光の島編:7日目
ようやく飛行船に乗り込めた。乗り込んでから出発までは随分とせかされているようで全員が乗り込むとすぐさまタラップが外される。機体は地上に別れを告げ、暗闇へとその身を投げる。
「何を見ていらっしゃるんですか?窓の向こうには何もないのに。」
私に話しかけてきた美しい女性は、またも前回と同じスチュワーデスだった。空港でたまたま機長やスチュワーデスが集団で移動しているのを見かけた時は心底驚いて声を上げてしまったが、それも無理はないと思う。
「何もないのを見ているんです。本当は目の前に何もない訳が無い。なんたってまだ島の上空なのだから当然小さな明かりくらいは・・・ほらそこ。ありますでしょ?」私は目を凝らしてようやくわかるくらいの唯一一点の光を指差した。「この島は光り輝く日中も美しいが、何も見えない暗闇もそれはそれで美しいんだと思いますよ。」
自分としては随分気取った事を言ってしまったが、後悔は無かった。それが本心であったからだろう。
スチュワーデスは笑いながら
「随分と感化されたようですね。ガーネットに対してはそんな感想を一切お話にならなかったのに。」
と皮肉交じりに答えてきた。確かにあの時はこんな事を言う気にはなれなかったな。
「それよりも。」と私は返し「なぜ私と君は3回も同じ便に乗り合わせているのだろうね?ああ、先に言っておくが僕が君に合わせているということは無いよ?」
と問いかけてみることにした。何せ約1週間もこの飛行船上で客室乗務員をしなければいけない職業である彼女と見事に同じ便に載ることは普通あり得ない事だからである。
「それは私も同じですわ。奇跡的に仕事とお客様のタイミングがどうやらあっているようで。」
曰く、飛行船だけでなく航空機にも搭乗することがあるらしいのだ。つまり彼女は私がペリドットを観光している間、どこか違うところまで航空便で行き帰りをしているらしい。大体ここから近隣の島までは航空機でも丸1日掛かる筈だから、行って帰ってをするだけでも最低3日。とすると少なくとも1往復はしていることになるだろう。2往復しようとすれば休みが無くなる。
それはさておき、このとき彼女が「偶然」という言葉を使わなかったのには何か意味があるのだろうか?などと考えてしまうのは性なのかもしれない。
「お客様は確か、定住地をお探しでしたよね?」
「ええ、そうですとも。まだ幾つか島を回るつもりなんだよ。第二の人生を過ごす土地だからね、こだわって決めるつだよ。」
この言葉を聞いて、スチュワーデスはおかしくなったのか笑いだした。ケタケタと笑いながら、彼女は私に向かってこんなことを言うのだった。
「そんなこと言って、お客様はまだまだお若いじゃないですか。これからの人生の方が長いかもしれませんよ。」
それくらいは分かっているよ。私はこれに、もう夜も遅い休むことにするとしようと付け加えて、展望サロンを後にした。そこそこに開放的なサロンから狭苦しい廊下に戻って、標準軌のB寝台程の客室に入り、直ぐにベッドに潜ることにした。時間も時間だ、明日はゆっくり起きるとしよう。なんてたって飛行船上の1日はいくら無駄にしたって構わないのだから。怠惰な日々を送ったとしても、気に病む必要はどこにも存在しない。