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セカンドカントリー  作者: 桜華咲良
火の島"ガーネット"編
4/16

火の島編:3日目

随分ぐっすりと寝ていたらしい。目が覚めると日が高くなっていた。時計を見る。今ご飯を食べると朝か昼かわからなくなってしまうな。

空腹感は少し有るが、昼まで我慢しよう。私はベッドから出ると、昨日かったばかりの肌着に腕を通す。うん、良い着心地だ。何着か買っておいて良かった。こうなると、持ってきた肌着が要らなくなる。迷わず捨てよう。

今日はガーネットの市街地を回るつもりなので、ご飯を食べてからの方がいい。余ったこの時間は荷物の整理に当てる。

昼食は、ホテルのレストランで摂った。まぁ普通だ。至って普通だ。普通でしかない。ホテルの売店で小腹がすいた時ように絶対に外れなさそうなショートブレッドと紅茶を買い、町へと繰り出すことにした。

先ずは、この町の中央管理局に行ってみる。移動手段はバスだ。この島には地下鉄が存在しない。バス停で待っていると、とても古そうな2階建てバスがやって来た。券をとり乗り込む。お昼時だったためかそれほど人はおらず、数名のお婆さん達が1階で喋っているだけだった。ちょっとうるさいので2階へ上がる。こちらは3人ほどが静かに乗っていた。私は階段に近い席の窓側に座る。

2階建てバスからの眺めは以外と良かった 。普段低いところからしか見ない眺めだからだろうか。揺れは普通のバスよりも少し大きいが、乗り心地は悪くなかった。

バス停を5つ進み、中管局前停留所についた。車掌に破格の運賃を支払って降りる。道を挟んで向こう側に、大きく壮大な建造物があった。佇まいは威風堂々としていて、そのスケールの大きさは総合港の巨大なアーチ建築よりも大きい。こちらに向かって大きく開く口はどうやら出入り口のようだ。何故ツアーではここを回らなかったのだろうか。

「それは、ここが中管局だからですよ。みんなここには手続きにしか来ないからイマイチ凄さがわからないんじゃないかな。」

中に入ると、ズラリと並ぶ窓口の脇に観光案内所があった。

「これがガーネットの総合案内誌です。どうぞ。」

私のちょっとした疑問に、観光局の職員が答えてくれた。

「それにしても、随分珍しいですね~ここに移住を考えている人なんて。」

「そうなんですか?」

「ええ、随分と珍しいです。ここに来る人達は本当に観光目的でしかありません。それでいてリピーター率はかなり低い。みんな興味を持って島に来て興味を無くして出ていっちゃうんですよ。」

私が移住を考えてると言ったからだろうか、普段は喋らないであろう事を話してくれる。

「まぁここは、一見するととても住みにくそうな土地ですからね。仕方のない事なんでしょう。でも、ここに住む我々は結構好きなんですよこの島。」

「お奨めの所って有りますかね?」

「そうですねぇ、ツアーで行きそうもない所……そうだ鉄道局の本庁はなかなか素晴らしい建物ですよ。」

一瞬考えて、出てきたのは建物の名前だった。

「それってどこにありますか?」

「本局駅と同じ建物です。」

本局駅は、明日の移動で使う駅だ。

「その建物はどういう凄さが。」

「実際にご覧になった方がいいですよ。あの建物は。」

観光局の職員がそう言うのなら、それが1番なのだろう。明日期待して行こう。私はそう思い丁寧に教えてくれた職員に礼を言い、中央管理局を出ることにした。

また、2階建てバスに乗り、今度は町の中心部にある広場に向かう。その昔は市街全体を見渡せる大きな塔が中央に建っていたらしく、その先進性は当時の最高峰で水圧式斜行エレベータが採用されていたが、建設から20年後焼失。と、先程もらった案内誌に書かれていた。実際に行ってみると、その凄さを声高に書き綴った記念碑と、塔のなかにあったカフェのメニューを再現した青空カフェが有るだけだった。客は結構入っている。

広場はとにかく大きかった。円形の大きな広場を中心に、四方に真っ直ぐ1km程大きな通りがある。植えられた街路樹はマロニエの木だった。両サイドには高級な店が並ぶ。人通りはそれほど多くないが、閑散としている訳でもなかった。

次は何処へいこうか、本局駅は、明日利用するのだから行く必要はない。案内誌を眺めるが、特に良さそうな所もない。通りをぶらぶらと歩くのもいいが、特に何かを買うつもりなんてないし、見るものも少なそうだ。

「じゃあ、機械通りなんてどうでしょう。あそこは市街で一番ディープなスポットですから。」

広場の青空カフェで精算中にレジ係にお奨めを聞いてみるとそんな答えがかえってきた。お奨めされたのだから、行ってみる。また2階建てバスに乗ってバス停を6つ進んだ。

機械通りは全長1マイル程。両サイドの商店がが全て機械を扱う専門店の為そう呼ばれているらしい。確かに全て機械部品だらけだ。案内誌にはこうもかかれている。「この通りを歩けば、機械式振り子時計が作れる」と。道幅が片側2車線ほど有るが、歩行者天国となっており車は早朝と深夜しか入る事ができないようだ。その広い道幅の割には人でごった返していて、とても賑わっている。

通りの一番端、最初に目に入った店を覗いてみると、多種のゼンマイが置かれていた。腕時計の中に有りそうな物から、据え置きの振り子時計に使われそうなものまで。ぜんまい屋なんだろう。

その向かいに行ってみる。今度は黄金色の丸棒やシルバーの薄い板などが大小それぞれの大きさで置いてある。きっと素材屋だろう。その横は?工具が大量に置かれている。隣で買って、ここで耕作用の工具を買っていけと言うことか。通りに出て、その店の方を向く。なんだ、建物は違うが同じ店だったのか。

専門店街。にはやはり、そう言う人達が集まっているらしい。通りすがる人々、皆々作業服っぽい服装をしていた。その中の半分程は、台車を押している。更にその7割ぐらいの台車には既に重そうな荷物が載っている。「はよ現場いかんかぁ!」怒鳴り声も良く聞こえ、「それはあそこの店!二つ目の交差点下った所!」という通いなれた人の声も聞こえる。時間帯的には平日仕事まっ盛りの時間だろうから、現場で足りなくなった部品をその足で買いにきているのだろう。専門店街らしい一面でもある。

そう言う所には、ファーストフードらしき店も数多くあるもので、歩いているとたまにイイ匂いが漂ってくる。匂いだけはおいしく感じるのがなんとも皮肉なものだ。1マイルも歩くとなると、少しおなかが減ってくる。買っておいたショートブレッドをあけて食べてみる。なんとも風味の薄いパサパサした味気のない感じ、味がない分不味いということがないからヨシとするべきか。買っておいたストレートの紅茶は至って普通でおいしい。ストレートにして正解だった、下手にカフェモカとかを頼むと、とんでもない目にあう。

 地味に時間を掛けて、1.6kmの通りを歩き終えると、今度は何処へ行こうかと悩み始める。市街から離れる程の時間は無い。さてどうしよう。

「ウイング橋とか、結構いいですよ。」

 安い自動巻きの機械式時計を購入した店の店員に訊ねてみると、そんな名前の橋が出てきた。

「それはどこが結構良いの?」

「古くからあるはね橋なんです。」

 市街探索が建物探訪になりつつあった。

 観光案内誌にはこう書かれている。「建築当時の蒸気機関を用いて可動させており、可動時には警笛と機関のうねり声が聞こえる。」らしい。行ってみるか。私は近くのバス停へと向かう。少し距離があった。時刻表を見ると、見事についさっき行ったばかりのようだ。次来るのは約20分後、案内誌に読みふける時間にしようか、目の前の大きな道路を右へ左へ駆け抜ける車を眺めるのもいいな。


 20分後、来たバスは2階建てではなく、連接バスだった。車掌にちょっと聞いてみると、この路線は 道幅が広くかつスピードも速いので、2階建てバスは不向きだそうだ。普通のバスが走っている区間もあるのだろうか?バスに乗って案内誌を広げる。載っているバスの系統図には2階建てバスと連接バスが何処につかわれているかも書かれていて、そのどちらも書かれていない系統もある。もしかすると、これなのかな。鉄道本局駅には全ての路線が集結するようなので、明日少し期待してみよう。バス停を4つ進んで乗り換える。今度は10分待った。次は2階建てバスだ。

「ウイング橋上がる」という名前の停留所で降りてみると、レンガの塔と鋼のアーチが目に見えた。黄土色をしたレンガの塔2つから川岸へ淡い青色のアーチが伸びている。そして塔の間に、今は跳ねあげていないらしいが可動部分があるようだ。アーチの部分を歩いて塔へと向かう。入口らしきものがあり、その近くに時刻が書かれた看板が置かれていた。動く時刻なんだろう。暫くは上がらないようだ。塔の近くには信号がある。上がる時には信号が赤くなるのだろう。入口から塔の中に入ると、階段が上下に伸びていた。看板によると、下は機関室。上は展望室らしい。どちらも見学できるようだ。まずは上に上がってみると、展望室兼展示室のような通路が向こう岸の方向に向かって伸びていた。

 跳ね上げ橋が跳ねあがる高さよりも高いところにある塔間の渡り廊下はもともと歩道だったらしい。跳ねあげられて通れない時に、歩行者が通行することを考えて作られたらしいが、そもそもそんな人はかなり少なかったらしい。踏切の横に歩道橋があっても、急ぐ人以外は登ることがないように、ここもじっと待った人が多かったのだろう。距離も長いし、階段の段数も多いから。結局今は川の真ん中からみる長めのいい展望とこの橋の歴史を見せるミニ博物館となったようだ。といっても、特に特筆すべきような展示物がなかったので、流し見して向かいの階段を降りる。そのまま下の機関室まで一気に下りた。

 機関室には、蒸気機関が置かれている・・・と思ったが、そこには1度蒸気機関の代わりに使用された油圧ピストンと制御盤、コンプレッサがあるだけだった。蒸気機関はもっと奥深くの立ち入り禁止区域にあるらしい。ここに置かれている油圧ピストンは代替として数年前稼働させたがこの橋の構造と相性が悪かたらしい。仕方なく今も古い蒸気機関を使っているとのことだ。

 内部にはそれほど見ることがなかった。外に出て、元いた側の岸へと歩いて行く。跳ね上げ橋の丁度真ん中にはほんの少し隙間があり、川を覗くことが出来る。人によってはかなり怖いだろう。

 元いた所までもどり、更に少し上流へ向かって歩く。ビュースポットがあるらしい。そこにはにわかに人が集まりだし、中にはカメラを持って待ち構えている者もいる。時計を見ると、もうそろそろで時間のようだ。私がそこに着いて間もなく、橋は動き出した。汽笛を鳴らし、蒸気機関が動き出す音が響く。ガタガタと金属と金属がぶつかりあうような音もする。そうしてゆっくりと橋は上がっていき大体80度程だろうか、そこで最大を迎え停止した。言うまでもなく、ビュースポットからは拍手やおぉという声がもれた。

 通りすぎて行く船は、跳ねあがった空間に対し、余裕があまりないくらいの大きさの客船だった。観光船のような見た目だ。1隻だけかと思ったが、しばらくすると、小さいクルーザーもさっきとは反対に向かって行った。汽笛が鳴る。橋が少しずつ下がり始めた。ガガガガガさっきよりも嫌な音がしている。

「蒸気機関で無理やりブレーキをかけているんだ。だからあんな音しているんだ。」

 高そうなカメラでバシバシシャッターを切りまくっている中年男性がそんなことをつぶやいた。

「当時の技術じゃブレーキの性能も低いだろうしな。」

 隣でファインダーをのぞいて時折ハンドルを回しながら撮影をしているこれまた中年男性が返すようにつぶやく。仲間か同僚、そんなところだろうか。

 跳ね上げ橋の可動を見届けると、それなりに良い時間になった。帰ろう。私はバスに乗り、今度は2回乗り継いでホテルへと戻った。

 夕食を食べるには丁度良い時間だったが、ディナーよりも先に済ましておきたいことがあった。洗濯と荷物整理だ。明日朝にはこのホテルを出る。今からランドリーサービスに出しておけば、明日の朝には裕に出来上がっている事だろう。食事の後は直ぐに寝たい。シャワーを浴びてホテルのバスローブに着替えると、ルームサービスとランドリーサービスを頼んだ。ランドリーサービスは直ぐに来たので、明日の出発1時間前には仕上げるようにと伝え服を渡す。ルームサービスは30分ほどたってからやってきた。一応、このホテルで食べる最後のディナーと言うことで、ステーキ込みのコースを頼んだのだのだが、正直少々怖いものがあった。肉が硬くないだろうか?そこだけが心配だったが、ミディアムレアを頼むと実感ミディアムくらいのものが出された。きっと私の感覚がおかしいのだろう。そう思い込むことにした。

普通の食事に、普通のワインを飲んで、散策の疲れもいい具合に効いて、私はいつもより早く寝ることが出来た。

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