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セカンドカントリー  作者: 桜華咲良
光の島"ペリドット"編
12/16

光の島編:4日目

 昨日は最悪だった。トロリーに飛び乗ったのはいいが役場前止まりだった。そこから帰宅ラッシュに巻き込まれもみくちゃにされながらなんとか最終の路電に乗りこめたのだが、ホテル前の停留所で降りれなかった。一駅余計に乗ってしまい、降りたのは良いが帰る足がなく仕方なく徒歩移動をすると雨が降ってきた。傘を買おうにも店は殆ど閉まっていて、ようやく買えた時にはずぶぬれになっていた。更に停留所間が長いので徒歩の距離もかなりあった。疲れてクタクタになったあとホテルに辿りついた私がどうなったか、想像にお任せする。

 そして今朝、私は何をしていたかと言うと、大慌てで大急ぎで荷物をまとめていた。と言うのも、今日このホテルをチェックアウトしこの島の北側に向かうからだ。幸い昨日泥のように眠ったおかげで今朝は早く起きることが出来た。なんとか出発までには間に合う。とりあえず、朝食はそうとう急いで食べなくてはいけない。

 ホテルをチェックアウトする頃には予定通りの時刻で行動を出来るようになっていた。本当はもう少し余裕を持ちたかったが、今回は仕方がない。チェックアウトをしてそのまま目の前の停留所で待つ。今日も曇り空だ。暫くすると役場前行き普通列車がやってきた。この列車は役場前以降、種別変更して急行シルエット行きになる。2日目に乗った列車と同じだ。今回は綺麗な列車で、編成の前方と後方にクロスシートがあるタイプだ。クロスシートに座り、後は終着駅にたどりつくのを待つだけだ。流石に眠りはしないが、ノートを整理する時間としよう。


 役場前駅を過ぎて暫くは同じような町並みだった。急行と言うだけあって1駅だったり2駅だったりを通過する分やはり景色が流れていくも速い。乗客は役場前でごったがえしたが次の停車駅で半減し、また次で半減し、という感じにかなり早い勢いで減っていった。減るのだが、減るだけでそこから先増える気配はなかった。4つ目の停車駅に止まった頃には町並みもかなり変わり、どんどん一般的な建物に成りつつあった。シルエット行きの列車は山の西側を通るルートしかない。この先に進めば進むほど太陽の恵みを受けることが出来なくなる。私の現在地は島の西北西。車窓から垣間見る町並みからは南側のような活気がない。この先に行けばいくほど活気が無くなっていくのだろうか。

 停車駅に止まる。だが乗り込んでくる人はいない。降りて行く乗客しかいない。列車の中には私しかいなくなっていた。一人を運転手車掌が操る大きな列車で運ぶというのはなんとも滑稽で、それでいて何処となく申し訳なくなってきた。

 シルエットに着いたのはそれから2駅停車してからだ。その間に6駅程通過している。そう言えば、シルエット行きは朝の間は急行しか設定されていなかった。逆に夕方には普通が大量に設定されていたので西側はベットタウン的な立ち位置なのかもしれない。そして最北端の駅シルエット周辺は・・・活気が全くなかった。

 山を中心とした形をしているこの島の北側は山の陰に入りあまり良好な日照を得ることが出来ない。日照が得にくいということは、当然だがエネルギーを得にくい。仕方ないというとそれまでなのかもしれないが、結果としてこの周辺は産業が発展しにくく経済的に遅れている。島の大きな問題「南北問題」だ。この町のシルエットという名前は的を得すぎている、駅に降り立った時、私はそう思った。この辺鄙な(住人には悪いがこの表現が最も正しい)この町で2日程過ごすことになっている。

 ここまでの電車移動は書いてみれば短いものだが実は約2時間程掛かっている。と言うのも急行と言っても路面電車レベルなのでスピードが特に速いという訳でもない。しかも役場前駅で随分長く待たされ、他に止まった停留所でも無駄に長く停車していたので掛かった時間ほど距離は進んでいない。島自体が小さいので無意味にスピードをだす必要が無いからだろう。昼食を食べる場所を探し駅周辺を探索しよう。そう思い周りの観察を始めた。

 まず駅舎だが、空港前のようにホームを覆う屋根があることにはあるがあちらが細い鉄骨で組まれていて日光が入りこむように透明な太陽電池が使われていたが、こちらは屋根すらない。終着駅は使う人が少なくても多少は気合いを入れて作る物だと思うのだが、ただコンクリートで作られたホームがあるだけだ。しかもそれすらもドアとホームの高さがあっていない。

 駅前の、おそらくメインの通りだろうと思われる場所は平屋建ての商店街、開いていない店もちらほら見えるが殆どの店が開店しているようだ。電気屋服屋靴屋薬屋、商店街としてはありきたりなラインナップだ。人はあまりいないが、それは今の時間帯だからだろう。通りを少し外れるといわゆる飲み屋街と呼ばれるような路地がある。だがそれも長くは続かず1~2分歩くと家屋が見えてくる。やはりベットタウンなのだろうか。もう一度商店街にもどり、先に進んでみる。良い雰囲気の大衆食堂を見つけた。腕時計をみると時間的にはちょっと早い、が良いだろう。そう思い中に入った。良いにおいがする。

 この島に来てから、あまり食事を取り上げなくなった。というのも記憶に残るような食事を食べる事が無いと言うのが主な原因でもある。ガーネットが酷すぎたせいか、食事に対しての関心が薄れているのだろう(意識的にかもしれないが)。不味い飯を食わずに済む、と言うことだけで私にすれば十分すぎる情報だ。

 食事を終えて店を出ると商店街にかなり明るい光が差し込んでいた。北側はあまり良好な日照が得られない筈なのだが・・・目を悪くするのを承知で光の方を、山の頂上を見てみる。そこには楕円の発光体があった。あれは何のだろうか?出たところだが、食堂にもう一度はいり店員に訊いてみるとあれは反射鏡だという。光が差し込みにくいこの町に光をもたらす為に作られたもので、その形は可変するという。詳しいことは店員も知らないと言っていてたが、ここから楕円に見えているということ、そして反射させるエリアを考えると、反射鏡は角度だけでなく、その鏡の面も自由に可変できるように成っていると推測される。鏡面を湾曲させることで光を拡散させなければ、どこかが狙いうちで焼けてしまう可能性があるからだ。当然だが拡散させれば得られるエネルギー量も光量も減る。太陽の代わりとまでは行かないだろう。

 荷物を持ちながら町を歩き回るのは少々面倒だ。だが、ホテルのチェックインまで少々時間がある。腕時計で確認すると2時間程だ。なんとも中途半端な時間だ。とこの時の私は感じていたのだが、その2時間もしないうちに認識を変えることになる。

 町の中を歩いていると、なぜか役所系の建物が多いような気がしていた。「~事務局」だとか「~管理局」だとか、そういった看板がやけにおおいのだ。しかもその名前と建物を見るとどうも保守や保安系の部署のようだ。なにを保守しているのかわからない。一つ気になるのは町の標識にやたらと見える「ケーブルカー乗り場」と「ケーブルカー運用局」の存在。確かに山を見れば頂上までケーブルカーが伸びてはいるが、この光の無い側を昇って行ったとてなにかあるのだろうか?そんな思いに駆られる。

 荷物をガラガラと弾きながら暫く歩いた。するとふとあたりの暗さに気がついた。普通、1日2日で日の沈む時間が大幅に変わることは無い。当然日が沈んでゆく速さも同様にだ。なのに今日はやけに暗くなるのが早い。しかも昨日までは辺りが見事なオレンジ色になっていたのに、今日はそうならずに暮れていく気がする。実際はそんなこと無く、”ほのかに”オレンジ色になってはいるのだが、その彩度が低いから色が付いているように見えない。食堂を出てから1時間半程辺鄙なこの町を歩いていたが、急にあたりが暗くなり始めるのには驚いた。いくらドンドン日が短くなっていく季節だからと言っても、流石にこれは早すぎる。天気が悪いのだろうかと思い頭上を見上げても、決してそんな風には見えない。むしろ快晴と言って差し支えないぐらいの空模様だ。もしや・・・。時計を見る。少々早いがチェックインしてしまおう。


 私の予想は正しかったようだ。ホテルへと向かう道を歩いていても、どんどんと日が沈み辺りが暗くなってくるのがわかる。多分この地域は、完全とまでは言わないが日照条件が悪い分暗がりの時間が長いのだろう。ということは、活動時間が短いということにもなる。ホテルに着いた時には随分暗くなっていて、室内に入れば確実に暗闇、身動きが取れないぐらいだった。

 今日と明日泊るホテルはいわゆるビジネスホテルと呼ばれるようなはっきり言うと安宿だ。これでも朝昼晩の食事を頂けるレストラン付きだからシルエットでは高級な方である。というか、このホテルの場合は1階に普通のレストランがあってホテルから直通で行けるだけなのだが・・・。建物は5階建と周辺では一番背が高く、1階は普通のレストランとなっており2階にロビーが、3~5階までが客室となっている。客室数も少なく、そして日の当らないこの地域・・・あまり夜間の快適性を求めない方がよさそうだ。事実、チェックインしたときに頭に付けるヘルメット用LEDライトのようなものを渡されたからだ。どうやらこのホテルは夜間照明が殆どないらしい。確かにロビーもかなり暗い。

 頭にこんなものを付けるのは初めてだ。LEDを付けてみても足元周辺ぐらいしか明るくならず、階段の先や廊下の先を見渡すことはできない。確かに歩く分には問題が無いのかもしれないが、最小限すぎて先行きが不安になる。とりあえず3階の部屋へと荷物を持って上がり(国際ホテルのような便利な機構は無い)部屋に入ってみる。予想通り、広さはそれほどなくベッドと一人掛けの椅子が2つ、壁に向けて置かれた机の下には小さい冷蔵庫があって・・・と説明する必要もないくらいの普通のビジネスホテルの部屋には常夜灯程のLEDの冷たい光しかない。このヘッドマウントライトの必要性を理解した。部屋の中で懐中電灯をいちいち探すのは流石に利便性が悪いからだろう。

 今朝慌てて詰め込んだものだから無茶苦茶な中身になっている筈。まず真っ先に荷物整理をしなくてはならない。手元を照らしだす分には頭上のライトは十分に活躍する。とおもったが、頭を動かすたびに光源が揺れなんとも言えない見にくさとしばし格闘する羽目になった。頭を出来るだけ動かさないように成るまで時間がかなり掛かった。荷物整理を終えて、部屋を一周(と言える程ではないが)すると、普通の懐中電灯(かなり大きいが)もあった。部屋を出るときはこちらを使う方がよさそうだ。なにせヘッドライトはダサい。

 昼食を食べてから経過した時間を考えると、夕食を食べるのはまだもう少し先の方が良いような気がしていたのだが、頭の片隅にあるこの地域のエネルギー事情が気がかりで、間隔が詰まってしまうのを我慢して食事をすることにした。懐中電灯をもって部屋を出て階段を下りる。2階ロビーから下に伸びるレストランへの階段も結構暗い。時間帯から察するにもう日は沈んでいるに違いないので、この暗さは当然と言えるのだが、国際ホテルはここまでひどくなかった。単純に使えるエネルギー量が制限されているのだろう。

 レストラン内部は暗さを上手く逆手にとったインテリアをしていた。使い込まれているのが良くわかる木の色合いを一層引き立てる無数の橙色は蝋燭と電球色LED、雰囲気の作り込みが素晴らしい。テーブルは全て丸いタイプで純白のテーブルクロスが引かれており、真ん中には3本の蝋燭が立つキャンドルスタンドが置かれている。上層階の客室とは打って変わりここの雰囲気だけは国際ホテルのそれよりも素晴らしいと私は思った。通された席は降りてきた階段の近くで着席すると差し出されたメニューを見て直ぐに注文した。ここからが私の心配。はたして料理は十分に温かいのか?答えはイエス。火加減が抜群でとても美味しいディナーを頂けた。(これ以上の事の言葉が出なかった)店の本来の入り口から入ってくる客は定期的にやってくるのを見ると、私の心配はどうやら無用のものだったようだ。この様子だと、かなり遅くまでこの店はやっているに違いない。

 食事を済ませロビーに上がった時、さっきは気付かなかったが、かなり背の高い本棚がロビーに鎮座していた。なかなかセンスの良いラインナップだ。受付に訊いてみると、部屋に持って行ってよいとのこと。今まで以上にここでやることがなさそうだし、何か一冊借りて読むことにしよう。かなり厚めのハードカバーを一冊借りて、部屋へと上がった。


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