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セカンドカントリー  作者: 桜華咲良
光の島"ペリドット"編
9/16

光の島編:1日目

「・・・ペリドット到着は定刻を予定しています・・・」

 太陽が海原の彼方へその身を落とし始めた頃合い。私はまだ空中のホテルの中で煙草を吸っていた。

「本当に日が沈んでからじゃないと近づけないとはなぁ。」

 それほど広くない喫煙室には私の他に2名ほどいた。

「たまげたよ、もう目に見えてるってのに。」

 この二人は知り合いなのだろう。この二人は出発当初から仲が良かった。

「貴方もそう思うでしょ?」

「ええ、そうですね・・・。よっぽどあの島は、光が惜しいんですね。」

 私はこの島がそこまでして光を欲しがる訳が判らなかった。この船がここで静止して2時間は経つ。これだけの時間があればとうに着陸できる距離にいるにもかかわらず。

 丁度煙草を吸い終えたので、私は2人に軽く挨拶して見張りのボーイの執拗なチェックをうけ喫煙室を出る。バーカウンターでカクテルを注文し、グラスをもってラウンジの窓辺に座った。

「これでも近づけるギリギリなんですよ。」

 後ろから綺麗な声が聞こえる。

「そうなんですか。」

 振り返るとそこにはあのスチュワーデスが居た。

「ええ、ここに居ても管制からうるさく注意されるんですよ。」

 窓の向こうに見える太陽はもう半分程海に浸かっていた。



 空港に付いたのは、それから3時間もかかってから。まっ暗闇に包まれた飛行船の周囲には案内灯しか見えない。タラップが開く。すこし肌寒い。まっ暗闇の中、一人目が階段を降り始めるとようやく青白い光が順に付き始めた。順に、まさに一歩前しか明るくならない。目の前はまっ暗闇。どこに向かえばいのかさえわからない。一歩進むごとに付く一歩前の明かりを頼りに進む。暗がりになんとか見える建物のようなものの前に着くと目の前にはドアがあったらしくライトが点いた。驚いた事に自動ドアではない。扉をあけると、とても明るい光が漏れてくる。暗闇散歩から急に青白い強い光はあまりにも目に優しくない。飛行船から降りてきた乗客全員もれなく一瞬のけぞってしまう。建物の中はそれまでとは打って変わりとても明るかった。いかにも空港だ。白がベースカラー、というより白しかない。ガーネット港は黒、というより鉄骨の色がむき出しで、とても無骨なイメージだったがペリドットの空港はうってかわって黒が無い。文字ぐらいだろうか。壁が低く仕切りがほとんどなくフロアがほとんど1つの同じ空間であることには変わりが無かったが、ガーネット港よりも建物が小さい。500人収容の中劇場ぐらいの広さ。と言うとかなり分かりにくいだろうが、大体的を得ているのではなかろうか。平屋で2階のようなものが何処にもない。何処にも無いというと、動く物を見ていない気もする。

 入島検査は幾つかの質問を受けただけで、あとは係員が小さいノートPCのようなものにパチパチを情報を打ち込みビザの目視確認をして終了した。文字の量を見てわかるだろうがとてもあっさりとしたもので、ものの数分で終わってしまった。あまりに時間がかかった前回を思うと驚きだ。そのあとの荷物を受け取る手続きもあっさりと終わり、直ぐに荷物は手元にやってきたのだが、荷物は受取所にお置かれているだけだった。ターンテーブルはこの空港に無いらしい。

 色々と、驚きを感じながら殺風景な空港を後にする。今日私は空港直結のホテルに泊る事になっている。私は、というよりは飛行船に乗る全員がと言うべきだろう。この島は日が沈むと全ての交通機関が動かなくなると聞いた。何せこの飛行船のチケットに一泊分のホテル代が含まれているから事実を確認することはできない。疲れを癒すため直ぐに寝れるように空港に一番近いホテルのチケットを取っておいた。パターンは3つあって値段によって空港から遠いホテルに泊まることになるそうだ。

 ホテルへの連絡通路は殺風景で何もない。ここにもセンサーが点いているのだろう歩くごとに1区画ライトが照らされる。進む方向は暗闇、床に書かれた順路だけが唯一の頼りと言ったところだ。5分程歩いただろうか、ライトが灯らなくなった。目の前には受付のようなものが見えた。誰もいない、ベルを鳴らそうと思ったが何処にも見当たらない。受付の机に張られていた紙を見ると、受付の営業時間は終わったようだ。・・・受付の営業時間ってなんだそりゃのレベルだが、その時間帯のチェックインの方法が書かれていた。受付の横にある機械にチケットに書かれた番号を打ち込めば良いらしい。確かに横にはあからさまに機械仕掛けな代物があった。前に立ってよく見てみるとタイプライターのような形をしたキーボードがあった。ストロークも動きもそのまま、チケットに書かれたアルファベットと数字の入り乱れたパスワードを打ち込んでみると、ガチャンといってその下の受取口にカギが落ちてきた。304号と書かれたキーホルダーも付いてある。これでチェックイン完了と言うことか。

 304号室なのだから当然3階にあるものだ。だが、いざ部屋に行こうと思うとエレベーターが動いていなかった。前には小さな立て看板「階段を使いください」と書かれている。3階だから普通に登るのには疲れる程ではないが、小さいとはいえスーツケースをもって3階は訳が違う。重い訳ではなく、単純に運びにくい。疲れを癒したいというのにこれから疲れなくてはならないのかと少々気が重くなったのだが、階段に面白いものを見つけた。

 ホテルの階段は、大きめの螺旋階段となっていた。その真ん中には太い柱が一直線に立っており、その中は空洞になっているらしい。何故中身の事が判るのかと言うと、高さ1m程の口が開いており、その中にゴンドラのようなものが見えるからだ。よく考えてある。荷物はここに入れろと言うことらしい。その前に建てられた看板にもそう書かれている。その指示に従い、スーツケースを中に入れた。ゴンドラには鍵を掛けることが出来るらしい、鍵はゴンドラの扉に付けられたままだ。セキュリティはある意味万全だろう。

 荷物を中にいれ、階段を上がる。3階なのですぐ登りきる。3階のゴンドラ前にやってきて、ふとあることに気づく。そう言えば、荷物はどうやって3階までやってくるのだろうか。私は何処にも3階であるということを指定していなかった。不意に目を階段から離し、あたりを見回すとロープとレバーが見えた。レバーは3段階動くようで、それぞれH・S・Lと書かれている。まさか、と思い近寄ってみると「荷物引き揚げ用ロープ」と書かれていた。やはりか。隣に書かれた説明書きを読みバーをLに合わせてロープを引く。案外軽い。スイスイと引き上げる事が出来る。そうすると、少し気になったことが出てきたので実行してみた。私はロープから手を離す。ロープは動かない。ちゃんと安全装置はあるようだ。

 引き上げた荷物がどこにあるかはロープの横にある縮尺表示で大体把握することが出来る。もうそろそろだ、と思ったら、少し引き上げ過ぎてしまった。ゴンドラの口の半分くらいしか荷物が見えていない。どうしようかとロープから手を離すと、ギュウゥゥゥゥといってゴンドラが下にさがり、丁度良い所に止まった。さっき手を離して上がらなかったのは、ゴンドラが階と階の間にあったからのようだ。とても賢く出来ている。無事に荷物を取り出し、このゴンドラはどうするのだろうかと考えていると、レバーの横に降下ボタンと回送ボタンがあった。なんでも、降下ボタンを押しながら回送ボタンを押さなくてはいけないらしい。やってみると、降下ボタン回送ボタンともに押したままで固定されていた。本当によくできている。

 後は部屋に入って寝るだけだ。鍵を開け、中に入り電気を付けると部屋の真ん中に付けられたLEDらしき強い光が点くだけ、それもワット数が低いのだろう部屋全体が明るくなるわけではない。空港直結のホテルだけあって、部屋はそれほど広くなさそうだ。調度品は全体を通してスタイリッシュに感じる。その量も少なく、小さな机と一脚の椅子のセット、更にベットぐらいだろう。その他はうす暗いのでよくわからない。確かに、このくらいの明るさでもなんとか生活するには問題ないのだろうが、部屋の隅々までは見えにくくわかない。まぁ、日が明ければ分かるだろう。呑気なことを考えて、私はシャワーを浴びようと支度する。シャワー室も相変わらずうす暗いが、まぁ問題ないのだろう。蛇口をひねった。

「あれ?!」

 おかしい、赤い蛇口をひねったのだから、てっきり熱湯が出るかと思ったのだが、とてもとてもぬるい湯が出てきた。しかも、温度が上がっていく気配すらない。温度の調節するダイヤルも何処にもない。仕方なくこのぬるま湯を浴びて、私は私はベットに臥すことになった。

翌朝、チェックアウトの時に訊いてみることにしよう。

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