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黒峰詩ー出会いと青海駿の音楽

今回はちょっと変則的に、詩の語りになります。

 いきなり父から聞かされたのは、寝耳に水の話でしたわ。


「すまない! 詩、お見合いをして!」

「はい⁉」


 いったい、何があったのでしょうか? 前に赤月の方とのお見合いのお話が出たとき、お断りしたのをお忘れなのでしょうか?


「お父様。わたくしはお見合いはしたくございませんと申し上げたはずですか?」


 じとっと父を見据えると、父は平謝りともうしますか、机に頭をくっつけてわたくしに懇願してきていらっしゃいます。


「すまない! だけれど、友人の息子のためなんだ!」

「……何のお話か、きちんと説明をしていただけますか?」

「……実はーー」



 父のお話によりますと、友人の青海さまの再婚相手の連れ子ふたり、ちょうどわたくしたちと同じくらいの年なのだそうです。

 問題は、その青海さまの先妻のご子息、ご息女が、そのおふたりを青海に相応しくないと、言葉によるいじめのようなものをしておられるようなのです。……その、ご兄弟は、もともと一般のかただったそうで……。


 もともと、青海さまの先妻の方は、浮気をしたあげくその浮気相手と事故死なさったそうで。青海さま自身はそのようなことがありましたので、再婚をなさるおつもりはなかったそうなのですが、周りの騒ぎを納めるために、ご自身の秘書でもあられた女性と婚姻を結ばれたそうです。

 相手の方も、ご主人の浮気が原因で、離婚されておりましたそうで、利害が一致されたのだということでした。

 ですが、問題はご子息の方々です。なんでも先妻のお子様は、甘やかされて我儘に育ってしまわれたそうで、青海さまがわざわざ一般の方とご結婚されたことで、後継ぎをご自分ではなく、その養子とされたご兄弟にするのではないかと、追い詰めるようになられたそうなのです。

 ……実際、青海さまはその事も視野に入れておられるそうで……。

 ですが、それにご兄弟は関係がございません。実際、本人にその気がない限りは、強要するおつもりもないそうです。

 ですが、そうなりますと、ご自身ではなく外に味方を作る方が良いだろうとお考えになられたそうで、わたくしとのお見合いを持ってこられたそうです。

 ……黒峰と個人的に懇意である、という事実で、ご兄弟を守ろうとなされておられるのです。

 ですが。


「……それでしたら、お兄様でもよろしいのではございませんの?」


 わたくしとのお見合いではなく、お兄様と親しいご友人であるという方が、よろしいのではないのでしょうか。


「……今の志貴に、たのめないよ……」

「……それもそうですわね」


 お兄様、美樹お姉様とのお時間を奪われることを、もっとも嫌っておられますから。……あの溺愛ぶりを見て、邪魔を考えることは……、わたくしにも、父にも、無理ですわ。できるとしたらお母様位でしょうが……。美樹お姉様をお気に入りの母が、邪魔になるようなことをなさるわけもございませんし……。


「……はあ。わかりましたわ。そのようなご理由でしたらお受けいたします。ですが、婚約などはなしで、友人として親しくなればよろしいのですわよね?」

「うん。それで頼むよ」


 そうして、わたくしは青海のご兄弟、駿さまと夏李さまにお会いすることになりましたの。




 中学3年、背の高い方が学園普通科、管弦楽部に所属されておられる、兄の駿さま。小柄な方が、わたくしと同じ年の夏李さま、ですわね。

 駿さまはわたくしを睨み付けておられますし、夏李さまは逆におどおどとされております。

 ……これも、先妻のお子さまたちの影響ということなのですわね。


「初めまして。わたくし、黒峰詩ともうしますわ。お兄様の駿さまの事は、赤月美樹お姉様にお聞きしております」


 ぴくん、と駿さまの表情が動かれました? ああ、そういえば前に彰さまとお姉様で管弦楽部の見学に行かれたことがあるそうですから、その時におふたりを認識されておられたということなのでしょう。


「青海の養子で駿だ。こちらは弟の夏李。俺たちはお前とよろしくするつもりはない」

「……兄さん、そんなこと……」

「いいんだ。こういうやつらに利用されてやる訳にもいかないんだからな」


 利用、ときますのね。確かに家格でもうしますと、わたくしたち黒峰と青海はほぼ同等。ならば、より上位に立つために、相手を利用しようと考えても可笑しくはないのでしょうけれど。


「あら、逆ですわよ。おふたりがわたくしを利用されれはよろししいのです」

「なに?」

「わたくしが父から申されましたのは、おふたりの保護のために、少なくとも友人として親しくなって欲しいというものでしたもの。青海さまがおふたりをお護りするのは、状況的に難しいそうですの。それで、友人でもあるわたくしの父に泣きつかれたそうですわ。……わたくし、黒峰と個人的に親しいということは、おふたりにとって大きな武器となりますわ。その事をご理解いただいておられますかしら?」

「……」

「え、えっと……」


 駿さまはわたくしを睨み付けてこられておりますが……。どうやらご自身と弟君を護られるための方策として、考えておられるようですわね。

 夏李さまはただ、戸惑っておられるようですが。


「……正式な婚約は必要なのか?」

「いいえ。あくまで友人として親しければ問題はないかと」

「なら、なぜお前がきたんだ? 兄でもいいだろう?」

「……お兄様は、美樹お姉様と、仲良くされるのでお忙しいのです……。思わず砂糖を吐きたくなるくらいですもの……」

「……そうなのか……」

「……そうなのですわ……」


 はあーーと盛大にため息をつきますと、駿さまが笑い始めました。


「黒峰という身分があっても、俺がもとは一般人だったと知っていても、お前は気にしないようだな」

「当然ですわ。生まれなんて自分で選べないことをどうこういうのはおかしいですもの。もちろん、立場上のものは必要かもしれませんけれど、他人に迷惑をかけるような方でなければ、気にすることでもございませんわ。ましてや、駿さまについては彰さまも褒めておられましたし」

「赤月が俺を褒める?」

「はい。部活を見学されたときの、演奏について褒めておられましたわ。ただ、お姉様は駿さまがお辛そうに見えたとおっしゃられておりましたが」

「辛そう、か……」


 ……時期を考えますと、おふたりが部活見学をされたのは、駿さまが青海になられて、まだ1年もたたないころのはずですもの。お辛そうと感じても当然のことでしだでのでしょう。


「まあ、そうだな。音楽、特に父が、ああ、青海ではなく、実の父がまだいた頃は、一緒にバンドなんかもしていたからな。……父の浮気と、友人の父親の事故死で、それもなくなってしまったが」


 え!


「……駿さまはバンドをされておられたのですか?」

「あ、ああ。父はギターで夏李によく教えていた。俺はベースを担当していて……」

「……お兄様はボーカル、お姉様はキーボード、冬弥さまがドラム、駿さまがベース、夏李さまはギターがおできになるということは……! 彰さまに曲を作っていただいて、わたくしの詩を合わせれば、素敵なバンド演奏を聴くことも可能ですわね!」

「お、おい⁉」

「え、ええ⁉」


 おふたりが戸惑っておられても構いませんわ。わたくし、前世の記憶持ちなのですが、ロックバンドの追っかけもしておりましたの! 今世では難しいとおもっておりましたのですけれど、知り合いのバンド演奏を聴くことができるとなりましたら、これ以上の楽しみもございませんわ! 特にお兄様、お姉様、冬弥さまの実力はすでに保証されておりますもの!


「おふたりとも、お時間はございますか?」

「あ、まあ、あるが……」

「大丈夫、です、けど……」

「なら、善は急げですわ! 一緒に参りましょう!」


 わたくしはおふたりの手を引いて、赤月のお屋敷に向かいましたの。




「「……」」


 まあ、おふたりとも声をなくされておりますわね。仕方がございませんが。なにしろ、わざわざ自宅の庭の一角に、スタジオなどがあるお屋敷など、他でそうそう見られるものでもございませんもの。……ステージでしたらお持ちの方は以外と多いのですが。


「……ここは?」

「赤月さまのプライベートスタジオ、ですわ」


 呆然としておられるおふたりの手を引いて、わたくしは中にはいりました。そこには前もってメールで連絡をしておりましたので、お兄様、お姉様、彰さま、冬弥さま、皆様がそろっておられました。


「あれ、シュンにカイか?」

「冬弥?」

「冬弥くん?」


 あら?


「冬弥、お前青海のふたりと知り合いなのか?」

「ああ、ムカシ、親父が一緒にバンド組んでた友人」

「世界は以外と狭いものだよね」


 お姉様、コクコクとお兄様の言葉に頷いておられます。


「紹介いたしますわ。こちらは青海駿さま、夏李さま。あちらはわたくしの兄の志貴、兄の婚約者の美樹お姉様、ここ赤月のご子息の彰さま、ご友人の冬弥さまです。……冬弥さまとはお知り合いでしたようですわね」

「まあ、そうなんだが。……その制服、学園の生徒なのか?」

「おう。音楽科、吹奏楽部だ。ま、今のメインはここでの演奏だけどな!」


 冬弥さまは彰さまたちの秘密を語られましたわ。わたくしがおふたりを連れて来ることを連絡した時点で、このことをお話しすることは決めておられたようですの。


「……まさか、あれの……」

「……あれ、兄さんもボクも好きな曲だよ」

「そうなんだ。ありがとう」


 にこりと微笑みつつ、お兄様は何かの譜面を取り出されました。


「それじゃ、まずはこれを演奏してみようか?」


 それは、とあるバンドのスコア。一般で比較的有名な曲。

 すでに楽器は準備されておりました。わたくしと彰さまは、皆さまが準備されるのを、離れてみておりました。


「詩、とりあえずあいつらの演奏を聴いて、次に創る曲の方向性を確認するぞ」

「わかっておりますわ」


 どちらかといいますと、わたくしと彰さまの役割は裏方ですもの。今は皆様の演奏を楽しむのがわたくしたちのお仕事ですわ。



 ーーそして始まりました。力強いサウンドと、心揺さぶられる旋律とーー



 曲が終わったのも気づけないほどに、感動しておりましたわ。夏李さまはギターに触るのはブランクがあられるそうでしたけれど、バイオリンも学んでおられるとかで、多少はなんとかなったようでしたわ。


「素敵でしたわ!」

「うん。次は俺の創った曲で演奏を任せる。バンド名はどうするか……」

「さすがに、いままでと同じようにはいかないかな」

「カネモチの趣味のバンドって聞かねーし」

「そうですわね。あちらとは別の立場が必要かも知れませんわ」

『それなら、ffフォルティッシモは?』

「より、大きく。意味的にもいいかもしれないね」

「それなら、個人名はどうする? 外見は伏せるとしても、名前まではそうもいかないだろう。仮の呼び名が必要ではないのか?」

「あら、それでしたら、春夏秋冬でよろしいのではございませんか?」

「春夏秋冬? どこから持ってきたのかい?」

「お兄様はシキ(四季)、駿さまのシュンは、春の読み替え、夏李さまはそのまま夏、お姉様のお名前、()かつきみ()の最初と最後で秋、冬弥さまはそのまま冬ですわ!」

「オイ、だじゃれかよ!」

「そうですわ!」


 わいわいと言い合っているところを、どうも青海のご兄弟はあきれて見ておられたようでしたの。


「……はあ、金持ちってこういうものなのか?」

「うん。青海の人たちと全然違うね……」


 おふたりは顔を見合わせてこちらをご覧になられました。


「……それでいいだろ。単なる仮の名前だし」

「……ボクも……」

「仕方ないかな。まあ、分かりやすいし」

「オイ、ウタ。ナンかあったら責任とれよ!」

「知りませんわ!」


 そうして、みんなで笑い合いましたの。本当に楽しかったですわ。



 その後、わたくしは駿さまとの婚約が決まりました。駿さまと夏李さまを護るのが第一の理由、だったのですけれど。その建前はいつの間にやらどこかへ飛んでいってしまいましたわ。

 そうして、わたくしはもっとも好きだった音楽を、もっとも間近で見ることのできる立場を手に入れましたの!

演奏について

駿は弦楽器の類いをいろいろと触っていたため、久しぶりのベースでも戸惑いは少なかったようです。

夏李はかなり間違いは多かったようですが、フォローのお陰と、ミスによる混乱などはなかったために、いがいときちんとした曲になってました。


登場人物

黒峰詩

ゲームでは人見知りのブラコン。ただし、作詞の才能はあり、自分が創った歌を兄に即興で歌わせてた。本人は音痴。

現在は前世の姉である美樹に対する微シスコン。ただ、兄が怖いのと青海駿の存在があるため、あまり目立ってはいない。作詞の天才で恩智というのは変わらない。また、前世と変わらず、ロックバンドの曲を聴くのが趣味。追っかけは立場上できません。ましてや、いまだに中学生ですから。

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