表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セカンドカントリー  作者: 桜華咲良
光の島"ペリドット"編
13/16

光の島編:5日目

 ジリリリリ

 けたたましい目覚まし時計の音に目が覚める。部屋の中はまだ暗い。日の出よりも早い時間にあえて起きたのだ。暗いうちに身支度を済ませ日が出て直ぐに行動が出来るようにと考えての行動だったのだが、これは良い策とは言えなかった。


 身支度を済ませると窓から木漏れ日のようなよわよわしい光が差し込んできた。光柱のない部屋に太陽の光を唯一導く窓からこれくらいしかやってこないのだから、もしかすると町自体が動き出していないのではないだろうか?そういう嫌な想像が頭の中をよぎった。窓の外を見てみると、出勤だろうかサラリーマン姿の人がちらほらと町を歩いてゆく。その割に町は暗く随分と静かだ。街灯も、駅へと向かう一本の道しかともされていない。身支度を済ませ、私も部屋を出た。2階に下りてみると、レストランへといざなう階段の向こうはまだ真っ暗で、というかそもそも2階に誰もいなかった。いくらなンでも不用心すぎではないのか?なんて思いながら外へ出てみることにした。

 やはりというか、只でさえシャッターが多かった町は息すらもしていないようだった。歩いている人は数人いるが皆総じて会社員。向こうに合わせて出勤しているのだろう。ついていく、訳ではないが同じ道なりに進んでみると当然だが終着駅へとたどりついた。こんな時間にも列車はあるのかと関心しながら時刻表を覗いてみると、朝のこの1本だけのでこの後は1時間程ないようだ。驚いたことに列車は2編成をつなげた2両車両だった。見るからに型が違うこの2種類の編成はどうやら無理やり連結しているようで、警笛を鳴らしながら発進していった。満員ではないが、この先どんどんと乗り込んでくるのであろう。

 そのままホテルへ戻っても、まだレストランは開店していなかった。部屋に部屋に戻る気にならずシャッター通りをトボトボト歩く事で時間を潰すことになった。

 ようやくレストランが開き、朝食にありつけたのは朝起きてから3時間程経ってからだ。そこで食べるものは至って普通の洋食だ。料理を運んできたウェイトレスにこのあたりでお勧めのスポットは無いかと訊ねてみると、山の上にある展望スポットが抜群に良いと教えてくれた。なんでも、ケーブルカーで上がるらしい。登りきるまでにかなり時間がかかるので昼食は用意して言った方が良いというアドバイスもご丁寧に教えてくれた。レストランのテイクアウトサンドウィッチを注文し、出来上がるまでブラックを飲みながら待つ。上手いもんだ。

 サンドウィッチを受け取り、レストランをでて直ぐにケーブルカー乗り場に”走った”。これまたご丁寧に先程のウェイトレスが「出発時間が迫っている。」と教えてくれたのだ。ついでにどう行けばいいのかも教えてくれた。目の前の通りをそのまま山方向にまっすぐ進めば看板があるはず、らしいのでその通りに走ってみると確かに看板があって→だの←だのと進んでゆくとケーブルカー乗り場に行きついた。大きなベルを持った職員らしき男性が

「もうすぐ出発するぞ~」カランカランカラン

と私に声を掛けてくれた。おじさんには悪いが、反応する暇も無くケーブルカーに乗り込んだ。数秒後にドアが閉まる。なんとか間に合った。肩で息をするほど走ったのは過去随分と記憶が無い。至って普通に用意周到な生活を普段から心がけてきたからだろう。大人になってから走るというのは小走りであって息は殆ど上がらないし、それすらもすることがあまりなかった。久しぶりに肩で息をしてみると若い頃とはもう違うんだと実感させられた。落ち着きを取り戻せるまで、数分間かかった。

飛び乗ったので外観がどうなっているかは分からないが、内装はトロリーバスと同じような雰囲気で無駄なものは殆どない。色もいかにも金属材料そのままな銀色メッキではないをしており、ガタゴトという音や車両全体の振動から察するに兎に角軽く造ることを目標とされているのを感じる。当然だが座席は固定のクロスシートで、クッションの厚みは薄い。苦痛に感じるほどではないが、先述のような振動があるとやはり硬さを感じる。

 乗っている人数はそこそこ多い。それでいて皆ヘルメットを持ち服装は作業服だ。観光ケーブルカーと題しているが、実際は作業員の方が多いようだ。山の上といえば北側に光を届ける反射鏡がある。それにこの山の南側の約半分を埋める太陽電池のメンテナンスもここで行っているに違いない。下から登るのは大変だが、上から降りるのは比較的エネルギーを消費しなくて良い。共に、この島の生命活動を保つためにはとても重要な施設だからさぞ手入れの行き届いている事に違いない。



 ガタゴトと上えと登っていくケーブルカーに乗り込んで30分程経った。未だに相方にお会いできずにいた。ケーブルカーというのは下から登る今まさに私が乗っている車両と、上から降りてくる車両が一本のケーブルでつながれており基本的に列車には動力が存在しない。当然だが登っていけばすれ違う筈で、すれ違えば道半ばと言うことにもなるのだが・・・。なかなかそれがやってこない。随分上っただろうなんて窓の外を見てみるが、思ったほど登っていなかった。確かに進むスピードもそれほど速いとは感じない。むしろ遅い。速くなればなるほどエネルギー消費が増えるからという理由なのだろうが、これでは時間がかかって仕方が無い。更に15分経ってようやく降りてくる列車とすれ違う。あと45分はかかるということか。


 たっぷり1時間30分掛けてなんとか頂上にたどり着いた。ケーブルカーを降りる。外観はシルバー。どうやら塗装されていないようだ。航空ジュラルミンのような輝かしい色合い、と表現すれば良いものに感じるだろうが、ようは塗料の重さをも嫌ったからこうなってしまったのだろう。山肌に打たれたレールの勾配はかなりきつく見える。この勾配をケーブルカーで一気に登りきるためにはそれなりのエネルギーが必要だろう。頂上の駅舎は全て木造のようで、実に質素なものだ。ここまで建材を運びたくなかったのだろうか?時刻表を見ると1日に3本しかないようだ。午前中と、午後に一本。そして夜半と言ってもいいだろう、そんな遅い時間に1本あった。この島は夜中にエネルギーは得られないから必要最低限のエネルギー以外使用しないようになっているものだと思い込んでいたが、例外はあるのか。

 駅舎を出ると一気に開けた場所にでた。遠くにはビル群と海が見え、目前には燦々と輝く”何か”・・・太陽電池である事は明白なのだが、輝かしすぎて直視できない。

「うわっ」

 反射的に手の平で光を遮った。

「あ、ごめんごめんちょっと待ってね~。」

 急に気の抜けた声が聞こえてきたと思うと、反射光が収まる。立て板が設置されていた。

「お兄さん大丈夫かい~?」

 ヘルメットをかぶった良い雰囲気の中年男性がとてもフレンドリーにはなしかけきた。

「ええ、なんとか。」

「そりゃ良かった。ここは光が集中しちゃうんだよね~。太陽電池の角度が悪いんだよ~何故かここに集中しちゃうんだ。」

「そうなんですか。」

「それにしても~お兄さんこんな時間に何しに来たの~日が沈むまでは時間かなりあるよ?」

 日が沈むまで?少々気になるこのワードについて少し掘り下げて訊ねてみると、

「あ、お兄さんしらないの?ここから見える星空が凄い綺麗だって結構有名なんだよ~綺麗で。」

「そうなんですか。だから夜の遅い時間にケーブルカーが走ってるんですね。」

「?ケーブルカーは走ってね~よ?そりゃ降りる専用のゴンドラだよ。なかなかスリリングな乗りものだよ~。」

 星よりもゴンドラの方が気になってしまう。乗るためにはかなり夜になるまでこの上で待たなくてはならないようだ。それまでは太陽電池施設や反射鏡を眺めることで過ごすことにしよう。昼食として持ってきたサンドウィッチの量が妙に多いのはきっとこれを見越しての量だったのだろうか。

 

 日が沈むまで施設を眺めていようと思っていたのだが、予想通りというか当たり前というか、施設の内容をあまり見せてはいないようだった。他の島よりも格段に効率の良い太陽電池を的確に運用させなければこの島は死んでしまうのだからその制御システムはさぞ複雑か、とても革新的なものだろうと想像していたのだが、そのあたりは全てブラックボックスの中だったようだ。

 辺りが暗くなるまで何をすることも無く、ケーブルカーの駅舎のベンチで座りながらメモをノートをまとめていたのだが、ふと気づいたら辺りはかなり暗くなっていた。それだけ熱中していた、という訳ではなく単純に寝てしまっていたようだ。荷物はちゃんとあるようなので、皆ほほ笑みながら見過ごしてくれたのだろう。特にこの場所だと作業員が多いから、私の気持ちをくみ取ってくれたに違いない。頭上にあるLEDの常夜灯ではノートに何か書ける程の光量は無い。時計を見るとあと数分で日没時刻のようだ、都合が良いので何もせずそのまま太陽が完全に沈むまでまつ事にした。

 十数分経った。もう確実に日が沈んでいる事に違いない。駅舎をでて先程の目前が開けた所に歩いて行った。目の前に広がっているのは永遠と向こうへ続く海だった。町も海も真っ暗、当然だが空も真っ暗で一続きのようにも見える。空に広がる川はかなり幅が広く、空全体を覆うかのようで、とても美しかった。空気が澄んでいて、それでいて町の明かりが無いからこそこれほどまでの光を受けることが出来ているのだろう。周りを見渡すとカップルやカメラを持った人が何組か居た。光を受けることがこの島の生命線であるということを改めて実感させられた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ