待合室
そして時間は流れ、パフォーマンス試験の時間が訪れた。会場は現実世界の資料にあったコロッセオに似ている。事実、コロッセオとして使用された歴史のある舞台である。現在でこそパフォーマンス試験や魔法の演習などに利用されているが、先人の戦いの爪痕の残る場所である。
大勢の観客の前で闘技台に一人で立ち、パフォーマンスをする。それだけであるが、多くの観客の前にて一人でパフォーマンスを行うのは大勢に見られるということに慣れていない生徒にはプレッシャーである。
不思議と緊張はしていなかった。ガチガチに緊張している相手を見ると逆に緊張しなくなる。そんな感覚だろう。事実、カチュアの周りには緊張で体を強張らせている生徒が何人もいる。それでも人形を持つ手に力がこもるのは仕方のないことだろう。
もう数人でカチュアの出番となる。そんなとき、待機室に緑色の短髪の少年が入ってきた。カチュアの友人であるリック・ダイソンだ。向こうもカチュアに気が付いたのか、片腕を上げて笑顔で近づいてきた。
「よぉ、調子はどうだ?」
「う~ん、まぁそこそこかな」
そんな挨拶を交わし、力が入っていた体を緩める。こういった会話をするだけで気が楽になる。それは向こうも同じだったようで、カチュアを最初に見つけた時、明らかにホッとしているように見えた。
初めておこなうパフォーマンス試験のプレッシャーや人前に立って魔法を披露する気恥ずかしさが殆どの生徒の実力を殺してきたのだ。しかしプレッシャーを和らげることができれば、逆に自分の力になる。ほどよいプレッシャーが緊迫感を生み、集中力を上げる。羞恥心は自制心となり、過度なアピールを減らすきっかけとなるからだ。
パフォーマンス試験ではアピールを繰り返せばいいだけでなく、全体のバランスが良いかも審査基準となる。無論、失敗などすれば大減点だ。
過去に炎の魔法の使い手が最後のしめに巨大な火柱を出そうとしたことがある。彼のパフォーマンスの内容は炎で花園を再現するというものだった。それなのに火柱をだすことは花園と無関係のため、減点され。そもそも火柱を出すときに魔力を込めすぎて自分まで黒こげになるという失敗を犯したため、実力はあっても落第点にされた生徒が居た。当初、彼の計画には火柱を出す予定は無かったが、自分の前の生徒のパフォーマンスを見て焦りを覚え、自分の実力を最後に大々的にアピールしようと考えて最後に付け加えたそうだ。彼の失敗談は反面教師となると考えられ、失敗例の一つとして教えられた。
事実、彼のように焦って過度なアピールや方向違いのアピールをする生徒は毎年大勢居る。今年も何人かそういう生徒が居るようだ。大勢に見られる中、一人でアピールするというプレッシャーが焦りを加速させ、行動に移してしまうのだろう。
だからこそ、カチュアはプレッシャーに押しつぶされるのではなく、逆に緊張感を保つための感覚にしてしまおうと考えており、リックが話しかけてくれたことがありがたかった。




