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リバーサイドミステリー  作者: うなぎ先生
[第二話:自殺の為のプレゼンテーション]
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篠生

篠生



「それが俺たちが死んだ事故の全容ってわけさ」

 黒井がとうとうと自分たちが死んだ時の事を語っていた。大して興味のある話でもない。

 あの小山内とか言う子供の元を去ってから僕は何人か他のプレゼン参加者の様子を見て回った。だが、残念ながら話を聞こうにも軽々しく口を開くやつは一人もいなかった。当たり前と言えば当たり前の話である。その結果、プレゼン大会まで暇になってしまい、仕方なく黒井のお話に付き合っていたと言うわけだ。

「それにしても……」

 僕は腹が立っていた。もちろん結局何の役にも立たなかった黒井にもそうだし、秘密主義の他の参加者たちにもそうだが、何よりも腹が立つのがあの少女だ。

「ずるい人間が得をする社会が許せない?一体あいつは何様のつもりなんだ」

 そんなトラウマ、どんなやつだって一度は経験するものだ。その上でそれをどう折り合いをつけていくかが生きていくと言う事なのだ。それがあんなガキの分際で知った風な口を聞くのは我慢ならない。

「絶対、あいつだけは優勝させてやらん」

 八つ当たりにふわふわと宙に浮かぶ雲を片っ端から蹴飛ばして散らしていく。彼らは迷惑そうにしながら、僕に蹴飛ばされる前に自ら四散していく。

「荒れてるねえ。そろそろ本番だけどそんな調子で大丈夫なのか?」

 手持ち無沙汰なのだろう。にやにやとしながら散り散りになった雲を集めて団子を作り出す黒井。

「どうだろうな、サポーターが役立たずだからな」

「こりゃ失敬。お、ミニ雲だるまが完成したぞ」

 団子を二つ重ね合わせた黒井が「これ明戸さんにプレゼントしたら喜ぶかな?」などと意見を求めてきたので、踏み潰してやった。

「あんた、小山内さんと賭けをしてるんだって?」

「……なんでそんな事知ってるんだ」

 急にそんな質問をされて少し動揺する。

「さっき明戸さんからメールが来たんだよ。彼女、君の事は嫌いみたいだけど、賭けには勝ってくれってさ」

 こちらとしては嬉しい言葉だが、向こうのサポーターは向こうのサポーターで問題があるようである。

「でも俺もそう思うよ。別に誰が死のうが知ったこっちゃないが、自殺するには小山内さんはまだ幼過ぎる」

 彼は腕を組んで「きっとこれから素敵な恋だとかもするだろうしねえ」と首を何度か縦にふる。

「まあ俺からすればあんたももう少し生きてもいいんじゃないかって思ってるけどね」

「……余計なお世話だ」

「つれないねえ。っと、そろそろ始まるみたいだぞ」

 黒井は携帯電話のような端末を覗き込み、「わりとここから近いところでやるみたいだな」と言って俺を会場へと案内すべく歩き出す。

「お前は何で自殺者のサポーターだなんて事をやっているんだ?」

 道すがら僕は黒井にそんな事を尋ねた。気乗りをしていないと言っていたし、事実やる気も皆無であった彼が何故サポーターなどと言う役割を請け負っているのだろうか。そんな疑問が頭に浮かんだ。

「なんでって仕事だからだよ」

 何を当たり前の事を言うんだと、怪訝そうな顔で僕を見る。

「でも、お前全くやる気ないじゃないか」

「仕事にやる気なんて必要ないさ。別に歩合制の営業職ってわけでもないしね」

 その言葉には僕がひきこもりであった事を揶揄するような響きが感じられたが、これは被害妄想かもしれない。

「俺はただ与えられた事をこなすだけだ。そこにあんたを優勝させなければならないなんて辞令はなかったからな」

 あったら辞職届けを出してるよ、とでも言いたそうな雰囲気である。

 お互い無言のまま少し歩くと会場と思しきところへと到着した。会場と言っても適当な広さに柵がこさえてある広場に壇とマイクが設置されている程度のものである。既にそこには参加者たちが集まっていた。思ったよりも数が多く、ざっと見る限りでも数十人は参加しているようだ。

「おいおい、この中から自殺出来るのは一人だけだってのかよ?」

 競争率の高さに眩暈を覚える。

「それだけ自殺する人間が多いって事だろ?嫌な世の中になったもんだ」

 大げさに嘆く素振りを作る黒井。

「さて、文字通り逝って来いよ青年。悪いが検討は祈らないからな」

 僕は後ろ手で天使に手を振って壇上へと向かった。


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