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セカンドカントリー  作者: 桜華咲良
火の島"ガーネット"編
2/16

火の島編:1日目

定刻通り、飛行船は火の島に到着した。飛行船の空調内から外気に出たとき、とても煙たいと感じた。客の中にはゲホゲホと咳き込む者もいた。空気が悪い。遠くを見ようにも、煙がかって良く見えないし、目が少し痒くなってきた。



「そりゃまぁ、この島の空気が悪いのはいつものことだからねー」

審査のおばちゃんの言葉だ。この島の人でもやはり悪いと感じているのか。



この火の島は島全体が「ガーネット」と呼ばれる1つの町。私が6日前迄いた本土とは違う行政区域になり、入島するには旅券とビザが必要だ。

おばちゃんは私の旅券とパソコンの画面、そしてキーボードをにらめっこしながらタイプしていた。遅い。なんとか頑張って打ち終えると、私の方を向いて話し出す。

「お兄さん、今回はどんな用で?観光ビザでしかも1週間もここにいるなんて珍しいけど」

「私、今定住する先を探しておりまして。」

「へーそうなの。何か本土で嫌なことでもあった?」

如何にもおばちゃんが聞きそうな事を目の前のおばちゃんは言ってくれた。

「ええまぁ」

下手に話すと3日後ぐらいには島中の常識になっていそうなので止めておいた。

「この島はね、空気が不味いのが欠点だけど、それ以外は欠点らしいものはないんだよ~ガソリンが兎に角安いお陰で電気代もそれほど高くなくって魚も安いのよ~」

私がはぐらかしたのを理解してくれたのか、この島のアピールポイントをはなしだした。そこで私は

「この島で、ご飯が美味しいところってどこかありますか?」

と聞いてみることにした。

この先1週間、ずーっとホテルの確実に旨い飯を食い続けるのも味気無い。どうせなら町のコジャレた隠れ家的レストランの粋なコースだったり、賑わいある大衆酒場で旨いのか不味いのかわからない郷土料理だったろを喰らうのも良いだろう。

「そうだね~何処に泊まるかにもよるねー」

ごもっとも

「ホテルニューガーネットです」

「ニューガーネットね~車で10分位の所にいい感じの酒場があってね~そこの料理がウマイのよ!」

酒場か、初日からハードな気がするが…まぁそれも良い。

「教えていただけませんか?」

「うんいいよいいよ!えーっとね………」

うきうきしながらおばちゃんは紙に地図を書きだす。そういえば審査はどうなったのだろうか。一生懸命打ち込んだ画面は審査中の文字を表示して動かない。まぁいいか、時間はまだある、今夜の食事の事を調べていると思えば。

「………こんな感じかな。」

「へーそんなところにあるんですね。」

おばちゃんが書いてくれた地図はだいぶアバウトだ。本当にこれだけで迷わないのだろうか?

「うん結構分かりにくくてね~」

笑いながらそう言うが、それにしてもアバウトすぎる…が一応店の名前を書いてくれているのできっと大丈夫だろう。

「あっやっと入島許可降りたよ~ごめんね~時間かかちゃって」

「いえいえ」

今の今までかかっていたようだ。20分ぐらいか

「もう行って良いよ!お兄さん気を付けてね!」

「有難うございます。」


私が降り立ったガーネット総合港は本土で言うところの空港と海港が一緒になった港で。ジェットや飛行船、フェリーや客船もすべて、まるで工場を思い起こさせる大きなターミナルの建物で手続きがなされる。とても広いのだが不思議なことに建物の中には柱が全く無い。壁も人の腰よりも少し高いくらい(1m程)までしかなくこの建物の部屋は全て頭上で繋がっていた。

そのお陰で、地図を見ずとも飛行船のターンテーブルを見つけ迷わず到着することができた。

荷物を受け取り、空港出口へと向かう。歩きながら頭上を見上げると剥き出しの鉄骨は見事なアーチを描いていた。成る程、この巨大なアーチがこの建物の屋根と外壁と天井そのものらしい。これなら柱も内壁も必要ない。これ程の巨大な空間を作り出せている理由だろう。空港ターミナルの建物からは工業的な美しさを感じとることができた。


関心しながら歩いていると、いつの間にか空港出口付近まで来ていたようだ。ガラス張りの外壁の向こう空港の前には客待ちをしているのだろうか黒塗りのずんぐりむっくりした可愛らしいタクシーが10台ほど列をなして止まっていた。

私は空港を出ると、迷わず先頭のタクシーの近くへといき助手席の窓を叩いた。運転士は寝ていたようだったが、飛び起きて直ぐに後ろのドアをあけてくれた。

「すいません寝てしまっていて…どちらまで?」

それほど大きくない旅行鞄を後部座席に押し込み乗り込んで、

「ホテルニューガーネットまでお願いします。」

と言った。

「了解しました。」

そう言って運転手は車を発進させる。随分重そうな動きをしながら、黒塗りのタクシーは空港を離れた。


「お客さんこの島初めてですか?」

空港を離れて10分後、運転手が話しかけてきた。

「ええまぁ」

「どうです?この島は?」

まだ回っていない、ついさっき降り立った旅行者にその質問はおかしいと思うが。

「噂通り、あまり空気は良くないですね。」

素直な感想を述べてみる。

「そりゃここは工業地帯ですからね~特に空気悪いですよ~」

工業地帯か。そういえば、タクシーの車窓から見える風景は工場地帯そのものだった。各工場に必ず煙突がついていて、その口からはなんとも言えない色の煙が出ていた。

「浄化装置というものはついていなのか…」

思わずそんなことを呟いてしまうレベルだ。

「ああこの辺は工業地帯のなかでも最も空気が悪いところですからね~市街地からの距離も結構有りますし、風向きも市街地からの風ですからね~市街近くに行けば行くほど浄化装置がついてますから随分とマシになりますよ。」

成る程、ここは特区みたいなものなのか。

タクシーのフィルターおも突き抜けてくる煤煙の臭いはとても良いものではない。どうやら内気循環にしているようだが、それでも少し煙たい。


いちいち文句を言っても意味がないのでこの1週間の予定を確認することにした。


今日はこのままホテルへ向かって入島審査のおばちゃんに教えてもらった店で食事をとる。

明日は朝から島内見学ツアーで1日

3日目は市街周辺を1日散策

4日目は移動日

5日目は寝台列車に乗り

6日目は途中止まる駅周辺を散策

7日目午前中に空港へ戻り出島


1週間の予定は結構つまっている。全部手続きは通してあるのであとは時間通りに私が動けば良いだけになっている。

しっかり用意をしておけば以外と心境も楽なものだな。



少しずつ、窓から見える町の様子が変わってきた。工場からの煙が少なくなってきて、人の量も多くなっている。車のフィルターを通ってくる空気も大分マシになった。

「あとどれくらいでホテルに着きますか?」

「え!?もしかしてお急ぎでしたか?」

「いや、そんなことはないですよ。ただ少し気になっただけで。」

「あ、そうでしたか。焦りましたよ~。あと~そうですね、10分少々かと。」

「そうですか。」

タクシーで1時間も掛からない距離にホテルはあるようだ。予約と大体の場所は把握しておいたが、タクシーで何分掛かるかまでは計算していない。今日は予定がないからあまり気にする事ではないのだが。



タクシーの運転手が言う通り、10分ほどでホテルニューガーネットに到着した。

「えーっと代金は…」

私は財布を取り出して万札を出そうとした。

「5000円です。」

「えっ」

この時、あまりにも安すぎた料金に思わず驚いてしまった。本土なら1万5000円以上かかる距離を走った筈なのだが。

「5000円ですか?」

「はい。」

5000円札を出してみる。

「はい丁度頂きました。」

会計処理をしている。いろいろと心配になる安さだ。


「ありがとうございました。」

ホテルの玄関前で降りた私の目の前を、黒塗りのタクシーが重そうに走っていった。

「ここがホテルニューガーネットか。立派だな。」

2泊することになるホテルは、この島でもっとも高級で格式高いホテルを選んだ。やはり、最初はそういった所に泊まるべきだろう。初めから行きなり怪しい安宿は怖い。

中に入りフロントに向かう。流石は島一だけある。巨大なシャンデリアに照らされた広いホールだ。置かれているソファーや机は一目見るだけでわかる程の一級品で床に敷き詰められた大理石は輝いていた。

チェックインはスムーズに終わり、鍵を渡された。オートロックは無いらしい。

エレベーターに乗って最上階を目指す。大抵のホテルのスイートルームは最上階かその付近の階に有るものだ。

エレベーターは至って普通。速い訳でもなく遅いわけでもない。何故か階数表示がアナログだが、高級感を感じる造りにはなっていた。

最上階に着くと、廊下だけで雰囲気の違いがよくわかる。あからさまに高そうな雰囲気が感じ取れる。ドアも重そう。

私が泊まる部屋は、御一人様向けのスイートルーム。ここ最近飛行船か旅客機を利用して私のように島を巡る旅をする人が多いようで、この部屋もつい2か月前に新たに設定されたプランだと聞いた。

部屋に入ると直ぐに荷物を置いて、まずは窓からの眺めを見る。明るいうちと暗くなってからの違いを楽しむためだ。

やはり、あまり遠くまで見渡す事は出来なさそうだ。空港の方角に窓がある部屋だったので旅客機が飛び立つ瞬間や着陸が見えるのかと少々期待したのだが、工場から出る煤煙の影響だろう、遠くは灰色に見える。

ふと、手前に目を向けると、片側4車線の道路が、視野内に4本もあった。

いくらなんでも多すぎだ。

そしてその全ての道に、程々の混み具合で自動車が蠢いていた。

この島は…石油が出ると聞いた。きっと値段が安いんだろう。だからタクシー料金が驚く程の安かったんだ。

そんな推察は程々にして、私は荷物の整理を始める。

取り合えず、ここを拠点に2日過ごす訳だから小さい鞄と荷物を少々纏める。服は元々それほど持ってきていないので買い足す必要があった。

「念のため、マスクも買っておこうか」

食事に行くついでに買いにいこうか。

時間を見ようとして時計を探す。腕時計は時差をまだ調整していない。

「まだ夕飯の時間ではないな。」

夕飯を頂くにはまだ早いが、服を数着買いに市街へ繰り出すには少し物足りない。よし、迷わず町に出よう。


町に出て見ての感想は、兎に角車が多くその種類が豊富であるという事だ。

見事な流線型のカッコいい車が颯爽と駆け抜けたと思えば、骨董品のような車が風格を漂わせ走り去っていく。さながら自動車の博物館といったところだ。服屋に向かうまでの道にガソリンスタンドが無かったのが残念だが、それにしても車が多い。これだけの数を捌くには相応の数が必要な筈だから見つかると思ったのだが…

服屋でも気付いた事がある。綿の製品が商品の殆どを占めていたのだ。本土ではレーヨンや麻、シルクやウールなど種類によって数に差があるもののそれなりに多数の生地が置いてあったのだが、ここはほぼ全てが「綿」だった。私はてっきり合成樹脂のオンパレードだろうと思い込んでいたので少し驚きだ。空港ロビーといいこの綿だらけの服屋といい、私には何か感じさせるものがあった。

もしや…いやまさか…


やはり、と言うべきであろうか。予想外と言うべきであろうか。悪い予感は見事に的中した。

入島審査のおばちゃんに聞いた美味しいお店とやらに行った私は出された食事の殆どを一口しか食べることが出来ず、逃げ帰るようにホテルへと退散した。


なぜなら、不味かったのだ。


安い早い上手いの三拍子揃った店だと言われたのだが、どうやら私の味覚はこの島には合わないらしい。出てきた肉は中までしっかり焼けてとても硬く、白身魚のフライはアブラデギトギト、よくわからない白っぽい塊のような料理もあった。よくもまぁあんな不味いものをこの島の人は食えるなぁと感心してしまう程だ。

結局、今晩私は夕食にありつけなかった。致し方ない。このまま寝るとしよう、明日のホテルの朝食が普通で有ることを願って。


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