表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セカンドカントリー  作者: 桜華咲良
光の島"ペリドット"編
11/16

火の島編:3日目

 朝の清々しさは空港のホテルよりも良かった。なにより、ベッドが恐ろしく心地よかった。日が沈めば活動をしなくなるこの島はだからこそだろう。暗くなれば寝ること以外することがないからこそ、寝る環境を徹底的に作り込む。昨日の夜は日が沈んでから部屋の暗さに驚き、やってきた料理が少し冷め気味だったことに驚き(冷めてもおいしいように作られていたので問題ではなかったが)、ようやく暖かいシャワーを浴びれたと思うと、使用水量が決まっていたり(快晴ではない限り制限があるらしい)とこの島の生活というものをとくと見せつけられた気がする。だが、基本的にはそんな時間に起きていた私が悪いのであり、この島は悪くないのだ。日が沈めば寝ればいよいという生活方法はある意味もっとも人間的なのではないだろうか?暗闇に目を凝らし、漆黒に怯えながら動き回る必要はない。あたりが暗くなれば寝ればよいし、明るくなれば動けばよい。そう思えばこの島の事をとても魅力的に感じれた。

 朝食はレストランで、フレンチトーストとアップルティーを。とてもとても優雅な時間を過ごせた。焼き過ぎず、甘すぎず。絶妙な味わいはとても美味だ。

 幸せな食事中、さて今日は何処へ行こうかと思案していると隣の席に座った老夫婦のこんな会話が聞こえてきた

「昨日の役場前は凄かったですね。」

「そうだねぇ賑わってて。」

 もういくらか会話は弾んでいたが、その中から私の興味をそそったのはこの部分だけだ。賑わっているのか。凄いのか。じゃあ今日は役場前に行こう。そう思い立って私はレストランを出て部屋へ支度に戻った。


 役場前までは2通りの行き方がある。一つはトロリーバスを使うこと。もうひとつは路電を使うこと。ここの路面電車の名前とは随分イメージが違い駅間距離は意外と長い。平行するように走るトロリーの路線はその間を補完するべく通常のバス路線と同じ距離間に停留所が設置され、更に時間も路電の時刻から巧く外されている。さてどちらを使おうか。悩みながらホテルを出ると丁度音階を上げて車両が駆け抜けて行った。しかも役所行きが。よし、トロリーを使おう。そのまま私はトロリーの停留所のある通りへと歩いて行った。

 停留所の時刻表を見ると丁度間もなく来る時間だった。トロリーバスはキューーーーというモーター音を発しながらやってきた。大径かつ細いタイヤ。なめらかで凹凸の無いボディデザイン。昨日は車内までみることが出来なかったのでとても興味がわく。乗り込んでみると、シートはバスにしては珍しいロングシート。ラッシュ時の乗員数を確保するためだろう。今も、ラッシュ時ではないのに席は全て埋まっており車内は混雑している。ここの島では自動車がほとんど存在しないからだろう、町の人はほとんどトロリーか路電、もしくは徒歩自転車といった具合でしか移動手段を持たない。朝食を終え用意をしての時間なのだが、それでも十分な人ごみだった理由はそれだろう。降車ボタンやその他は普通のバスと同様で、特に珍しい物は無い。しいて言うなら、空調があまり行きとどいていないといったところか。走りだしてみても普通のバスとあまり違いは感じられない。路面の舗装が行きとどいているからであろう。

 トロリーバスは少々遠回り(ジグザグに進んでいるというたとえがこの場合分かりやすいかもしれない)をして役場前にたどりついた。正式には役場前駅停留所。路電の駅前ということになる。路電の駅は空港前とほとんど同じでとてもシンプルないでたち。ホームの数が違うだけといって差し支えない。バスに載っている人の大多数がこの停留所で降りてゆくようで、降りれるまで時間がかかる事を覚悟していた。と言うのも、ここまでの間だれも両替に行かなかったのである。きっとこの島では事前に両替しておくという習慣が根付いていないのであろう。そう思いながら、降車する列に並んでみたのだが、思った以上に進むのが早い。なんならみんな殆ど立ち止まらずに素通りしていくような早さで降りて行く。もしやと思い前の方を覗くと、なんと降車する全員がICカードで運賃を支払っていた。いや、これ自体は場合によってはあり得るだろう。本土でも大都会と呼ばれる地域の通勤ラッシュでは見られるかもしれない。だが私はこの光景をつい昨日見た事を思い出した。あの時は外見に興味が言っていたのでさして気にも留めなかったのだが・・・。目の前にいた高齢の男性も、風貌に似合わず「ピッ」という電子音とともにバスを降りたって行く。結局、一番時間がかかったのは料金ぴったりのコインを投入した私だった。

 本当に全員ICカードで料金を支払うのか。付いた先がターミナル駅だったので都合が良い、よくよく観察してみた。トロリー、路電、降りる者乗る者。その手元をみてある一つの仮説を立てて今度は駅前の売店に行ってみる。うんやはりだ。全員ICカードを使用している。それがたとえどこであろうとだ。

 路電バスはもちろんだが、売店、そして店先にある公衆電話、利用するときは”ほぼ”皆ICカードを使用している。私が立てた仮説は「コインの重量を嫌っているのではないか」というものだ。唯一一人だけ、売店でICカードではなく紙幣で代金を支払った男性がいたが、その時に出した財布がとても薄かったのだ。本当に紙幣とわずかなカードしか入らなそうな薄い財布。この様子だと、島中がこのような財布を持っているのだろう。そしてこの島の経済活動のほとんどをICカードがになっているのだろう。コインの重量までも気にする。それほどこの島は省エネルギーにうるさいらしい。そう言えば、ここにきてからというもの太った人間を見た記憶がない。まさかとは思うが・・・まぁそんなことはこの後すぐに詳細にわかる。


 役場前に来たのは確かに賑わいを見たいというのもあるが、実際は役場へ行くという意味合いの方が強い。というのもこの島、この町の中心は役場である。全ての指揮決定権をもっておりその力は一国と同じだけの大きさがある。勿論議会だって軍隊だって持っているのだが・・・まぁその話はこの先しても意味がないだろう。兎に角、役場が中心であり、そこへ行けばこの島で行われている政策のほとんどを垣間見る事ができるのだ。ガーネットでもわざわざ中央管理局に向かったのはそう言う意味合いもあった。

 役場は随分現代的な建物だった。どう見ても役場には見えない。通りに面してガラス張り(きっとあのガラスも発電しているのだろう)のデザインはどこかの商社持ちビルかと思わせる。厚め重めのガラス戸をあけて中へ入る。空調は若干効いているくらいで照明はやはり光柱。太いのが目に見える範囲で2本ある。建物の外観から予想するに全部で4本あるのだろう。まずはフロアマップを見る。15階だてのこの建物は当然ながら役場としての機能がそのほとんどを占めている訳だが2階の食堂は誰でも利用出来るらしい。さらにこの隣、大通りの並びで路地を挟んで向こう側にある別館には歴史館美術館文化ホールが仲良く同居しているそうだ。大体把握できたので、とりあえず別館へ行くことにした。行き方は二通りある。もう一度外へ出て通りを渡るか、上の階へ上がって渡り廊下を通るか。暫し考えて私は前者を選んだ。と言うのも、別館のフロア構成は1階が大ホール、2階3階が美術館で4階に中小のホールがあり、5階6階が博物館となっているからだ。つまり、1階は大ホールのホワイエとなる訳なのでそこから入らない手は無いだろう。どれくらい解放感のあるフロアなのだろうか。

 もう一度重いガラス戸をあけて通りの向かいへ行く。そう言えば、特徴的な信号機について書いていなかった。信号機は大体10インチぐらいの四角いLEDの板で、それが赤と青に切り替わるというもの。フルカラーLEDでも仕込んであるのだろうか。ただ、黄色信号はともされない。交通量が少ない上に走っているのは殆ど自転車だろうから特に問題はないのかもしれない。左右を確認する必要もないくらいの往来しかない。

 向かいの建物の中に入る。こちらは空調があまり効いていないように思えた。ホワイエは3階までの吹き抜け、すがすがしさを感じる。大ホールは何かの公演をやっているらしく少しだが音が漏れてきていた。座席表を見ると一階席しかないようだ。大ホールと呼べるほどの規模ではなさそうだ。公演カレンダーがあったので見てみると2カ月先までびっしりと埋まっていた。他にこのような施設がこの島に無いかもしれない。2階に上がってみる。2階は美術館の企画展示フロアだった。今日はこの島の子供が書いた絵画展だった。軽く見て回ったが、まぁ普通だ。3階の常設展示も至って普通、素晴らしい芸術作品は多々あったが特に目を引くものは無かった。気になったのは2階のフロア面積が3階と比べ狭く、反対に2階のフロア高が高いということだ。そう言えば、1階のフロア高もかなり高かった気がする。大方、大ホール存在が影響しているのだろうと推測できるが、この感覚の違いは少々違和感を覚える。

 4階は渡り廊下があり、かつ中小ホールがあり、そのため狭いホワイエがあった。ここは素通りをする。5階博物館。ここが午前の目当てだ。中にはどのようなものが置いてあるのか、少々気分が高揚していた。

 入ってまず目に入ってくるのは太陽電池だ。手のひらに乗るくらいの小さな小さな太陽電池だが、とても分厚い”ガラス”ケースに入れられていた。どうやらこの島で初めて作られた太陽電池、アモルファス太陽電池だという。開発された当時、発電効率がたった5%しかないこのアモルファス太陽電池でなんとか電気を作り出し生活するため町中に太陽電池が張り巡らされ、海上に島の倍ほどの面積の発電用イカダを2つも浮かべるなどをしていたらしい。あまりにも大きな面積だったのでその海域に日光が差し込まず、そのおかげで環境を破壊を引き起こしてしまったらしい。その後多結晶単結晶系太陽電池の登場でそのイカダは大幅に小型になり、さらに現在のガリウムヒ素系太陽電池に置き換わると町全体のエネルギー状況はそれまでのその日暮らしから余裕をもったものになった。ということが長々と説明されていた。それぞれの太陽電池の組織式から製造方法の概要、使用されている所まで事細かく書かれていた。そんな太陽電池のサンプルが並ぶ列の一番最後、どんじりのケースの中には何も入っていなかった。よく見ると、これだけがガラスケースではない。透明太陽電池のケースだったようだ。

 太陽電池しかないのかと思っていると、5階には本当に太陽電池しかなかった。この島の成り立ちと歩み、それらは全て太陽電池無くしては語れず、その進化が今このような建物を生み出している。と言うのを全力で伝えてくれてはいるのだが、いささか退屈と言うか殺風景と言うか。太陽電池周辺機器だけで博物館とはなかなかつらいものがあろう。確かに、歴史を紹介しているとは思うが・・・。ある程度で見切りを付けて、6階に上がってみる。こっちはこっちでなかなか面白いものが幾つかしかなかった。このフロアはいかにして省エネルギーをなし得るか、その努力ばかりがフューチャーされていた。かなり早い時期にLEDを量産していたり、路電の制御方式は最先端のものを惜しげもなく投入し、行政や会社のサービスは徹底した合理化を推し進め、多少の不便も楽しめるような配慮をしたデザイン思考の進化などなど・・・。博物館はとても狭い範囲のものを見せつけてくれる。興味を引かれたのは唯一「光柱」の構造だけだ。

 光柱はとてもシンプルな構造で、内部は光の伝わりが最も良い真空。てっぺんに光を集める集光器があり、光を筒の中に取り込んでいる。その光を天井に反射させるため筒内部には透過反射板というのが設置されているようだ。透過させるのか跳ね返すのかよくわからないが、どうやらその両方らしい。何%かの光を反射させ天井にあて、残りを下へ透過させる。当然それを介することで光量が減少するが、それは反射板の枚数とともに反射率を上げて行くことで対処しているらしい。この技術が開発されたおかげで、日中の電力使用量が大幅にへり、更に高層階のある建物が建築されるようになったという。

  随分と偏った資料館を見終わったので、渡り廊下を通って本館2階の食堂へと足を運んでみることにした。食堂の入口には行列が出来ている。丁度解放の時間になったらしく行列が動き出した。これは昼食にありつけるまで少々時間がかかりそうだ。行列はのんびりとだが前に進んでいた。


 あのあと食事が終わるまで約1時間少々掛かった。あり付けた昼食はAランチといういかにも食堂といった名前の定食で、なっているのかも背なた具合だった。特筆すべき程ではない。食事を終えて、私は1階の広報誌などが置かれているスペースへ向かった。置かれている広報誌を手に取る。ありがちだが首長の言葉などが書かれている中で、政策面を眺める。まぁここもありがちの書かれているのだが、その中で驚愕の言葉があった。

「・・・毎年のように悩まされる渡り鳥のシーズンがやってきた・・・(中略)・・・全ての駆除を今年も目指しており・・・」

 そう言えば・・・この島に来てからというものカラスの鳴き声や姿、平和の象徴ハトすらも見ていない・・・。だが鶏肉や卵を使ったのもは食べた・・・。飛ばない鳥以外はすべて害鳥なのだろうか?なぜ?どうやら渡り鳥ですらこの島は全て駆除するというのだ。それこそ生態系が崩れてしまうのではないのか?広報誌を読んでおいて良かった。とても重要な事を見逃すかも知れなかったからだ。


 市役所を出た時、夕暮れまで約3時間しかなかった。ホテルへ戻る時間を考えると2時間も動けない。とりあえず繁華な市街地を歩いてみることにした。商店街のようなアーケードがかけらた通りを歩く。この半透明の屋根も、おそらく太陽電池なのだろう。色が多少付いているから、透明よりも効率が良いものだろう。眺めていると、丁度その上に雲がかかった。あたりはすこし暗くなる。そしてその瞬間ほんのわずかに赤く発光したのだ。あ、そうか。太陽電池はLEDと殆ど同じ構造を持っている。陰ったことで発電が止まり、そこに他の電力が流れ込んだのだろう。安全装置が付けられているだろうから直ぐにその現象は止められるが、反応速度が間に合わずわずかな時間だけ発光してしまうのだ。博物館に行っておいてよかったと思う瞬間だ。面白くないと早々に切り上げていたら長い時間このことで悩む必要があっただろうから。

 気分を入れ替えて町を見渡す。人々はマスクをほとんどしていない。当然というか、ここは空気がとても綺麗なのでする必要もないのだろう。日傘をさしている人は何人かいた。ちょっと期待したのだが、流石に太陽電池ではないようだ。店先で実演販売している所も幾つかあった。良い香りがするのだが、その熱は全て電力だ。ガスを使っている所はどこにもない。クレープを打っている店も、IHホットプレートの上で焼いていた。電熱線を使っている所もそう言えば無いな。クレープを食べながらそう考えていた。 

 商店街を抜け、今度は大通りを歩く。そう言えば町をゆく人々は皆かなり動きやすい服装だ。堅苦しいスーツの人はあまり見かけないし、見かけてもどこか動きやすそうに見える。よく階段を使うから動きやすさ重視の作りになっているのかもしれない。

 のんびりと歩きながら気になる物を観察していると、いきなり背後から

「かわいそうだとは思わないの!!!!?」

 と言う金切り声が聞こえてきた。なんだ何だと振り返ると、この町中で物騒な猟銃をもったいかにもな”作業員”に食ってかかる女性がいた。その手にはプラカードがあり、彼女の背後には十数名の人々が同じようなプラカードを持っている。一目で、動物愛護団体だということが分かった。

「そう言われましてもね・・・」

 となだめようとする職員だが、相手はそんなことを言っても通じない相手だ。

「こんな野蛮なことをやっているのはこの島だけよ!」

 ん?この言葉に私はちょっと引っかかった。

「そう言われましても・・・生活掛かってますから・・・」

 確かにその通りだろう、ただ職員がそんなことを言うのは少々おかしい気がする。

「いくら太陽電池に影を落とすといってもね!やっていいことと悪いことがあるでしょう!」

 なるほど、太陽電池に影を落とす、鳥の糞が太陽電池を汚す。この島のエネルギー源を阻害する、彼らにとってテロ行為も同然なのかもしれない。

「ガミガミギャンギャン」

 良い具合に通りがかった警官に彼らはドナドナされて行った。その警官の肩にも、かなり物騒な猟銃らしきものが掛けられていた。見つけた瞬間射殺するのだろうか。この島は犯罪率が低いに違いない。

 そういえば、気になったのは鳥ですら嫌うこの島なのだから、最も日光を遮る雲の対策はしているのだろうか。本土では人工的に雨を降らせる技術があったが、この島には逆に雲を発生させないそう言う事を画策しないのだろうか?

 

 さて、町歩きを再開しよう。そう思っていると、雲が黒くなり始めていた。雨が来そうだな。トロリーにのってどこか行こうかと思っていたのだが、時刻表に変な表記がなされていた。

「16時20分発以降運休」

 只でさえ日が傾き、天候が悪いとなるとこの島は簡単に運休を決めてしまうそうだ。というか、この時刻表は電子ペーパーだったと言うことに驚きだ。普段同じ表示をし続けているからLEDでは消費量が多い。たまにしか表示を変えないというのならかなり正しい選択だろう。

「?あと1時間も無いじゃないか」

 腕時計が示す時刻をみて少々驚いた。これはまずい。帰らねば。丁度やってきたトロリーバスに迷わず乗り込むことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ