卒業式
パフォーマンス試験から時間が流れ、卒業式の日が訪れた。多くの卒業生が石造りの講堂に整列し、静かに始まるのを待っていた。その中にカチュアの姿がある。
「これより卒業式を開始する」
魔法によってステージに火が灯り、その中から現れた長い顎鬚を生やした老人、学園長のアドルフ・シルバ・ミルフェーリが卒業式の開会を宣言する。
アドルフは、カチュアのお爺様と同じく大魔法使いと呼ばれる男であり、御年三百歳を超えていると噂されている。派手好きで悪戯好きなことで有名で、入学式の時は突然の爆発の中から現れたことをカチュアは今も覚えている。毎年の卒業式でも何らかのサプライズを行うと、去年卒業した先輩から聞いている。そんなアドルフの開幕の挨拶から卒業式が始まる。ただ見ているだけならカチュアもアドルフが卒業式に何をするのか楽しめたが、この卒業式では警戒が必要である。
「次に、卒業生代表の挨拶。卒業生代表、カチュア・メイザース」
「はい」
カチュアは卒業生代表に選ばれていたからだ。カチュアは最終試験とパフォーマンス試験の結果、学年主席として卒業することができた。そのため、卒業生代表に選ばれることになってしまった。ただの一卒業生として参加するならまだしも、卒業生代表として挨拶するのはアドルフの悪戯の標的にされるかもしれない。今までの卒業式でも何度か卒業生代表が標的にされてきた。
しかし、警戒していても卒業生代表になった責任を果たさなくてはならないと、カチュアは前に出て一礼した。
「春うららかなこの日…」
挨拶の言葉を話しながら、この六年間のことを振り返る。新しい人形の魔法を覚えるには向かない学校だったが、基礎の魔法はばっちり学べたし、何より友達も何人もできた。
魔法使いは己の魔法の研究に夢中になる人種が多いため、半ば引きこもりのようになることが多いため、他家との交流を持てる魔法学校はありがたかった。
無論、生活のために就職する者も多いが、カチュアのように才能のある魔法使いには国から援助金が出され、それだけで食べていけるうえ、カチュア自身の実家も大きいため、カチュアは卒業すれば就職せず実家で生活するだろうと考えている。
だからこそ、魔法学校でできた交友関係を魔法使いたちは大切にする。引きこもりがちな魔法使いでも他者と話すだけで新しいアイデアも考えられるし、何より研究だけでない娯楽も必要だからだ。友人と気楽に話すことが魔法使いにとっては一番の娯楽である。
カチュアは友人との思いで、これからの人生で友人とどう関わっていくか夢をはせる。卒業してしまってリカードを初めとする先生たちと気軽に会うことができなくなることや蔵書の多い図書館に通えなくなってしまうのは淋しいが、これからの人生、何より現実世界に思いをはせる。




