対峙
気を失ったカチュアをグレンは横抱きにして見つめる。
「軽い、同い年のはずなのに」
思わず、声がこぼれる。それほど、カチュアは軽かった。そんな彼女に思うところがあったのか、グレンは暫く佇んでいたが、ゆっくりとカチュアを連れて窓へと向かう。
「そこまでにしてもらおうか?」
その瞬間、上空から無数の巨大な剣が降り注ぎ、まるで檻のようにグレンを包囲する。その間に、人形の中からケリィが姿を現し、カチュアを抱えるグレンを睨みつけた。
「これは」
見たことのない魔法とケリィの登場の仕方に驚きの声を零すグレンだったが、新たに現れた人物であるケリィを見据えて、目を細める。周囲は剣の檻、通り抜けられる隙間はない。どう脱出しようか冷静に考えるが思いうがばない。
「メイザースさんのボディーガードかな? 聞いてますよ。昼間はあなたが目を光らせていて近づけなかったとね」
グレンは余裕の表情でケリィに笑いかける。まるで、こんな拘束は余裕で突破できると言いたげに。ケリィはそんなグレンに警戒心を強める。
ケリィが現れたのは事前にカチュアと打ち合わせていたからだ。リカードたちがカチュアを狙っているのなら、一番狙われやすいのは睡眠時と入浴時である。特に睡眠時は困難だ。なんせ意識が無い状態で襲われるのだ。
だから、カチュアは一つの魔法を自分にかけることにした。その魔法は狸寝入りの呪法と呼ばれるものだ。一見普通に眠っているようだが、完全に眠りに落ちず、周囲の気配などが感じとれるようになる魔法である。眠っている間に魔力を消費するなどのデメリットはあるが、普通に眠っているときと同じように脳を休めることができる便利な魔法だ。その魔法を使い、侵入者に警戒しつつ、もし現れたときの為に、カチュアが熊之介を強大化させたらケリィに知らせが届くようにしていたのだ。
そしてもしカチュアの意識が無くなるか、危機に陥った時には熊之介からケリィが召喚できるようにと魔法を組み込んでいたのだ。それがケリィがこのタイミングで現れることができた理由である。
因みに熊之介を巨大化させた場合だけの時もすぐに駆けつけることができるようにとケリィは現在メイザース邸に泊まっている。
「君はカチュアの同級生なのだろう? 何故教師の味方をしてまでカチュアをさらいに来た。そんなにも資質に関係なく魔法を使えることが魅力的か?」
ケリィは警戒しながらもグレンの真意を訊ねるために口を開く。正直な所、まだ魔道具に対して資料が作成できていない。そんな状態でカチュアをさらわれてしまえば、取り返すことができ、罪に問えたとしても誘拐でしか扱われず、魔道具はそのままになってしまう。だからこのタイミングでの襲撃はいささか不利である。
「そうですね。確かに魅力的だ」
そんなケリィの問いを聞いたとき、グレンは下を向きながら答える。
「資質に関係なく魔法が使える? 大いに結構じゃないですか。革新ですよ。でもね、僕の望みはそれじゃ無いんですよ」
グレンがそう言った瞬間、グレンを囲んでいた剣は氷が溶けるかの様に霧散してしまう。
「なにっ」
思わずケリィは驚いてしまい隙ができる。しかし、グレンはその場を動かなかった。否、動けなかった。何故ならカチュアがグレンの首に抱きついていたからだ。




