グレンの思い
「な、んで。催眠術は確かにきいていたはず」
「う、ん。けっこう、今でも、眠いよ。でも、きかなくちゃ、いけない、から」
カチュアは必死に睡魔に抗い、たどたどしく話しかける。少しでも気を抜けば眠ってしまう。グレンに抱きついたのも、体を動かせる範囲でとれるぎりぎりの行動だった。何としてもグレンをこの場に引き留めなくてはならない。そんな思いからの行動だった。
「何をかな?」
「ハート、フィリア、君は、私を、リカー、ド、先生の、所に、つれて、いかない、つもり、だよ、ね?」
質問の形式だが、確信していた。あの宙に浮かんだボールを見た瞬間、グレンが何を考えているのか、理解したのだ。
「はは、何をいっているのかな? 僕はリカード先生の仲間だよ。折角君を捕まえたのに先生の所にいかないのさ」
グレンは笑いながら話ているのだが、その表情は引きつっていた。まるで嘘が見つかった子どもが誤魔化すように話す姿だと、ケリィは思った。
「だっ、て、私、を、リックの、所、まで、連れて、行ったのは、君、でしょ?」
そう、宙に浮かんでいたボールと地下室で見たボールはまったく同じモノだった。だから確信したのだ。グレンの目的は先生の計画を阻止することだと。思えば廊下で会った時からおかしかったのだ。明らかに誰が見ても挙動不審で何かにおびえるような姿。それだけではわからなかった。でもボールを使った行動や、カチュアを抱きかかえたときに見せた複雑な表情など、様々なヒントを組み合わせれば答えは出てくるものだ。
「くっ」
グレンはイライラしていた。まさか自分のそんな些細なミスでバレてしまうだなんて。しかし、それならもう、演技は必要ない。そう考え、カチュアにかけた催眠術を解除して床に卸す。
「ありがとう、解いてくれたんだ、催眠術」
カチュアは背伸びをしながらお礼を言う。そんなカチュアを半眼で見ながらグレンはため息をついて口を開く。
「あのまま聞いていたら、君が話しきる前に寝ちゃいそうだからね。もう演技しても無意味みたいだし。それで、僕が先生の計画を阻止しようとしていると気が付いたみたいだけど、どうするんだい」
もうウソを言っても信じてもらえないだろうから開き直ってそう聞く。元々ウソは苦手なのだ。バレないように気をつけていたのにあまり接点のないカチュアに見抜かれるなんて本気で落ち込みそうだった。
そもそも、グレンは巻き込まれる形でリカードの仲間になっていた。魔道具の性能が寿命を削るものであること、魔力炉を作るのに人ひとり犠牲にすること。あまりにもグレンには賛同できないことばかりだった。卒業式の日の行動は藁にもすがる思いだった。先生でも生徒でも誰でもいい誰かが気が付いてリカードを止めてくれることを願った。しかしそれは叶わず、魔道具はばら撒かれてしまった。ならばせめて人命を守るために、今回、カチュアの誘拐を自ら志願し、彼らから見つからない場所にカチュアを隠そうと考えてここまで来たのだ。しかし、それをターゲット本人に見抜かれてしまった。もうどうにでもなれだ。
「ハートフィリア君、この魔道具の作成に関わっているよね?」
そう言いながら、カチュアはブレスレットを見せる。それに対してグレンは肯定する。
「だったら、何か資料を持っているよね」
良い笑顔だとから笑をしながらグレンは思う。何をたくらんでいるのかわからないけどろくでもないことだと、確信した。




