夜襲
深夜、自室で寝ていると、窓が開いて誰かが入ってくる感覚に気が付き目を開く。泥棒かと考えたが、今一番可能性のある相手はリカードたちだ。とうとう自分を誘拐しにきたのかと身構え、自分の愛用している魔道具であり、いつも抱いて寝ている人形を抱きしめる。まだ、相手はカチュアが起きたことに気が付いていない筈だ。奇襲すれば相手がリカードでも取り押さえられる。そう思い、相手がカチュアの寝ているベッドに近づいてくるのを待つ。侵入者は一歩一歩音を立てないようにカチュアに歩みより、ベッドまで到着すると、ゆっくりとカチュアのシーツに手を伸ばしてきた瞬間、カチュアは飛び起きて人形を侵入者めがけて放り投げる。
「いけっ」
カチュアの手から離れた人形、手縫いのクマのぬいぐるみは瞬く間に巨大化し、侵入者に飛び乗り、間接技をきめて取り押さえる。カチュアは相手が何をしてくるのかを警戒しながらベッドから降りて部屋の明かりをつける。
「は、ハートフィリア君?」
「や、やぁ」
そこに居たのはカチュアの同級生だったグレン・ハートフィリアだった。グレンは取り押さえられながら苦笑いでカチュアに挨拶をする。
「何で、ハートフィリア君が……そうだったね。ハートフィリア君もリカード先生の仲間だったね」
寝起きであることと、リカードの印象が強かった為、しばらく思い出せなかったが、グレンもリカードの仲間だったことを思い出し、警戒を強める。
「あはは、やっぱり知られていたんだね。じゃあやっぱりあの人形は君のだったんだ」
一瞬、何のことを言っているのかわからなかったが、そういえばリックを反省室から脱出させるのに使用した身代わり人形を回収できなかったことを今さらながら思い出す。やっぱり人形遣いである自分が犯人だと疑われてしまっていたようだ。
「何しに来たのか、って聞くのは無粋だよね。私をさらいにきたの?」
カチュアはグレンを見下ろしながらそう聞く。質問の形式をとってはいるが、断定している。こんな夜中に女の子の寝室に侵入してくるのだ、普通の用事なわけがない。
「まぁ、そんな所だよ。君を捕まえに来た」
カチュアの問いに戸惑いを見せることなくグレンは頷く。今もなお取り押さえられているというのに涼しい顔で答えたのだ。そんなグレンの態度にカチュアは戸惑う。現状身動きがとれない状態でさらいに来たと本人に言うのは自殺行為だ。もしかしたら何かあるのかもしれない。そう判断し、カチュアは熊之介に拘束を強めるように指示を出そうとした。
「ざんねん、それは囮だよ」
その瞬間、背後からグレンの声が聞こえる。慌ててカチュアは人形にグレンを放すように指示し、カチュアが振り返ると同時にパンチを繰り出させる。
しかし、そこには誰も居なかった。あるのは丸いボールが一つ、宙に浮かんでいるだけである。カチュアはそのボールに見覚えがあった。そうそれは、地下室で見た…
「ごめん、そっちが囮さ」
カチュアが覚えているのはそこまでだった。




