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セカンドカントリー  作者: 桜華咲良
風の島"アクロアイト"編
16/16

風の島編:1日目

 まるで悪夢のような事態に遭遇した。

「キャーーー」「うわっ」「おっとっとっと」「モウヤメテー!」

 空飛ぶホテルに泊る人々はそのあまりにひどい揺れに動揺を隠しきれない。そういう私もこの時相当取り乱していたに違いない。なにせこの状況を書きとめようと広げたノートにはよくわからないまるでコンプレックス・ストリングのような訳のわからない文字らしきものが描いてあった。あの時只でさえ狭い自室の中を飛び回るような状態だったのに、ノートとペンを持って勇気を出して廊下に這いつくばっりながら出てみると、それほど地獄絵図になっていなかったのを残念にもったことだけは覚えているがそれ以外はあまり覚えていない。とりあえず、あの美人スチュワーデスが若干取り乱しながら「いつもの事ですからご心配なく。あと、お部屋に居られた方が安全ですよ。酔いも少ないでしょうから。」と言っていた事だけは覚えている。あの時の顔は若干青ざめていた気がする。

 なぜこうなったのか。実は揺れが来る前にその原因は知らされていた。知らされていて、その対策も進んでいたからウィスキーやブランデーの瓶が転がったり割れたりの絵図を見ることが出来なかったのだが・・・。その原因は風の島アクロアイトにあった。なんでも島周辺の風の流れが他の比ではないくらい酷く速いらしく、島上空に達するためにはその流れに流される事を前提にアプローチをし無ければならないらしい。航空機であればそれほど気にしなくても良いようだが上に大きな風船を乗せたこのホテルには多大なる影響を与えるらしい。


「大変でしたね、酔い止め・・・もう遅いですけどお飲みになりますか?」

 さっきは青い顔だったが揺れが収まると途端にその表情を隠す辺り、プロ意識が凄く高いのだろう。

「いや、後に飲もうが先に飲もうが効くとは思えないから要らない。」

 私は最初から手遅れだったようだ。揺れのおかげで随分と気分が悪くなり、頭痛が激しくなってきた。もともと片頭痛持ちなのがそれを増強させているのだろう。そして私以外にも三半規管に大ダメージを受けた人達は多いようで。サロンにはたくさんの人がやって来て皆一様に水を飲んでいた。するとそこに機長が現れた。「皆さま先程の揺れでお怪我をなさった、部屋の調度品が壊れたなどありませんでしょうか?」 普通なら文句の100や200でてもおかしくないような目に遭っているのだが、やってきた機長もそうとうやつれているように見えた。そもそも、こうなること自体は飛行船のチケットを取った時点で分かっていた事なのだから(ここまで酷いとは思っていなかったであろうが)誰も文句を言わず、機長に対して「棚が外れた」や「足をくじいた」など問いかけに対した答えを返していた。そのやり取りに一通り対応したのち、機長は操縦室へと引き上げて行った。

「機体は無事だったようですね。この島上空で機体を壊さないのは機長ぐらいなんですよ。」 とスチュワーデスは私に教えてくれた。 アクロアイト空港は内陸部にあった。前回前々回はともに海の近くで空港と港が随分近い所にあったが今回はそう言うわけではなさそうだ。 降り立った「風ノ島国際空港」はかなりしっかりとした空港だった。特に管制塔は2つもあり、更に風向観測用だろうか背の高い小屋が幾つか見える。だが滑走路一本飛行船用直陸ポート1つしかないのにちょっとやりすぎではないだろうか?

 この時点で私は足元ことしっかりとしているが気分がとても悪く悪すぎてやる気を失っていた。なんとしても早くホテルで休みたいというのが私の願いだ。だがどうやらそう言うわけにはいかないようだ。

 まず入国審査。面倒だ。ここはコンピュータが導入されているらしいく、テキパキと進む事にはすすむのだが、肝心の旅券審査が相当手間取っていようで、これが終わらない終わらない。そのほか全てがコンピュータであれば起きないであろう確認作業やエラー入力ミス突っ込みどころ満載の職員たちのおかげで時間がかかって仕方がない。気分が悪くなければ笑って許せるのだろうが、今回は怒る気力すらでず冷たくあしらうのがやっとだ。

 

ホテルまで真っ直ぐ向かおうと思うとタクシーに載らなくてはならないのだが、そのタクシーがいなかった。どうやら全車賃走しに行ったらしい。一応バスを乗り換えて行けば付くのだが、そこまでする気力はどこにもない。ロビーで暫く待つことにした。 

 只待つだけでは面白くないので、島の観光案内(と言っても3つ折り縦長の簡単なものだが)を見ようとパンフレット置き場へ行き、種類の違うものを3つ程手にとってみた。

1つ目

 「風の町、風車めぐり」

 この島に無数とある風車をめぐる為のお勧め順路と見どころがざっくばらんに書かれている。このパンフレットには5つある本庁(この島の行政機関のようだ)所有の風車内部をみることが出来るチケットが付いている。との事、これは行ってみる価値がありそうだ。

2つ目

 「風吹くのどかな島観光」

 これは島の主要産業の一つである農業を前面に押し出したパンフレット。いわゆる体験型の牧場と農場を紹介している。“体験型”というところに正直引っかかる。多分行かない。

3つ目

 「グルメ散策」

 とてもとてもありがちな、美味しいお食事処を紹介したもの。見事に本庁周辺しか乗っておらず、私が泊るホテルはどうやら蚊帳の外らしい。


 多少の時間つぶしにもならなかった。特に興味をそそられるものは無く。有益な情報は、本庁周辺には美味しいご飯がある。と言うわりとどうでもよいことだけで、そのほかは皆無と言っても差支えない。まぁ、過去2つの島と比べこのアクロアイトは圧倒的に田舎であり主要産業は農業と漁業だ。工業や第3次産業なんてものは数少なく、全体的に「のどかな」空気臭う村のような島である。

 ただし、少し付け加えて言わなくてはならないだろう。ガーネット、ペリドットともに大きな島1つだけだったが、このアクロアイトというのは島と言うより群島と言った方が正しく、一つの大きな島に3つの中規模の島、そして10~20程度の小島からなる行政区画である。全てを回ることはできなくはないが、それをコンプリートする必要は何処にもないので予定に入っている幾つかを回るだけで勘弁願いたい。


ようやく戻ってきたタクシーに乗り込み、今晩止まる「ホテルショール」へと走らせた。今までは島のフラグシップホテルにまず最初に止まってきたが、今回はそう言うわけにはいかなかった。理由はとても簡単、この島に高級ホテルなど存在しないから。

「お客さん、この島初めて?」

 こう声を掛けてくれたタクシーの運転士から分かる通り、見事に田舎なのだ。

「ええ、初めてです。」

「そうだと思ったよ~飛行船降りてからホテルショールにまっすぐ行く人は大体初めての人だからね~何度も来る人は貸別荘の方に行くから。」

 飛行船に載るような人間は、大体高級ホテルに泊まりたがるものなのだが、この島にはそれが無い。仕方なく山間の貸別荘を使用人付きで借りる。というのがオーソドックスらしい。初めて来る人はそんなことわからずにとりあえず本島で一番大きいホテルショールに泊って、初めてそのことに気づくだそうだ。

 流れてゆく景色にはのどかな農村風景が続いてた。面白い事に、風車は皆総じてレンガやコンクリート作りが多いのに、家は木造の方が多い。しかも随分簡単な作りだ。生活する分には申し分ないのだろうが、凝った家が殆ど見受けられない。更に、家が全体的に細長く背が高いというのも特徴だろうか。


 さて、ホテルショールは海沿いにある。海沿いは港と言うこともあって田舎の繁華街といった雰囲気だ。タクシーが止まった先は新しい木造建築物の前だった。

「いらっしゃいませ~。お名前は?」

 降りると同時に中から出てきた従業員から名前を聞かれた。答えると、

「お待ちしておりました~中へどうぞ~あ、お荷物お持ちしますね~」

 とせわしなく動く。私は出迎え見送り荷物持ちというのがあまり好きではないので大体断るのだが、断る断らない関係なく流れるように事が進んでいた。あれよあれよとキーを渡され通されたのは和風の部屋。このホテルはそう言う雰囲気らしい。

「とりあえず、疲れているのでもう寝させてください。」

 まだ何かしようとしていたので、それを断ってなんとか追い出した。

 とてもとても気分が悪い。飛行船で酔う事になるとは思いもよらなかった。少し早いが、今日は寝よう。

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