有数の家の跡取り候補だから預けたっていうのがあったそうなんだけれど……。
あれ、赤月の次男さんの会社の跡継ぎじゃなかったっけ?
……まあいっか。それで、お母さんの実家の財閥に横やりいれられないように、留学してきたんだそうなんだ。
アディがボクを構ってくるのは、たぶん、弟の代わりなんだと思う。……あんまり認めたくはないけれど、兄さんとかと違って、ボクはカワイイって言われる容姿なのは、いちおう自覚してるからね。
まだ、子供だからしかたないけれど、絶対にカワイイままじゃいないんだからね!
「ソウイウとこがカワイーの」
「カワイクなくなって見せるから!」
「カッコヨクなったカイもタノシミー」
「もう!」
毎日のようなこういう会話は楽しいけれど、やっぱり勉強とか教えてもらっている身としては、いつか越えるつもりでガンバる必要あるからね!
……まもなく学年が変わる頃、驚きのことを話されたんだ。
「俺が曲を書き、美樹が演奏した音楽。そこに徐々にメンバーが増えて、ユニットとして有名になった。ただし、メンバー不明のままだが。で、だ。プロデューサーと父たちの話し合いの結果、俺たちの学年が高校に上がったとき、メンバーを明かすことになった。ただし、ffのほうは変わらず正体は隠す。あくまで、クラシック音楽のユニットとしてだ。そこで、重要な問題がある」
ここで区切った彰さんを見つめて、ボクたちは息をのんだ。
「……このユニットの名前がない、ということだ」
ガクッと力が抜けた。えっと、重要なのって、名前がないこと?
「……始めたのは彰君と美樹だから、ふたりで決めればいいと思うけどね」
「そうですわ。わたくしたちは後から加わっただけですもの」
「オレもその意見にサンセー」
「僕も同じく」
志貴さんの意見に全員一致で、うなずく。ボクもうんうんってうなずいていたんだけれど。
「それじゃ意味がないだろ。……今は俺と美樹だけじゃない。みんなのユニットなんだからな」
美樹さんはこっちにうなずいている。そういう考え方もあるんだね。
「なら、どうする?」
「うーん……」
みんなで思わず考え込んじゃった。あ、ちなみにアディはいない。演奏を聴いたりは良くあるけど、こういうミーティングには部外者だからって入ってこない。かわりにお菓子をつくってくれてたりするけどね。アディのお菓子、楽しみだな……。
ちょっとボケッとしてたら、兄さんに呼ばれた。
「夏李、お前は何かないのか?」
「えっと……」
「ソーソー。ウンメイのごとく集まった、オレたちにあう名前だからな!」
運命……そういえば、なんかで読んだような……。
「フォルトゥーナ……」
「……たしか、ローマ神話の幸運の女神、だったかな?」
うわ、さすが志貴さん。こんなことまでよく知ってるんだ。
「うん。前に本で読んでて、なんとなく印象に残っていたんた」
「ふむ、幸運の女神の名、か」
「イーじゃん」
「わたくしもよいと思いますわ」
「きまり、だね」
そうして、ボクが思い付いたこの名前が、ボクたちのクラシックの方のユニット名になったんだ。
その発表は、ボクが中学3年の時かー。それまでにもっと頑張って練習しないとね!
次回投稿は、1日おかせていただきます。
次のメインは、短編で出てきたかんちがいヒロインです。
登場人物
青海夏李
ゲームではブラコンのヤンデレでした。
駿ルートのライバルキャラで、さんざんヒロインの邪魔をします。
本人のルートでは、バッドエンドが一番多かった模様。
ただ、現在はブラコンにもヤンデレにもなる余地がなくなり、どちらかというとワンコ系になっています。
また、フォルトゥーナのメンバーと知られた後は、音楽科との交流も増えて、可愛がられるようになります。




