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リバーサイドミステリー  作者: うなぎ先生
[第二話:自殺の為のプレゼンテーション]
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篠生

篠生



「俺はあんたのサポーターみたいなもんだと思ってくれればいい」

 突如として話に割り込んできた黒いジャケットを着た男は黒井と名乗った。ただ頼りがいのありそうな台詞とは裏腹にその男の顔からはやる気のなさがにじみ出ている様子が窺える。どのくらいかと言うと、元々頭の上に乗っかっていたはずのワッカを人差し指でぐるぐる回しているくらいにはやる気がないようだ。

「えっと、あんたは……篠生さんでよかったかな?」

 手元の資料か何かを読みながら僕にそう尋ねる黒井。風貌や貫禄からは窺えないが、頭にのせた、今は右手の人差し指に引っかかっている、ワッカから察するに彼は天使か何かなのだろうか。

「ああ、それよりサポーターってのは一体なんなんだ?」

 僕は率直に疑問を口にした。回り道をしているほど心に余裕はないし、そもそもとして回り道が出来る性格でもない。

「そのままの意味さ。あんたの自殺をサポートする役回り。まあ自殺なんて個人的にはオススメしたくないんだけどね。正直言うとこの仕事自体あまり気乗りがしてないんだ」

 黒井は身も蓋もない事を言った後に「俺なんて事故で死んじゃったわけだし」と付け加えた。その言葉から判断するに彼は天使なんかではなく、れっきとした人間なのだろうか。もしかしたら天使やら神様やらってのは死んだ人間がなったりするものなのかもしれない。いずれにせよ彼の死因なんて知ったこっちゃないし、僕の自殺を止めようとするその言い回しは気に入らなかった。

「お前がいれば僕はちゃんと自殺出来るのか?」

「いやあ、俺はあくまでフォローだよ?そんなに過大評価をされても困る。自殺するには自分でプレゼン大会を勝ち抜かなくちゃ」

 いけしゃあしゃあとそう嘯く黒井。「じゃあお前は一体何の為にいるんだよ」と問い詰めてやりたい衝動に駆られる。

「もし自殺が履行されずに病院のベッドの前で僕の回復を待っていた両親なんかからとてもいい笑顔で、おかえりなさい、なんて言われた日には僕はどんな手を使ってでもお前を殺しに戻ってくるからな」

「だから俺はもう死んでるんだって」

 黒井は「他人の話はちゃんと聞こうな」とかほざきながら僕の肩をぽんぽんと叩く。やはり今この場でこいつの首をもいでやろうかと僕はいきり立つ。

「……あのう」

 僕が黒井と言い合いをしていると、例の少女がか細い声で口を挟んできた。そう言えば結局彼女は何者なのだろうか。まさかこの歳で僕と同じ自殺志願者と言う事もないだろう。

「わたしも自殺したいのですが……わたしにはサポーターさんはいないんでしょうか?」

「……志願者なのかよ」

 こんな幼い子供までが自殺を図ろうとするなんて世も末だなと思った。思ったが、同じ穴のムジナである僕にそれを口にする資格はない。

「んと、君は……小山内さんかな?」

 黒井は再び手元の資料に目を落とし、少女に話しかける。

「……はい」

 やはり小声で応答する少女。言いたくはないが、見ていてイライラとした。僕のように思いついた端から何でも言うのも問題があるのだろうが、彼女のように一言一言周囲の顔色を伺ってから話すようなやつはきっといい死に方をしないと思う。というか事実していない。

「君の担当もそろそろくると思うよ。不安なら担当がくるまで一緒にいようか?」

「……いえ、大丈夫です」

 少しの逡巡の後、少女はそう答えた。そうでなくては困る。僕はこれからこのサポーターとやらとプレゼン大会の攻略法について話し合わねばならないのだ。言ってしまえばライバルとも言える彼女の前からはさっさと消えてしまいたかった。

「でも、やっぱり君みたいな小さい子を一人置いていくってのも気がひけるしねえ」

「本人がいいって言ってるんだからいいじゃないか。それより僕がプレゼンで勝つ為の方法を教えてくれ」

 僕はなおもここに残ろうとする黒井に対してそう不満をぶつける。余計なお節介ほど阿呆らしいものはない。もし本当に一人が不安ならばきちんとそう言えばいいのだ。それをしないでこっちから気を使うのは間違っている。

「お前も別にいいんだろ?こっちは生きるかの死ぬかの瀬戸際なんだ」

 黒井が「彼女もそうなんだけどね」とぼそりと呟く。僕のサポートをするのが仕事なんだったら余計な事は言わないでくれ。

「とにかく子供に構っている暇はないんだ。悪いが一人でがんばってくれ」

 僕はそう言って黒井に場所を移すように顎で示唆する。こんな事を言うとまたどこぞから「あいつ子供に何て事言っているんだ」なんて言われかねないな、と思った。

「君……女の子になんて事言うのよ」

 ほらまた言われた。


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