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夢幻と現実の狭間で…  作者: 魔死吐?
夜の学園編
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「それにだ、外付けの魔道具、いや、知っている君にわざわざ遠回りに言う必要はないですね。そう、魔力炉さえ完成すれば寿命を気にせずに魔法が使えるようになります。わかるでしょう、ミス・メイザース。ここが魔法使いの命運を分ける分かれ道であるのだと」

リカードの言葉にカチュアは黙り込むしかない。もともと、カチュアは嫉妬の視線が嫌で現実世界を逃げ道にしていたのだ。そんなカチュアだからこそ、負い目を感じていたのだ。カチュアの様子を見てリカードが手を差し出す。

「だからミス・メイザース。私に協力してくれませんか? 君も知っての通り、君の生血をささげることで魔力炉は完成する。君には新しい夢幻世界を作る礎になってもらいたいのです」

リカードは本当に優しい笑みを浮かべながらカチュアに歩み寄る。本気でカチュアが協力してくれると信じているのだ。だが、それにカチュアが反応するより先に、我慢できなくなったリックが飛び出し、リカードの襟首を掴んだ。

「てめぇ、カチュアを生贄にしようってだけのくせに、何が協力だ、礎だ。生血が必要なら自分の血を使えばいいだろ」

そんなリックに一瞬、驚きの表情を浮かべるも、リカードは悲しそうな顔で首を振る。

「ふぅ、わかってないですね。それじゃぁダメなんですよ。私の生血で補えたらどれだけ良かったか。しかし、それでは魔力不足なんですよ。ミス・メイザースの生血を必要としているのは魔力炉に火を灯すのには膨大な魔力が必要だからです。魔力炉は永久機関です。一度動き始めれば半永久的に魔力を生み出し続け、魔道具を介して魔道具の持ち主に魔力を注ぎ続けます。しかし、魔力炉を動かすためには最初に膨大な魔力を一気に注ぐ必要があるのです。狂気の研究と古い時代に言われた理由がよくわかります。本来なら人ひとりを犠牲にしてもとても賄える量ではない。何故なら純潔の魔女を十人以上犠牲にする儀式ですから。ですが、ミス・メイザース。君の生血なら一人の犠牲で条件を満たすことができる。だから招き入れようとしたんです」

リカードはいかにも悲しそうにそう演説する。事実、彼は悲しかった。いかに自身の崇高な目的のためとはいえ、生徒を犠牲にするのだ。悲しくないわけがない。それはこの場に居るリカードの生徒だった全員が本心であると察することができた。リカードの人となりは卒業前と何も変わっていない。しかし、行き過ぎた生徒への愛情が彼を暴走させているのだ。

「リカード先生、私は自分の命が惜しい。だから協力できません」

そんなリカードを見据えながらカチュアははっきりと断言する。一種とはいえ、後ろめたさもあって自分一人が犠牲になるだけで多くの魔法使いが救われるのなら良いと考えてしまった。しかし、自分の為に怒ってくれるリックを見て、その考えを振り払った。たしかに自分は嫉妬されるような存在かもしれない。それでも自分のことを想ってくれる人間が居るのだ。そんな彼らを悲しませたくないと思ったのだ。

「そうですか、ならば仕方ありませんね」

納得したようにリカードは言った。何故なら自分の命が惜しいなど当たり前のことなのだ。自分のためか、それとも他者のためかはわからない。それでも一度限りの人生を惜しむのは当然だろう。

カチュアはまだ若い。幼いともいえる。これまでの人生より長い時間生きて様々なことを経験する。その可能性を摘みとり、犠牲になれと言われて、はい。そうですか。と言えるのは人生に絶望しているか聖人だけだろう。良くも悪くも普通の考え方のカチュアは受け入れられないだろう。

だが、自分の目的のためにも、止まるわけにはいかない。多勢に無勢だが、この場所なら勝機はあるとリカードは考えている。もしものために入念に準備したトラップがいくつも存在するからだ。だが、今はお互いに警戒しており使用できない。リックのように何人か潜んでいるかもしれない。そんな考えからリカードは動けなかった。

それはカチュアも同じだった。実力的にもリカードの方がカチュアとリックが協力しても上である。隠れている全員で飛び掛かれば取り押さえることはできる。しかし、リカードを確保してもあまり意味はない。カチュアたちの実力では長い間捕まえておくことはできないし、そもそも、目的は魔道具を無くすことだ。そのためには手ではなく口でリカードに勝つしかないのだ。それに勝利のための鍵は用意している。



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