リック
突然のリックの登場に驚きながらもカチュアが歩み寄る。リックは自身の後頭部をガシガシと掻き毟りながら、振り返った。
「よぉ、カチュア。奇遇だな。って、冗談が言えたら良かったのだがな。悪い、巻き込んじまったようだ」
巻き込んだ。その言葉を聞いて、カチュアはミキヨミで見た光景を思い出す。しかし、それが何の映像かまでは理解していない。それに、先ほどの少年を攻撃した意図も知りたかった。だから、思いきって聞くことにした。
「巻き込んだってどういうことなの? それにさっきの子にいきなり攻撃して」
そこまで言いかけたが、リックに手で制止され、口をつむる。そこでカチュアは初めてリックの恰好に気が付く。腕や頭には包帯が巻かれており、魔法に対する抵抗力を上げる力をもった魔道具が服の彼方此方に縫い付けられている。頬には切り傷があり、見るからにボロボロだった。そのことも問い詰めようかと再び口を開こうとする。
「ちゃんと話す。だから待ってほしい」
しかし、リックの少し悲しそうな顔から放たれた声で、再び口をつぐんだ。しかし、リックはなかなか話し始めようとしなかった。何故だろうかと首を傾げるが、リックの視線はケリィに向いており、その眼はあきらかに警戒の色が浮かんでいた。
「カチュア、どうやら彼は私のことが邪魔のようだ。君の知り合いのようだ、危害を加えてくる様子もなさそうだ。少し席を外させてもらおう」
ケリィはそう言って二人から離れていこうとする。正直ありがたいと思う気持ちと申し訳ない気持ちの半々だった。ケリィが居の間はリックが口を開きそうになかっただから誰から言い出すでもなく、自分から離れて行ってくれたのはありがたいと思う。しかし、せっかく協力してくれているのに部外者のように追い出してしまうのは申し訳なかった。カチュアがそう考えていると、ふと、ケリィの足が止まる。
「あぁ、言い忘れていた」
言いながら振り返ったケリィの視線はまっすぐリックを射抜く。
「万が一もないだろうが、もし彼女に手を出すことがあればどうなるか。わかっているな?」
ケリィがそう言った瞬間、ケリィの中から魔力が放たれ、リックに暴雨風のように叩き付けられる。思わず、数歩たじろいでしまったが、リックは何も言わずにケリィの目を見返して頷いた。それを見た瞬間、ケリィは魔力を放出するのをやめて、口元に笑みを浮かべる。
「ふっ、それならいい。ではカチュア、きちんと彼と話したまえ」
そして、今度こそ背を向けて歩き去って行った。リックはケリィの姿が見えなくなった瞬間、盛大に息を吐いた。
「はぁ、悪いな、お前の知り合いを邪険にしちまって。でも、大人は信用できないんだ」
リックは苦々しい顔でそう言った。大人が信用できない。いったいこの二週間ちょっとの間にいったい彼に何があったのだろうか。
「話しというのはさっきの奴のことや卒業式の時のことだ。正直お前を関わらせたくなかったが、巻き込んじまった以上は知らないで置くのは危険だからな。まぁ、長くなるかもしれないけど聞いてくれ」
そう言いながらリックはカチュアに笑みを向ける。その笑みは魔法学校でいつも彼が浮かべていた笑みと同じだった。そのことにカチュアはホッとする。しかし、先ほどまでの切羽詰まったような彼の姿を思い出し、気を引き締めて、彼の言葉に耳を傾ける。




