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セカンドカントリー  作者: 桜華咲良
光の島"ペリドット"編
10/16

光の島編:2日目

 朝の目覚めは悪くない。室内なのに、空気のよさを感じる。室温は心地よい適温。光が多聞にはいってくるからだろう、明るくてすがすがしい朝だ。


それにしても明るい。


 ふと時計を横目に見やると、驚くぐらい早朝だった。更に驚いたことに、窓の向こうには視界の邪魔になる物が何処にもなかった。目に入るのは3割ほどが空港の滑走路、7割が大海原で水平線まで続いている。ちらっと見える小さな影は帆船だろうか、3つほど見える。滑走路には昨日我々が乗っていた飛行船が留まっている。今日1日掛けて整備でもするのだろう。それにしても、このまるでリゾート地に来たようなそんな気分になる景色は素晴らしい。こんな早朝に起きるつもりは全くなかったのだが、そんなことはどうでもなる良い雰囲気だ。しばしこの風景を眺めるだけで、時間がつぶせそうだ。滑走路を眺めていて気付いた事がある。この空港は、空港という名の通り飛行船と飛行機が離発着する場所だ。滑走路と言うのはまさにそれが行われる場所であるのだが、たいていの空港の滑走路には舗装された路面以外には緑もしくは砂地がほぼ必ず存在している。通らない所を舗装する必要が全くないのだから、当然と言えば当然なのだが、この空港にはその場所が存在していなかった。そこには青黒い色をした板が1m程の高さに置かれている。ホテルの窓からだから、それなのに距離はあるが、私にはそれが何なのかあっさりと分かる。太陽電池。前々から知ってはいたが、やはり実際に目にすると実感が湧くというものだ。

 この島のエネルギーは太陽光だということを。


 ホテルのレストランで朝食を頂く。普通においしい。パンと目玉焼き、焼かれたソーセージの組み合わせは塩加減が絶妙で胡椒が良い具合に効いている。前の島とは恐ろしい違いだ。流石にここで涙を流すほどの感動では無かったが(旨い食事は既に飛行船内で頂いた)この先の生活がかなり素晴らしいものになることを暗示しているのだと食べながら感じていた。レストランは最上階にある。最上階と言っても6階。エレベータが動いていたのでそれにのって上がってきたのだが、このエレベータはとてものんびりと3階から6階まで上がって行った。今私がいる6階はレストランしかなくしかも円形になっていた。エレベータがその円の真ん中に止まりそのまままっすぐ歩くと円周側にある席が見えてくる。360度ガラス張りだ。丁度、その道の先が山側だったので特に気にせず近くの席を座ったのだがこれは正解だったようだ。食事を終え、追加で注文したコーヒーを飲みながら、山側を眺める。そこには町が見えた。建物は徐々に段々になっているのだろうか、重なっている建物であっても、必ず最上階らしき影が見える。山は建物群の向こうにあってその色彩は青と緑が5:5ぐらい。つまり樹木と太陽電池が半々存在しているようだ。そして山の頂上には鏡のような物がある。下の方を見ると、ちらほらと車、それよりも若干多いバイク、更に多い自転車、もっとも多い徒歩と言った具合で町が蠢いているようだ。

 コーヒーを飲み終えると、私はチェックアウトするべく、荷物を持ってフロントへ向かう。受付には只一人の落ち着いた職員が居て、既に何人かのチェックアウトの作業を行っているようだった。その作業は手際の良さ関係なく、鍵を返し、台帳らしきものにサインを入れて代金を支払うだけのようで直ぐに私の番に回ってきた。台帳は1ページを左右に2分してあり、どちらにも同じ名前が書かれていた。私が見た時、その行数は約半分10行ほど埋まっていた。

「鍵をお預かりします。」

受付の職員に従い鍵を渡す。

「お客様は、飛行船チケットご利用でしょうか?」

「ええ、そうですが。」

「では、チケットをお預かりします。」

 きっとこう言われるだろうとは思っていたので、直ぐに出せるようにしておいた。

「これですよね。」

「はい・・・間違いありませんね。このチケットが代金と引き換えになっておりますので、このままお預かりします。」

「あの、昨日の夜シャワーを浴びようとしたらぬるいお湯しか出てこなかったんだけど。」

 気軽に聞いているんだ、怒っていないんだ気になっただけなんだオーラを出来るだけ全開にして尋ねてみる。

「それは申し訳ございません。昨日は天候が悪くあまり日が出ておりませんでしたので。」


 初日から、正直驚きを隠せない。ガーネットは、まだ本土とかなり似た雰囲気があったのだが、ここでは全く違うものだと思った方が良いのかもしれない。何せ、昨日ぬるま湯しか出なかった理由が天候だというのだから驚きだ。この島のエネルギー事情は太陽と大気の機嫌がとんでもない影響を与えるらしい。本格的に、この島について調べる方が良いのかもしれない。

 今日は町を軽く散策するつもりだが、それに荷物を持っていくのは少々気が引けるのでさっさと次のホテルへ向かうことにした。私はホテルをでて、そのままペリドット空港の駅へと向かう。向かうと言える程の距離は無く、なんならほぼ目の前といっても差支えないだろう。ホテルの正面玄関を出ると、目の前に片側1車線の”広い”道がある。1車線で広い道と言う表現はおかしいだろうと思われるかもしれないが、実際の道幅は片側2車線半ぐらいはあるのかもしれない。なんてったって道のど真ん中に駅があるからだ。

 光の島ペリドットはかなり狭い島だ。ガーネットと比較すると、10分の1ほどの規模しかない。島にある公共交通はちょっと速い路面電車とトロリーバス。タクシーや地下鉄は存在しない。高速鉄道などあっても無用の長物となってしまう。私が今いる空港駅はペリドット路面電車(路電と略されているらしい)の終着駅、一応ホームは2面あるが駅員居ない。運賃箱が車両にあるのだろう。運賃表はホームにあったが、そこから得られたのは意外と運賃が高いことと駅数が少ないことだ。特に地方(だと思われる)に行けばいくほど駅間の料金が上がっている。もしかすると、専用軌道を通る所もあるのだろうか。それはこの後の旅で分かることだろう。時刻表を見ると、この駅には30分に1本電車が来るらしい。それも時期によって違い早朝と夕方の時刻は赤色で書かれていて、下に注意書きで、「運休の可能性あり」と書かれていた。徹底している。そう言えば、この駅には線路とホームを覆い隠すように屋根が掛けられているのだが、それは透明な素材が用いられていた。こういう所は太陽電池にはあえてせず、自然光を取り込もうとしているのだろうか?

 そんなことを考えていると、いかにも古めかしい電車がホームへ入線してきた。その音はいかにも近代的というか、電子的な音を奏でている。2両編成の列車には各両ドアが1つしかない。そして見事に私に近い方のドアは開かなかった。開いた方のドアへと向かい、列車に乗り込む。その際整理券を取ることを忘れなかった。車内は清潔感こそあるがやはり古めかしい。座席はロングシート、吊革は丸く、天井には4機の扇風機が袋に被されていた。温度は外気と変わらない様子だ。運転手と車掌が前後に居て、それぞれしっかりとした制服を着用。車内に客はいなかった。私だけのようだ。

 発車するまで約10分ほどかかった。その間にチラほらと客が乗り、最終的には席の半分が埋まるぐらいの人数が乗り込んだ。

「ペリドット役場前行き発車しまーす。」

 車内アナウンスがされると、ドアが閉まる。プッシュー。いつもの音がした。


ファ~ソラシドレミファ~~~~~~

 路面電車はこんな音階を奏でながら発車した。とても先進的な音だ。外観から勝手に判断していたのだが、本土の路面電車にまれにある「グワァァァァァァァ」というような低音が轟くものだと思っていたのでちょっと拍子抜けだ。見た目には、何十年も前の列車に見えるのだが。

 私が降りる駅は終点役場前のひとつ前、国際ホテル前という停留所だ。その名の通り、国際ホテルの目の前にある。私が泊るホテルなのでとても都合が良い。役場前まで行くと、この島の交通が集まるターミナルなので何処へでも行けるようだ。列車のアナウンスによると、役場前まで行ったのち種別変更して急行シルエット行きになるらしい。シルエットと言うとこの島の北側、今居る場所からすると真反対の位置にある路電の終着駅らしい。同じ電車で両端へいけるというのも、この島の狭さを表しているように感じる。

 空港の周りは背の低い建物ばかりだったが、中心地へ行くにつれ背が高くなってゆく。区画は整えられており、建物は皆輝いている。とても先進的な未来都市の様相だ。停留所に止まるたびに乗り込む人が増えてゆき、車内はそれなりの混雑具合となる。みなスーツで鞄を持っている。出社・・・には遅い時間なので営業だろうか?聞き耳を立てていると、そんな雰囲気の会話がなされている。

「次は~国際ホテル前~」

 降りなくては。ノートを仕舞ってコインの用意をする。


 国際ホテルはとても現代的、と言うより路電の通りに面した壁は全てガラス張りだった。同じガラス張りのガーネット本局駅を優雅な美しさとすると、こちらは洗礼された美しさと言うべきだろうか。無駄なものは全くなかった。中に入るととても明るい。玄関ホールは3階まで吹き抜けていてガラスからたくさんの光が差し込んでくる。照明は何処にも使われていないようだった。フロントに向かいチェックインをする。鍵を渡されるとその他もろもろの注意をされた。今日は何時に日没なのでそれまでに自室にお戻りください。とかそれ以降にルームサービスを頼むとホテルマンの到着が遅くなりますとか。普通じゃあり得ない話なのだが、そうしないとエレベーターが使えないという問題があるらしい。では、早くに日が沈む冬などはどうするのだろう?今のようなほんの少し肌寒いぐらいの時期は良いが、この先どんどんと日が短くなってゆくはずである。フロント嬢に訊いてみると、なんとこの島にはサマータイムならぬウィンタータイムというとんでもない制度があるという。早い話が企業その他の活動時間を大胆に削ってしまうというものだそうだ。ちなみに、サマータイム制度もあるらしいのだが、こちらは反対に活動時間を伸ばそうという物らしい。大企業になると冬場を完全休業にして社員全員に3か月のバカンスを与えるなんて事もあるそうだ。

 聞けば聞くほどとんでもない島だ。そう思いながらエレベータにのって6階に上がる。ガラス張りの通り側はエレベーターホールで、そこにも大量の光が差し込んでいた。私の部屋は606号室。鍵を開けて中に入ると、とても美しい物が部屋の真ん中に立っていた。

 

 なんと形容しようか、暫くそれに見惚れていたと言えば、その美しさの尺度になるだろうか?こういうものを文字だけで表すのは難しい。部屋の真ん中に光の柱が立っていた。ガラスで作られたその柱には光が宿っているかのようで、とても柔らかな光を発していて、特に強い発光をしているのは天井付近。その光は間接照明のように部屋に降り注いでいて、部屋全体を照らし出す。どうやらこの部屋の家具はすべてその光に合わせて配置をされているらしく、ほとんどが壁付け家具となっており、壁付けされていない椅子やテーブルは驚くほど細いフレームで作られている。徹底的に影を作らせない事を考えているのだろう。光を巧く使い部屋を彩っている。国際ホテルの名にふさわしい、素晴らしくよくできた部屋だ。

 部屋を一通り見回した。バスルームはやはりと言うかLEDの光で照らされていて、その色は若干黄色がかっている。白熱球のような色と言うべきだろうか。色は良いのだが、その光にはやはり温かみを感じない。この島には白熱球はないのだろうか。部屋の色も白を基調・・・というよりも殆ど一色、反射しやすい色を選んでいるのだろう。家具は流石に白一色ではないが、やはり白っぽい色の木材が使われている。部屋全体がこう白いと重厚感や高級感からはかけ離れた清潔感あふれる印象だ。


 部屋を長々と眺め、光の柱に感動している間に、時計は正午から2時ほど過ぎていた。いかんいかん。食事をせねば、大急ぎで国際ホテルのレストランへと向かう。ここのレストランも最上階にあり、やはりと言うか全方位ガラス張りで見晴らしが良かった。さっそく窓際の席に座り、お勧めのメニューを注文して、暫しレストラン内を見回していたのだが・・・。なぜかこのレストランは柱が多い。一定の間隔で並ぶ柱がとても不可解だ。この上には何も構造物は無いはずなのに。料理を持ってきたボーイに訊ねた。

「なぜこんなに柱が多いの?」

「ああ、あちらの柱ですか?あれは光柱こうちゅうです。お客様の部屋へ光を導くものです。」

 そう答えると、笑顔で引き上げて行った。なるほど、部屋の光の柱の事なのか。ここは最上階、それでいて光が差し込んでくる南側に遮る物がない(前の建物よりも1階高いからだ)のでここに光を供給する必要は無いので周りを囲って光が逃げないようにしているのだろう。

 食事については特に触れるつもりはない。何せこの島の食事は普通に旨い。普通すぎるのが少々残念なくらいだ。時間も遅いので、さっさと食事をして、私は町へと繰り出すことにした。


 もともと今日はホテルの周辺のみを散策するつもりだったのだが、予想外に時間を食ったせいでその範囲を縮小せねばならなそうだ。本当はトロリーバスに乗ってちょっと下町的な所に行きたかった。というのも国際ホテル周辺は高級ブティックが立ち並んでいて全く情勢と言うものが判らないだろうと踏んでいたからだ。これから日没まであまり長くは無い。仕方ないので兎に角よくかんさつすることにした。

 まず、乗るつもりだったトロリバスはタイヤがとても大きく幅が狭いという独特の形状をしていた。そして発進時には「キーーークォーンクァーンクォーンクァーン」のような音を発していた。車体の大きさもそれほど大きくなく、本土の路線バスよりも小さく流線形をしている。それなのにタイヤが大きいというとても不釣り合いな恰好。後ろのタイヤは横から見えないようにほとんどが隠されていて、前のタイヤのホイルは綺麗な1枚板になっていた。徹底的に抵抗を減らすためなのだろう、ミラーにしろドアにしろ、出来るだけ凹凸をなくすためだろう独特の機構を有しているようだ。屋根には青黒い物がびっしりと貼られている。トロリーバスのエネルギーの何割くらいを賄えるのだろうか。

 面白いことに、路面電車と架線を供用しているシーンも見られた。回送のバスが路面電車の車線を軽快なスピードで駆け抜けて行ったからだ。きっと電圧が同じなのだろう。

 その、路面電車だが、私が乗った古い列車以外にも銀色や白、赤などのカラフルで新しい列車も幾つかあるようだ。さっきのトロリーバスのような音を発しながら発進するものもあれば、まったく音の鳴らないものもあった。音が鳴らない列車はガチャガチャという音がせず、本当にスーっという感じで加速していった。客車かな?と思ったら、貨物車だったということもあった。貨物車のドアはホーム側(進行方向向かって右)が大きく開くようになっていて、列車が止まると運転手が手動で開けていた。国際ホテル前停留所でその光景を見たのだが、ホテルマンが台車に貨物車から降ろされた荷物を全てのせてホテルへと入っていく。そう言えば1階に宅配受付と言うのがあったが、それに何か関係するのだろうか?そう思い後で聞いてみると、どうやらこの周辺の宅配荷物は全てここに集約されており、宅配は取りに行かなくてはならないらしい。めんどくさいシステムだと本土なら感じてしまうが、エコロジーであることは事実であろう。

 ホテルの前にある大通りを挟んで向こうにある百貨店に入ってみる。外観から凄く興味をそそられる建物だ。その形は見事な円形をしている。中はどんなものなのだろう。と思い入ってみると、真ん中に大きな光柱がありそれを中心に放射状に店が展開されるという店内だった。私が入った時はすでに日が沈み始めようかという時間で光源からはほんの少しオレンジの夕暮れ色が発せられていた。店員に訊いてみると、時計がなくても光の色だけで大体の時間が判るらしい。家電売り場に行ってみると、そこのポップには「新基準対応!!」とか「従来比20%削減!」とか書かれていた。逆に「10%アップ」と言うポップが付けられたのは太陽電池のコーナー。店員に色々聞くとなかなか面白い話を聞くことが出来た。

 まず、この島の全ての太陽電池の変換効率は平均で25%。この数字だけでも本土からすれば十分に高いものだが、中には「透明太陽電池」と呼ばれる変換効率8%の太陽電池もあるらしい。窓ガラス等に採用されており、1つ1つの発電量は小さいが、設置個所が恐ろしく多いため総量は無視できないレベルだそうだ。山にある発電所は最高効率は60%にも達するという化合物系太陽電池が惜しげもなく投入されており、島のエネルギーの約4割を担っているそうだ。さらに島の北東と北西の海に海上発電ユニットもあるらしい。それら全て化合物系太陽電池。価格にして一体どのくらいになるのだろうか。全く想像がつかない。

 店内の光がさらに赤みがかってきた。もうちょっと見ていたかったが、タイムオーバー。ホテルへと戻ることにした。部屋に戻ると光柱は見事にオレンジに輝いておりそれはとてもとても美しいものだった。見とれる暇もなく急いでルームサービスを頼む。夕食は部屋で食べよう。昼が随分遅かったからその分遅く食べたい。レストランはもう間もなく閉まってしまうだろうから、時間がかかるであろうルームサービスが丁度良いという発想だ。

 頼んでしまえば後は待つだけ、徐々に光量を失う光柱に哀愁を感じていると、時間はあっという間に進んでいった。

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