テレター
自室に戻ったカチュアは椅子に勢いよくもたれ掛る。一見一つの木からくり抜かれたような見た目の椅子だが、見かけよりもかなり軽く、柔らかい。森にあるもの全てが柔らかく軽いモノでできているという、フカフカ森の木から作られたお気に入りの椅子である。
しばらくその柔らかさに癒されていると、机の上に手紙が置いてあることに気が付いた。
「お爺様からのテレター? 珍しい、何の用だろう」
テレター、正式名称テレポーテーション・レター。そのままの意味で瞬間移動する手紙だ。書き終えた手紙に魔法陣の書かれた切符を貼って机に置くだけで、次の瞬間には宛先に届いているという、この世界での連絡手段の一つだ。
カチュアも両親宛に利用している。しかしお爺様から送られてくることは魔法学校に入学してから片手で数えられる程しかない。そのため、不思議に思いながら封筒を開いた。
―― 不穏な風に気を付けよ ――
手紙にはその一文しか書かれていなかった。
どういう意味なのか皆目見当もつかない。これまで祖父はカチュアに意味のないことを言ったことがあっただろうか。いや、ない。つまり、不穏な風というモノが何らかの悪さをするということで、それに対して気をつけろと言いたいのだろう。
「いくらなんでもわけがわからないよ」
そうこぼしながら机の中に手紙をしまう。こんな一文で何に対して気をつけろというのだろう。重要なことならもう少し詳しく書いてあるだろう。そう思っての行動だった。後から考えればもう少し危機感を持っていればと思う行為だったが、今のカチュアには何でもないことだった。




