玩具箱
「ふふ、その通りさ。世界はボクの玩具箱だよ。長く生きているとね。常人の考え方ができなくなってくるんだ。狂ってきてしまうと言っても良い。アドルフだって昔は真面目な男だった。それが今では全校生徒に知られるほど悪戯好きになっているだろ? ボクもそうさ。アイツより長く生きている分その傾向がある。時間が常人に比べて多い分、退屈な時間が存在する。ボクのような存在にとって退屈は死に至る病だ。だからボクは楽しいことを求めるよ。それが世界の崩壊に繋がろうと、自分自身の死に繋がろうとね」
そんなメビウスの言葉にケリィは何も言えなかった。確かにメビウスの考え方は愉快犯や悪と呼ぶにふさわしい所業だ。しかし長く生きている者はそういった考えに至ってしまうのかと思うと虚しく思えた。自分はメビウスや学園長のように長い時を生きることはないだろう。そんな自分では彼らの苦悩は理解できない。かつての自分と異なる自分になってしまう。それがどれだけの苦痛なのだろうか? それも予想ができない。長く生きた末に己が愉悦の為に世界や自身を犠牲にしても厭わない。それはどれだけのことなのだろう。
「おっと、話すぎてしまったね。さて、じゃぁ、ボクはそろそろ行くよ。君たちが何をするのか楽しみにしているよ」
カチュアもケリィも何も言えなくなっていると、メビウスは初めて表情を崩して苦笑すると、再び元の笑みを浮かべて消えてしまった。恐らく、彼にもう会うことはないだろう。基本的に彼は傍観者なのだ。ちょっかいはかけてきても舞台には上がらない。自分たちがどう行動するのかを見て楽しみ、話が進まないようなら手を加える。だからここまで来た段階で彼の仕事は終わったのだろう。後は敵対も味方もせずにただ眺めるのだろう。
「今日はもう遅い。送っていこう」
暫く沈黙していると、ケリィが唐突に口を開く。よく考えるともう夕食時をとっくに過ぎている。マリアはともかく事情を知らないケイネスは心配しているだろう。そう考え、カチュアはケリィに送ってもらい、家に帰ることにした。




