邂逅
「やぁ、ミス・メイザース。私に用事とはなんですか?」
カチュアは魔法学校の講堂にてリカードと対面していた。相談に乗ってほしいことがあるという名目で彼を呼び出したのだ。無論、カチュア一人ではない。グレンやリック、その仲間たちが隠れて待機している。リカードもグレンが帰ってきていないことからカチュアが相談に来たのではないことくらいは御見通しであろう、それでもリカードは余裕の表情を浮かべている。
「こんにちは、リカード先生。さっそくなんですけど、新型魔法具に欠陥があったと言って、全部回収してもらえませんか? 制作に関わっている貴方ならできますよね」
カチュアは満面の笑みを浮かべながら聞いた。傍で聞いていたケリィたちも、あまりのストレートな物言いに絶句してしまう。しかしリカードは眉ひとつ動かさず笑っている。
「どこで調べたのかは、まぁ、おいて置きますが、たしかに制作に携わっている私が公開すれば残らず回収されるでしょうね。ですが、その予定は今の所ありませんよ、ミス・メイザース。なぜならアレに欠陥などないのですからな」
「欠陥がない? でも、未完成なんですよね」
魔道具の機能に欠陥は確かに存在しない。しかし、未完成だ。これはどれだけ言い訳しようと覆すことのできない事実だ。しかもそのことを公開していないのに市場に出回っている。それが回収の理由になるかと聞かれれば、少し理由として弱いことくらいは理解している。しかし、そこから隙を見つけていかなければならないのだ。
「よくご存知ですね。えぇ、確かに未完成です。といっても、外付けの魔道具が未完成であってブレスレットの方は問題なく使用できますよ。外付けの魔道具も近いうちに、いえ、もしかしたら今日にでも完成するかもしれません」
リカードの言葉に思わず左足が下がる。言外にお前を今日生贄にすると言われているのだ。いくら自分から乗り込んできたと言っても恐怖はある。しかし、カチュアは拳を握り、自分を奮い立たせる。
「こういった騙しあいのような会話は好きではないので、単刀直入に聞きます。あの魔道具は現時点では寿命を削るもの。それなのにばら撒いたことに何も感じないんですか?」
カチュアはどうしても聞きたかった。自分を殺す。恩師がそう考えていることも怖かったが、それ以上に恩師が何を考えているのか理解できなかったからだ。寿命を削ってまで魔法を使いたい。カチュアはそう考えたことはない。何故ならカチュア自身の資質が大きいからだ。苦労しなくても知識さえあれば大魔法が使えるカチュアには一般の魔法使いの苦悩や葛藤が理解できないのだ。だからリカードが何故寿命を削る魔道具をばら撒いて平気でいるのか理解できない。魔力炉が完成してからでも良いのではないか。
「えぇ、魔法使いなら寿命を削ってでも強い魔法が使いたいものです。その手伝いができて嬉しいと思えても、後悔なんてありませんよ」
涼しい顔で肯定するリカードにリックとその仲間たちが憤る。しかし、カチュアに手どころか口も出すなと言われているので自制して抑える。
「ミス・メイザース。君は無知で傲慢だ。君は魔法使いが行き詰る壁を知らない。だから寿命などというものにこだわるのですよ。魔法使いの苦悩。そう、資質だ。生まれ持った資質に誰も抗えない。私も、君の友人も、君のお爺さんでさえもです。限られた資質の中で自分にできる魔法を極める。それが魔法使いの人生。それがどれだけ悔しく、みじめなことか、恵まれすぎた君には理解できない」
まるでできの悪い生徒を叱責するかのようにリカードは言い放つ。カチュアには想像もできないほど、資質による差は一般の魔法使いにとって大きな問題だった。アイツにできるのに自分にはできない。自分にもっと魔力があれば、魔力さえあれば更なる研究ができるのに、そういった魔法使いたちの苦悩。
そういった苦悩があることを知ることはできても経験することができないのだ。どれだけ苦しいのかわからない。どれだけ嫉妬の視線を浴び続けても、嫉妬する側の心を知らないのだ。




